上 02
頭にこびりつく、あの映像。
眼は真実のみを映し出す。
殺人事件…
打ち消したい案だが真実には決して背けない。
過去の映像が、脳内で鮮明に再生される。
『すいません、急遽下命が入り、西角のみ飛び降りる事になりましたので、本土へと戻ってもらえますかね』
『は、はい?』
『急いで下さい、運転手さん』
『今降りた方は、一体どうするんで…』
『とにかく、それは後々です。風が剣呑な状態にあります。早く行きましょう』
『で、でも…』
『渡辺さんに許可はとってあります』
『そうはいっても…』
『さ、早く』
『どうなっても知りませんよ、もう。ドアを閉じますので、扉から離れてください』
「それは本当か?」
渡辺が神妙な面持ちで川崎に問う。
「ええ。」
「とんでも無い話だな。もしそれが本当なら。だが、川崎君よ。私はもちろん、真相を知りたいのも分かる。だがな、助けたくないというわけではないが、我が社も赤字続きなのだ。これ以上スポンサーを減らしたくない。だから、というわけではないのだが…」
モゴモゴと渡辺が言う。
「その件は黙っていた方がいいという事ですかね?」
「単刀直入に言うと、そうだな」
「…しかし、これがもし本当ならば大犯罪ですし…」
「当然言いたい事は分かる。だが、ここは一旦様子を見て、もし問題があれば公表する方針の方が良いという可能性もある」
渡辺が言う。
川崎は火の消えたような気持ちになる。
フラット・ヘリコプター社の社長である渡辺。
川崎は頭を抱える。
たしかに渡辺の言う事も一理はある。
本当に切り離していたんだろうか。
あれは事故だったんじゃないのか。
確実な証拠もなく、訴えを起こしてもむしろ我が社の責任が問われてしまう。
だが、どうも腑に落ちない。
あんなに露骨に女性スタッフが飛び降りた後に態度をいきなり変えて、
「やはり危険です」などと言いだし、ヘリコプターを下ろさせた。
怪しさが斑に広がる。
そもそも、あの島へ降りようと言うのが間違いなのだ。
川崎は不平を紡ぐ。
今回、テレビ局ブルースカイが、密着と称して上陸を試みた文鳥島というのは、前提として入るのが危険な島なのだ。
まず、あの島周辺には常に強風が吹いており、船で近づくことは出来ない。
船で入ろうとした者が転覆し、ヘリコプターで行っても墜落、と事故が何度も起きている。
ヘリコプターで行ったところで、地形が把握出来ていない為、着陸は危険。
嵐に囲まれた島とも言える。
そこで、奴らは考えた。
島にスカイダイビングをしよう、と。
その計画を聞いた時、川崎は開いた口が塞がらなかった。
そのうえ島には、イカれたお化けが棲みついている、という話や、センチネル部族のような非接触部族が暮らしているなどといった、根拠の無い都市伝説紛いのものが飛び回っており、ブルースカイのように研究や取材で立ち入ろうとする者が例年現れ、悉く事故に見舞われているのだ。
実害も出ていることから政府は、島の解明よりも人命を優先するとの事で、島への上陸、接近を全面禁止し、事実上放置するという対応を取った。
その為、依然として島については何も解明されていない。
そんないわく付きの島であるというのに、ブルースカイの連中は、高い料金を払う事と上陸シーンは一切映さないという約束を渡辺に取り付け、決行に至った。
川崎は何度も渡辺に止めろと説得したが高い料金という条件に満足しており渡辺は聞く耳を持たなかった。
こうして、無理やり島への上陸を試みた訳だが、案の定上手く行くはずもなかった。
二十年程ヘリコプターを扱い続けている川崎でも、あの日のフライトは相当厳しく、ただひたすらに危ない、というだけであった。
例の件の後、ブルースカイから連絡があった。
「責任は我が社が取るので、フラットさんには任せず、我々の手で女性スタッフを助けに行く」
といった内容の。
当然断りたかった所だが、実質お金を払っているのはブルースカイなので、我々が介入出来る問題では無かった。
それに、渡辺は自分の会社が責任を負わされるのを怖がっていたところに、相手が自ら動いてくれるなんてことをたいそう喜んでいた。
だが、喜んでいて良いのだろうか。
どうも胡散臭くて仕方ない。
川崎の胸には行きどころのないもやくやがこびりついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます