第5話

 鬼の体が砕け散った後、桜色の光は再び硝子の扇子へ宿った。

 鬼のいた場所には神主が横たわっていた。

「神主さん」

 水樹みずきが神主の元へ駆け寄る。大丈夫、気を失っているだけのようだ。

ともえ、やったね」

 水樹は巴へ視線を向ける。

 少し恥ずかしそうに、しかしどこか誇らしげに巴は笑顔で頷く。

「うん!」


 *


 十二月三十一日。大晦日の夜。

 見るも無残になった桜神社、その社殿があった場所には、参拝客はいない。いるのは神主、数少ない陰陽師達。そして朝日水樹あさひみずきだった。

 あの戦いから九日が過ぎ、水樹は今までのことを振り返る。

 結局、あの日、十二月二十二日は嵐の夜の地震と言われ、鬼の存在を知る者はあの神社にいた者以外にはいなかった。

 養殖場の水槽で意識不明になっていた女性職員はその後、意識を取り戻し命に別状はなかったという。

 しかし、それ以前の江桜山こうおうざんでの木の枝による男性死亡と東部住宅街の不審火はあくまでも不幸な事故として処理され、江桜動物園の職員の自殺は仕事や人間関係に悩んだ末の自殺として片付けられた。

 江桜中学校の生徒、須田康平すだこうへい殺害事件は引き続き捜査が行われているが未だ容疑者の特定には繋がっていない。

 水樹は様々な思いに囚われながらも少し安心していた。

 社殿のあった場所——そこには小さなほこらが作られ、硝子の扇子が祀られている。鬼を打ち倒したものだ。

 そして、皆の前に登場したのは、私服ではなく狩衣衣装かりぎぬいしょうで着飾った一人の少女——夜月巴やげつともえだ。

 御神体——硝子の扇子を拝み、力を称えている。

 水樹はいつも見ているはずの幼馴染みがなんだかとても神々しく見え、初めて会った時の感覚を思い出す。

 今彼女はどんな顔をしているだろうか。水樹は巴の表情を、そこに宿る心象を想像し、改めて巴の背中に視線を向ける。

 その背中はとても華奢だが、私を、この街を守ってくれた。

 美しいだけではなく、強い精神を持つ、一人の陰陽師がそこにはいた。

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五芒星の導き カフェオレ @cafe443

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