上 03

口の中に広がる強烈な嫌悪感。

ザラザラとした、生理的に受け付けない感触。

人体は実に単純で、不要物はあらゆるところから排出される。


薫はむせかえると同時に目が覚める。

寝ぼけて目を擦って視界を開けていくと、そこには、神秘があった。

太陽が海の中から申し訳なさそうにひょっこりと顔を出していたのだ。

自然の風景などとは縁遠い薫も、これには脱帽だった。


しばらくの間、口をあんぐりと開けて立ち尽くしていた。

薫は夢だと信じたかったが、これは現実でしかなかった。

唖然とする薫の脳が、ようやく記憶の整理を始める。


‘’ヘリコプターから、落とされた‘’


それも、一切小道具なしの、スカイダイビング。


薫は思わず、全身を確認する。

薫の自慢の白い肌は砂埃を被っただけで、かすり傷1つついていなかった。

怪我さえしていなかった。


さらに、ここはあの例の島なのか。

そう、文鳥島。

本土からもかなりの位置にある、政府も手をつけていない、あの文鳥島に。

大変なことになった。


薫はポケットを探り、携帯を取り出して110番に繋ごうと試みたが、出来るはずもなかった。

なんでこんな緊急事態に限って役に立たないのだ。

携帯は文明の象徴だといわれているが、それは過大評価だ。

電波が無ければそれは単なるゴミだ。

薫は携帯電話を叩きつけた。


私は落とされた。

長戸、そして、六井。

どちらが私を突き落としたのかは定かでは無いが、明らかなる敵意がそこにはあった。

これは事故ではない。


長戸と六井は薫と同じブルースカイの正社員で、至って真面目な勤務態度だったと認識している。

普通の会社ならば、それは至極普通のように聞こえるがブルースカイでは、耐えきれなくなって辞める者や部下に横柄な態度を取る、などがまかり通っている。


全ての問題は、その体質を生んだ、独裁社長の畑中だ。

異常なワンマン体制が敷かれており、逆らえる者はいない。

この度の企画だってそうだ。

頭のどのネジが外れたら、こんな企画をやろうと思えるのか。

他でもない、国が入るなと言っている島に乗り込んで、取材をする。

風に囲まれた孤島。


当然、国と、フラット・ヘリコプター社はそんな企画は言語道断だと撥ねつけたが、絵に描いたような買収劇を展開し、言いくるめた。

社内では言うまでもなく、畑中の持ち込み企画の為、反対意見は出なかった。

だが、内心では皆、焦っていた。

ブルースカイは近頃、ようやく視聴率が上昇し、地上波でのトップ争いに食い込めるようになった。

だが、それもこの企画で全て台無しになってしまうのではないか。

誰もがそう思ったはずだ。


前人未到の島にスカイダイビングで降りる、だなんて聞かされたら。


さらに皆が恐れていたのは、誰がその役を買うかだ。

当然立候補者はゼロだ。

畑中直々に白羽の矢を立てられる訳だ。

そこで見事に射抜かれたのが、薫を含めた3人。

反対の余地はない。


だが、そこで疑問なのは、何故、薫を落とさなければならなかったのか。

畑中への宣戦布告か。



考えても答えは出ない。

とにかく、焦らずまずは人を探さないと。

ここは孤島。

救助隊をあてにする程愚かではない。

都市伝説ではあるが、人はいるかもしれない。

薫は背後に広がる森へと足を向けた。

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