第276話 真祖の謎

 真祖に向かって鋭い斬撃を振るっていたエリックが言う。


「もう会話はよいか? ロック」

「ああ、いいぞ。真祖を殺せば、計画の進行も上手くいかなくなるだろう」


 俺がそう言った瞬間、エリックとゴランの動きが目に見えて変わる。

 斬撃も身体の動きも、格段に速くなった。

 俺はそれに気付いて一歩後ろに下がる。魔力の流れの詳細を把握するためだ


「うがああああ!」


 エリックの聖剣とゴランの魔法の剣で斬り刻まれて、真祖は悲鳴を上げた。

 だが血は一滴も出ていない。

 慌てた様子のヴァンパイアロードが真祖を助けようとかけよろうとする。


「そうはさせないわ!」

「よそ見とは余裕でありますね!」


 ロードの意識が真祖に向いた隙をセルリスとシアは見逃さない。

 立て続けに二匹を斬り刻む。

 ガルヴも果敢にロードに噛みつき攻撃する。


「ガゥウガゥウウウガウ!」


 ガルヴの牙はヴァンパイアに特攻がある。

 ロードは大きな傷を負って、動きが止まる。そこをシアが首をはねた。


「ガルヴやるでありますね!」

「ガウ!」

「コケッコッコオオオオ!」

 定期的にゲルベルガさまが鳴く。

 ゲルベルガさまは、俺の懐から顔だけ出して、シアたちとロードの攻撃を観察し続けていた。

 そして、ロードが変化しようとしかける兆候を見逃さず鳴いて、灰に変えていく。

 ロードたちは霧やコウモリになって逃亡を図ろうとしているだけではない。

 最初の二十匹だけでなく、コウモリの状態で真祖の救援に駆けつけようと外から駆けつけたロードもいた。

 それらが全て、一撃で灰になる。


「さすがゲルベルガさま。心強い」

「ここ」


 ゲルベルガさまのおかげで、真祖を助けようとしたロードたちは目的を達せず灰になっていった。

 敵の作戦における機動力を、ゲルベルガさまだけで完全に殺していた。

 加えて、真祖が呼び寄せているのか霧が周囲から押し寄せてきていたが、それもずべて消滅させている。

 真祖の立てた作戦の大半を封じている。


「鶏風情が! 我らの高尚な作戦を邪魔しおって」

 真祖が吐き捨てるように叫ぶ。

「鶏じゃない。神鶏さまだ」


 ゲルベルガさまだけじゃなく、シアもセルリスもガルヴも連携も見事で非常に心強い。

 ロードが真祖に加勢するのを完全に防いでいる。

 おかげでエリックとゴランは真祖に集中できていた。


「コウモリ野郎。昨日より大分弱くなってねーか?」

「どのようなカラクリがあるのかは知らぬが、不死身の存在などいるわけがあるまいよ」


 エリックの言うとおり、昨日死んだはずの真祖がこの場に現れたのは何か仕掛けがあるのだ。

 昨日、真祖は霧に変化しようとしたが、俺がドレインタッチと魔神王の剣で魔素を吸い尽くして殺した。

 確かに殺したのだ。手応えがあった。勘違いだと思いにくい。


 なんのデメリットもなく復活できるはずがない。

 そして大量のアークを使い捨てにして実行に移した今回の作戦。真祖は明らかに焦っている。


「お前。もう死んでいるんだろう?」

 俺は真祖に語りかけた。


 真祖の身体はエリックとゴランによって、数十のかけらにバラバラにされている。

 そして真祖の頭は床を転がり、俺の方へと転がってきた。

 しゃがみこんで俺は、真祖の頭を手に取る。


「俺の得意な魔法に傀儡人形マリオネットというものがあるんだが、今のお前はそれに近いんじゃないか?」


 真祖は頭だけで俺をにらむ。

 その後ろでは真祖の身体が再び元通りに組み上がっていく。


「だが、それがわかったところでお前らに対策があるのか?」

 首だけの真祖がにやりと笑う。

「昨日倒したお前によく似ている。よくぞここまで精巧な人形を用意したものだ」

 真祖は少しだけ弱いだけで、まるで本物だった。

「人形ならば外からの魔力供給を絶てばいい」


 真祖の身体は魔法で無理矢理操っている状態だ。

 身体を斬り刻んでもうが、魔法がきれるまで何度も動き出すだろう。

 俺は真祖の頭にドレインタッチを発動させる。


「間抜けめ! 我がその技への対策をしていないとでも――」

 真祖が勝ち誇る中、俺は魔法陣を魔神王の剣で切り裂いた。

 すると真祖の身体がバラバラになって地面に転がる。


「だから、お前は舐めすぎなんだ」

 ドレインタッチは強制的に魔力を吸い取る魔法。

 身体の一部にかければ、魔法的につながっている他の部位の方の魔力も吸い取ることが出来る。

 それを利用して昨日は倒した。だが、今日の真祖の状況は昨日とは違う。


 真祖はすでに死んでいるのだ。その身体を動かしているのは外部の魔法機構。

 俺はドレインタッチを魔力の流れを把握して外部魔法機構の位置あぶり出すために使ったのだ。

 魔力の流れは、真祖のいる位置の地下。魔法陣の下層の方から流れ込んできていた。

 魔神王の剣で魔法陣を斬り裂くことで、魔力の流れをぶったぎったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る