第264話 ヴァンパイアとの戦い

 ケーテはともかくガルヴが魔法の槍に当たれば重傷を負ってしまうだろう。

 どうせ守るならまとまってくれるとすごく助かる。


「ひっ」「ひぅ」


 アリオとジニーが俺の展開する魔法の障壁の中で怯えた声を出している。


 俺は二人を安心させるために言う。

「アリオ。ジニー。ここにいれば大丈夫だ。俺が守る」

「ああ、ありがとう」

「あ、ありがとうございます!」


 そして、俺は通話の腕輪を起動して、腕輪につながる全員に聞こえるようにして語り掛ける。


「エリック。ゴラン。一応報告だが、ヴァンパイアの拠点を見つけた」

『なんだと? どこにあんだそれは』

『詳しく聞かせてほしい』

 俺は二人に村の位置と状況を報告する。


『眷属と魅了された者たちだけか……』

「だが、今は非常に強力な魔法の槍で攻撃を受けているところだ。ハイロードクラスがいると考えた方がいい」

『なんだと? それを早く言え』

「こっちは任せろ。ケーテもいるからな。それにエリックたちが駆けつけた頃には戦闘は終わっているだろうさ」

『わかった。戦闘は任せる』

『……後処理のためにすぐに人を派遣しよう』

「ああ、頼む」

 そして俺は通話を切った。


 通話している間も、魔法の槍は降り注ぎ続けている。

「なかなかの魔力量だな」

「ロック! 敵が見つからないのである」

「隠れているんだろう。少し待っていてくれ」

「わかったのである」

 この前、倒した真祖は、隠ぺいがものすごく得意だった。


 ヴァインパイアどもも、隠ぺいの重要性に気付いたのかもしれない。

 俺は魔法の障壁を維持したまま、魔力探知を発動させる。

 村を調べたときよりも、かなりレベルを上げて周囲を探る。


「ケーテ! 全部で五匹だ!」


 そう言いながら、俺は五匹に向けて魔法の槍を放つ。

 敵が数百本とこちらに撃ち込んできている魔法の槍を攻撃手段として選んだのはあえてだ。

 一方的に攻撃されて腹がたっていたので意趣返しである。


「グエ!」「ギャッ!」「ギエッ!」「ガフッ!」


 隠れていた五匹に向けて魔法の槍を放って、悲鳴を上げたのは四匹。

 残りの一匹は、俺の魔法の槍をかわしたようだ。

 敵の内訳は、アーク四匹とロード一匹と言ったところだろうか。


 だが、ただのアークやロードではないのは確実だ。

 ただのアークたち相手なら、ケーテが魔法の槍の出所に気づかないはずがないからだ。

 それに、ただのロードが俺の魔法の槍を避けられるはずもない。


「強化済みか?」


 そうつぶやいて、俺はアーク四匹を見た。

 四匹は、俺の放った魔法の槍に貫かれて血を吐いている。

 致命傷に近い。だが、完全にとどめを刺すまで油断できないのがヴァンパイア種だ。


「たああああ!」


 ケーテは俺の魔法の槍の着弾と同時に、ものすごい速さで走り出している。

 ケーテの目指す相手は、魔法の槍をかわした一匹。

 この場にいる敵の中で、一番強いであろうロードだ。


 ケーテは人型で、しかも素手。

 だが、凄まじい速さで間合いを詰めると、蹴り飛ばすと見せかけて、直前に上に跳ぶ。

 フェイントをかけたうえで、勢いよくこぶしを打ち下ろした。


「どっらあああ!」

「ッツ!」


 ロードは必死の形相で、ケーテの拳をギリギリかわす。

 空ぶったケーテの拳は地面にあたり、大きな音を出して土煙を激しく巻き上げた。

 いや、土煙というよりも土と石の混ざった爆風だ。


「ふんふんふんふん!」


 ケーテはロードを至近距離での格闘戦に引きずり込んだ。

 しかも、有利に戦いを進めている。

 風竜王は人型でも、格闘戦に秀でているようだ。

 あっちはケーテに任せて大丈夫だろう。


「さてと、逃げられると思わないことだ」


 俺は魔法の槍で心臓あたりに大きな風穴があいている四匹に向けて言う。


「最初から殺しに来たってことは、俺たちのこと知っているんだろう?」

「人族風情が調子に乗りやがって!」

「その人族ごときに調子に乗られて恥ずかしくないのか?」


 ヴァンパイアどもから情報を仕入れたいのでとどめを刺しにくい。

 だが、あまり長引かせるわけにはいかない。アリオとジニーがいるのだ。

 それに近くにはヴァンパイアに制圧された村がある。


 中から村人たちがやってきたら厄介だ。

 眷属ならば容赦なく倒せばよいが、魅了されている村人ならばそうはいかない。

 殺さずに制圧し、無力化して、解呪しなければならない。

 一人一人が弱くとも、七十人いれば厄介なことこの上ない。


「ケーテ! あまり時間はない。さっさと片付けてくれ」

「ロックは難しいことを言うのである!」


 口ではそう言いながら、ケーテはロードを殴り飛ばす。

 ケーテはすぐに追いかけて蹴り上げる。


「任せっきりにはしてられないか」


 ケーテは、文句なしに戦闘力は高い。だが、対ヴァンパイア戦がうまくない。

 至近距離での格闘に持ち込んだのは素晴らしい判断だ。

 実際、ロードは魔法を使う暇すらない。一方的に殴られている。


 だが、対ヴァンパイア戦で必要なのは倒しきるための攻撃だ。

 首をひねり切るか、心臓を抉り出すかしたうえで燃やしたりする必要がある。


「お前たちにかかわっている暇が無くなった」

 俺はそう言うと、アークヴァンパイアたちの首を魔神王の剣で斬り落とした。

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