第277話 魔法陣

「詳しいことは後でしっかり調べねばなるまいが、壊すことは出来る」

 魔法陣の仕組みを解析するには時間がかかる。

 だが魔力を真祖に流している部分がわかれば壊すことは出来るのだ。


「色々とごまかすために手を尽くしていたようだが、魔力の波長と魔法構造を把握すればなんということはない」

「化け物が……」


 真祖はそう呟くと、みるみるうちに顔が土気色になっていく。そして干からびて完全に動かなくなった。

 バラバラになった身体のほうもピクリとも動かない。

 真祖の身体を動かしていた魔力は完全に消失した。


「まさに化け物そのものの、お前が言うな」


 俺とエリックは真祖の動かなくなった身体を調べる。

 真祖はすでに死んでいるので、灰になったわけではない。

 俺が先ほど壊した魔法機構とは別の魔法機構につながれば、再び動き出すのかも知れない。

 慎重な調査が必要だ。


「その前に……」


 俺は空を見上げる。

 遙か彼方。晴れた空に浮かぶ巻雲けんうんのさらに上で竜たちが激しい戦いを繰り広げていた。

 風竜王ケーテ、風竜の先王ドルゴ、水竜の侍従長モーリスが十五頭の昏竜を相手にしている。


「……昏竜が、増えてないか?」


 俺はおもわず呟いた。戦闘開始当初、昏竜は十頭だった。

 恐らく、ケーテたちのことだ。すでに何頭も倒しているはずだ。

 倒しても倒しても敵の増援が押し寄せているのだろう。


「ケーテ、大丈夫か?」

 俺は通話の腕輪で話しかける。

『大丈夫である! もうみんなで十五頭を殺したのだ!』

 と言うことは王都上空にやってきた昏竜は計三十頭ということ。

「手助けが必要なら言ってくれ。こっちは真祖を倒した」

『わかったのだ! まずくなったら遠慮無く頼むのである』

 それで通話が終わる。ケーテたちもあまり余裕がないのだろう。


 話を聞いていたエリックが言う。

「三十頭か。総力戦を仕掛けてきているな」

「ああ。総力戦なら勝てば平和になるだろうさ」

「だといいがな」


 一方、ゴランは、セルリスたちの方へと歩いて行った。

 俺たちが真祖を倒したときには、シアたちもロードを全部倒している。


「見事だ。やるじゃねーか」

 死骸である灰を確認しゴランはシアとセルリスガルヴを褒めた。

「あ、ありがとう」

 セルリスは頬を赤らめて照れる。

「光栄であります」「がう」

「驕るのはまずいが、自信は持っていい」

 そういって、ゴランは微笑む。


 ゴランは戦いが終わったと油断しているわけではない。

 褒めながら周囲を観察し、灰となったヴァンパイアの死骸を調べているのだ。


 シアも速やかにロードの死骸の観察に移る。

「まがまがしいメダルでありますね。これまで倒したロードのものより呪いのたまり方が尋常ではないであります」

「それが三十枚もあるのね」

 最初の二十匹に加えて、駆けつけようとしてゲルベルガさまに灰にされたのが十匹。

 それで三十匹のロードを殺したのだ。


『ロック。王宮にのこった霧はどのくらいある?』

 エリックは念話で話しかけてくる。どこで誰が聞いているかわからない。

 それを警戒して、念話に切り替えたのだろう。


『まだ、四カ所ほど残っているな』

『増えたりはしていないか?』

『それは大丈夫だ。真祖を倒したから終わったんだろう』

 俺は少し今後のことを考える。


 そして、真祖の足元に刻まれていた魔法陣に魔神王の剣で改めて斬りつけた。

 床が深く傷つき、同時に魔法陣にも大きな傷が入る。


『ロック、これで魔法陣は壊れたと考えていいのか?』

『おそらくな。複雑で繊細な魔法陣ほど、わずかな傷が致命傷になるからな』

 するとゴランが言う。


『魔法陣には魔力が流れてはいないんだよな?』

『流れていない。だが、魔素が濃密すぎて探索の精度を高くできないんだ』


 俺は真祖につながる魔法機構の位置も魔力探知や魔力探査では見つけられなかった。

 だから仕方なく、ドレインタッチで暴いたのだ。

 この場は魔素が濃すぎる。


 ヴァンパイアが変化した霧が立ちこめていたのを、ゲルベルガさまの力で払った。

 払うというのは、霧からただの魔素に戻すと言うこと。

 加えて真祖を倒し、ロードを三十匹を殺したことで魔素はさらに濃くなった。


『だから魔法陣の全容はつかめない』

 時間をかければつかめるが、今は時間が無い。


『つまり壊れていない可能性もあるってことか?』

『ある。そのときは対応を頼む』


 魔法陣を剣で傷付けたら、通常は壊れて機能しなくなる。

 だが、目に見えないこちらとは違う次元に魔法陣を書き込まれていた場合、剣で傷付けても無駄だ。

 それこそ時間をかけて解析し、どこにあるか見つけ出して、構造と理論を把握して壊さねばならない。

 俺がやっても半時はかかるだろう。


 いまは残っている霧を消して、神の加護を復活させるのが先決だ。

 それに日没まであまり時間が無い。

 日が沈めば、昏き者どもの動きが活発になるだろう。

 それまでには絶対に王宮内の霧を全て晴らしたうえで、神の加護を復活させたい。


『ここの後処理は任せていいか? 俺は霧を消してくる』

 霧を消すにはゲルベルガさまの力が最適。

 ゲルベルガさまは、敵に狙われやすい。だから護衛として俺がついて行かねばならないのだ。

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