上 16


科学者達が騒ぎ立てて部屋から過ぎ去った後、薫は真っ先に隼人が座らされている椅子へと向かい、隼人を解放する。

「ありがとう隼人…!助けに来てくれたんだね…」

薫が感謝の弁を述べるも返事は無く、隼人は青ざめていた。


「どうしたの?」


「薫…俺は。ここに一人で来たわけじゃ無いんだ。フラット・ヘリコプター社の運転手と、古川夏代とここに来た。俺はお前を助けた後、ヘリコプターで待つ二人の元へ向かい、この島を脱出するつもりだった。だから、ヘリコプターはこの島を旋回していた筈なんだ…!」

薫は困惑する。隼人が言いたいのは、上空から落ちてきたヘリコプターは助けにきてくれた二人の乗った機体だったという事なのか。しかも、薫の友人である夏代も来ていたと言うのだ。


「じゃあまさか…!その二人は…」


「ああ…墜落したんだろう…」

隼人が力無く言う。


「二人の事は残念だけど、私達だけでも生き残らなくちゃ!早く逃げよう!隼人!」


「そんな事分かってる。でも、俺達が脱出するには、あれしか無かったんだ!」


「レスキューは…?」


「それが出来るならとっくに来てる」

この文鳥島は上陸困難の危険な島。レスキュー隊が来れないという話も想像できる。それにもしあの白衣の男一行が脱出用のヘリコプターや船を持っていたとしても、薫達を乗せて貰える筈は無い。

しかし、ぼんやりしている訳にもいかない。

薫は隼人を引っ張り、研究所の外へ行く。隼人は魂が抜けたように、呆然としていた。外には変わらず、森が広がっていた。もう踏み込みたくはなかった恐ろしい森だが、こうなれば仕方ない。




「ごめんな、薫、俺が不甲斐ないせいで…」

隼人がしょんぼりと言った。


「何言ってるのよ、助けにきてくれたんでしょ?それだけで十分だもん」


「そっか…」


いつもは温厚な隼人が、あれだけ本気になって、声を荒らげて、自分を助けようとしてくれた、それだけでも、薫は満足だった。少しほのぼのとした空気になったが、薫が直面している現状は、それが拭いきれない程に、重たかった。そもそも、森に繰り出したところで、ここは風に囲まれた孤島。ヘリコプターでの脱出路が絶たれた今、打つ手は正直、釈然としない。


やはり、あの連中ヘリコプターに乗せてもらうしかないのか。


「薫…あいつらだ!」

隼人が指差した方向には、例の白衣のボスが黒く煌めく鉄の塊に乗り込まんとしていた。


「おい!乗せてくれ!」

隼人が叫ぶ。


「誰かと思えば貴様らか。貴様らに構ってる暇などない!おい!カギはもう開いたのか!?」

隼人の訴えをピシャリと切り捨てた白衣のボスだが、どうやら、ヘリコプターのカギが開かず、苦戦を強いられているようだ。


「なぜ開かない!」


「すみません、ボス、このヘリコプターはシャットダウンした制御装置と回線が繋がっていたので…」


「だからシステムを整備しておけと言っただろ!」

白衣のボスがガレージらしきエリアに置かれたヘリコプターを一蹴りする。

薫は突如怖気に襲われる。森には、常識を逸した兵器紛いの獣達。制御装置は、シャットダウン。そして、奇妙な静けさ。木々が、妖しく囁き始める。


「隼人、伏せて!」

薫は、慌てて隼人を抱え、姿勢を下げた。


「なんだ!?」

現れたのは、鳥だった。羽を可憐に羽ばたかせ、炎で煌々と光った体が、早朝の空を朱と金に染める。美しき紅蓮の鳥は、鋭い目で、鉄の塊をジロリと見据えていた。


「おい!まさか!嘘だろ!?」

白衣のボスが何かを察したのか、後退りする。


耳には、紅蓮の鳥が、大きく息を吸う音。必死にヘリコプターで作業をしていた部下達は、鳥に気付いていない。


「おいお前ら!今すぐそこから離れろ!」


しかし、時すでに遅く、


ドガアァン!


地響きのような音ともに、閃光が眼前に広がる。攻撃的なまでの眩しさに薫はうっと目を瞑る。


肌がかあっと熱くなる。目を開けると、そこには、鉄の塊が、大きな火を吐いていた。

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