第275話 真祖再び

 王宮の一角。一般の屋敷でいうところの、中庭に相当する場所だ。

 中庭と言ってもガルヴが思いっきり走れるぐらいは広い。

 先ほど霧を払ったばかりだというのに、すでにもくもくとした霧に覆われていた。


「こ?」

『頼む』

「コゥォオケコッォォォォオオオオオオコオオオオオオ」

 ゲルベルガさまの鳴き声で、一気に霧が払われる。


『何もないのか?』

 払われた後にはなにもないように見えた。軽く魔法で探索しても特に引っかからない。

 だから、俺は念入りに魔力探知と魔力探査をかけていき、やっと気配を掴む。


「またお前か。さっさと死んどけよ」


 同時に、俺は魔法の槍マジック・ランスを作り出して、その気配の主に撃ち込む。

 その魔力の槍が届く前に、俺たちの方に向けて暗黒光線ダーク・レイが撃ち込まれた。

 暗黒光線は、以前邪神の頭部が使っていた魔法である。 

 食らうわけにはいかないので、障壁を張って完全に防ぐ。


「それはこちらの台詞だ。猿の英雄」


 隠れていたのは真祖である。魔力の質から考えて、本体だろう。

 昨日殺した真祖に非常に近い。少しだけ弱いだけだ。

 そして、真祖の足元には、複雑な魔法陣が刻まれている。


 俺は魔神王の剣を抜いて、真祖に襲いかかった。

 エリックとゴランも同様だ。何も言葉を交わさなくても俺たちは連携をとれる。

 俺たち三人の斬撃を、真祖はかわし障壁で防ぐ。攻撃はしてこない。

 何かを企んでいるのは間違いなさそうだ。


「どうした? いつものように話しかけなくていいのか? なにか我から情報をとれるかもしれぬぞ?」

「お前は肝心のことを話すことはあるまい?」

「それはそうだ。猿の割に賢いではないか。ラックよ」


 真祖は俺たちの猛攻を凌ぎながら、楽しそうに笑う。

 水面下で進めている計画が順調だと言いたいのだろうか。


「どうせ、お前らのことだ。邪神の復活でも企んでいるんだろう?」

 昏き者どもは以前から邪神の復活を目指していた。

「そうだな。だが、それは隠してはおらぬぞ? そんな当然のことを偉そうに言うなど、賢者と言われていても所詮は猿か?」

 真祖は馬鹿にした目を向けてくる。


「俺たちを王宮から引き離し、神の加護に穴を空け、霧でなにをやっているのかを隠した」

「そうだな。それがどうしたんだ?」

 そういうと、真祖は右手を振るう。

 すると周囲からヴァンパイアロードがわいてきた。その数十五匹。


「私たちに任せておいて」

「このぐらいなら、なんとかなるでありますよ!」

「ガウ!」


 セルリス、シア、ガルヴがロードに襲いかかる。

 見事な連携で、ロードを一匹ずつ屠っていく。

 俺は真祖に剣で斬りかかりながら、ロードにも魔法を飛ばす。


「お前らの計画の鍵は霧だろう?」


 俺たちを引き離したのは邪魔だからだ。昏き者どもがなにをするにしても、俺たちは邪魔だろう。

 俺たちを引き離したことは、重要な手がかりにはならない。

 神の加護に穴を空けたのは、霧を使うためだ。

 霧の正体はアークヴァンパイア。神の加護のもとでは活動できないのだ。


「的外れだな。やはり猿か」

 真祖は楽しそうに笑う。


「アーク何匹を霧に変えた? これだけアークを失えば今後の作戦に支障が出るだろう?」

「猿風情に心配してもらう必要は無い」

「これは最後の作戦だ。この霧の中、最終目的を達成しようとしているな?」

「だから、我らはずっと邪神さまを復活させようとしている。先ほども言ったが隠してなどおらぬぞ?」

 真祖の表情には、まだ余裕があふれている。


「それに、猿には我らがどうやって達成しようかわかるまいよ」

「お前こそ余裕ぶっていていいいのか? お前はここで死ぬ」

「我は死など恐れはしない。邪神さまさえ復活すれば、我の生死など些事である」

 アークヴァンパイアを大量に犠牲にしただけでなく、自分すら犠牲にするつもりなのだろうか。


(邪神の復活。問題はその手段だが……)


 俺は戦いながら考える。

 霧に隠れて真祖が準備していた魔法陣が鍵なのは間違いない。

 転移魔法陣に少し似ていた。だが、全くの別物だ。


 俺は昨日、マルグリットの屋敷から王都に転移する転移魔法陣を描いたばかり。

 だからはっきりと別物だと断言できた。

 とはいえ、魔法陣について解析できたわけではない。

 あまりに複雑すぎて、解析しようと思うなら腰を据えて時間を費やさなければならないだろう。


「王都の民を捧げて、邪神を復活させると言ったところか?」

 魔法陣の解析は出来なくとも、邪神の復活のために敵がとれる手段は限られる。

「そのために邪魔な神の加護を破壊し、昏き者どもを総動員して王都の民を皆殺しにでもする予定か?」

「……ふん!」

 真祖は鼻で笑う。だが、目の奥に一瞬焦りが見えたように見えた。

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