上 04

「今朝、B9より、ブルースカイのパソコンに脅迫文が届いたの」

古川夏代が神妙な面持ちでそう語る。

「なに!?内容は?」


「例のスカイダイビング事故の映像を我々は持っている、公表されたくなければ、こちらの要求に従ってもらう、とね。しかも、ご丁寧に、映像付きで」

そう言って夏代がこちらにスマートフォンを向け、映像の再生ボタンを押す。



「これは…」

川崎は思わず絶句した。

映像はまさに全てを物語っていたからだ。


見覚えのあるヘリコプターから、故意に女性が突き落とされている。

ダイビング用具を何も付けず、背中を押された女性は、画面からフェードアウトしていった。


「やはり西角さんを…」

川崎の目は正しかった。

動作からして計画的だと、川崎は見た。

奴らは、最初からそのつもりだったのだ。


「薫!なんて事を!」

同じく夏代に呼ばれて同席している被害者の西角薫の夫である隼人も憤りを隠せない。


「ええ…私も同じ社員として情けないわ…」

夏代も同調する。


渡辺との話の後、疑心を抱いた川崎は、ブルースカイの社員で繋がりのあった古川夏代に電話をかけた。

すると、夏代は寧ろ早く来てくれ、というような口ぶりで川崎を招いた。

繋がりというのは、ただ単にかつて付き合っていた、というだけだが。


「早く警察に連絡をしてレスキューを!」

西角が机をバンと叩き、居てもたってもいられない、という様子で、声を張る。


「ごめんなさい隼人さん。残念ながら、それはあまり意味がないの」


「え…?」


「畑中に揉み消しされてしまうわ、あの絶大な権力で」


「…?」


「畑中は今回の件で、B9に激怒し、堂々と揉み消しを宣言した。普通の人ならそんなのできる訳がないと思うかもしれないけれど、畑中にはそれが出来てしまう程の権力があるの」


「そんな馬鹿な!こんな決定的証拠があるんですよ!?」


「ええ、それはもちろん。でも…」

夏代が言葉を止める。


「そんなの…ふざけてるんですか!自分の妻が訳もわからず島に落とされて、レスキューすら呼ばせてくれないだなんて!」

隼人が口調を荒らげて言うように、こんな事件が発覚したのなら、B9の脅迫云々の前に、すぐさまレスキューを呼ばなければならない案件だ。

しかし、ブルースカイはそれどころか、畑中とかいう社長の独断で揉み消し、と…


だがー


「残念ながら西角さん、例えブルースカイがレスキューを要請したとしても、薫さんは助けられません」

川崎は言い切った。


「川崎さん、それはどういう…」


「思い出してください、西角さん。文鳥島は、風に覆われた孤島。あの島には、そもそも近づけないんです、レスキュー隊のヘリですら。つまり、救助にならないという事です」

そもそも入る事自体に難のあるあの島では、まともな救助は期待できない。


「そんな…レスキューすら頼りにならないって言うんですか!?」


「ええ…」


「ちょっと待ってください川崎さん!そもそもこのこのスカイダイビング計画は、当然薫らスタッフを島に迎えに行く段取りもしていたんじゃないんですか!?」


「実はブルースカイがこちらに要請をしてきたのは、スカイダイビングでの島への上陸のみだったんです。無論、迎えはどうするのだと聞きましたが、ブルースカイは、帰りは別のヘリコプター会社に依頼をしてある、とね」


「それはほんとなんですか!?夏代さん!」


「ええ、そうよ。でも、私達はそれに疑問を抱かなかったの。なぜなら、長戸と六井から、行き帰りともにフラット・ヘリコプター社が受け持ってくれると説明を受けていたから」


「じゃ、じゃあまさか…」


「そう、我々ははめられたんです。俺はあんな島に迎えに行けるヘリコプターが存在するのか、と疑ってはいましたが、あくまでお金を貰っている側なので詮索は出来ず、うちでは元より、スカイダイビングだけさせる予定だったんですよ」

見事に情報を操られ、2社とも呆気なく罠に落ちたのだ。


「そんな…なら、薫を送り込んだあなた達ですら、助ける方法がないというこですか!?」


「残念ながら…」

夏代がゆっくりと言う。

西角は頭を抱える。

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