上 11

「いい加減にしろ!一体何回間違えば気が済む?」

男が何やら罵っている声が聞こえる。声に反応するように薫の目が覚める。視界には、何人かの男が話をしていた。


「すみません、ボス、ここの数値が間違っていたみたいで…」


「ああ!?俺のせいにしようってのか!?」


「ち、違います…!」


「まあいい、慌てることは無い」


「ボス!女が起きました!」

いきなり全員にこちらを向かれて、ぼやりと見つめていた薫はドキリとする。

薫は必死に記憶を繋ぎ止める。

確か、竜が現れて…気を失って…

しかしここの光景は決して記憶と交わらない。モダンな雰囲気のある建物。鼻をつく化学薬品の香り。白衣を着た男達。誰が見てもその風貌は研究所を体していた。

「ここは島の外!?」

薫は思わず声が出、最も気になっていた部分を問う。人に隔離された孤島に、研究所など存在していい筈がないのだ。


「起きて早々騒がしいな」

言いながら、先ほど怒号を浴びせていた男が薫に近付く。男は堀の深い顔で、皆と同じく白衣を身に纏っていたが、一際白衣には年季が入っていた。


「あんた達はだれなの!ここはどこなの!」

薫は寝かせられているベッドらしきものから起き上がろうとする。しかし、上手く起き上がれない。なぜだ、と思い、見回すと、薫はベッドに手錠をかけられた状態でねかせられていたのだ。引っ張っても、当然抜けない。


「ちょっとなによこれ!」


「お前は侵入者だ。何処の馬の骨かも分からないような輩を親切に寝かせておくと思うか?」


「侵入者…?」


「ああ、そうだ。お前は侵入者だ」


「島…!?じゃあまさかここはまだ島…!?」


「ん?何を分かりきった事を。分かって侵入したんじゃないのか?」


「なんで人が…!」

ここは侵入困難な島。まさかこのような研究室があの恐ろしい森の中にあるとは思えない。


「ほぉ、何も知らずにやって来たと言うのか」


「信用していいんで?ボス。何かの手先の可能性もありますぜ」

後ろに構えるいかにも手下風の男が開口する。


「まあいい、どちらにせよ島に上陸出来た事だけは褒めてやろう。常人にはできん事だ。せっかくだからこの施設を見学させてやる。おいお前ら!こいつを案内するぞ!」

白衣のボスがそう言うと、部下らしき男たちがベッドに繋いだ手錠を外し、警察官が持っているような手錠を薫にかけた。


「ほら、歩け!」

後ろから拳銃で小突かれ、薫は歩きだす。

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