第263話 村の異変

「全員、一旦止まってくれ」

 俺がそう言うと、アリオとジニーは無言でうなずき、足を止めた。


「ガルヴはどうしたのであるかー?」


 ケーテは首をかしげながら足を止めた。そしてガルヴをわしわし撫でる。

 ケーテに撫でられても、ガルヴは唸ったままだ。


 俺はガルヴに尋ねる。

「どうした? ガルヴ」

「ゥゥー」

 ガルヴは村に向かって唸り続けている。


 村の中に警戒すべき何かがいると、伝えているのだ。

 俺は魔力探知マジック・サーチを広範囲に発動させる。

 魔力探知は魔力を持つものの数と大きさを調べることが出来る魔法だ。


「ふむ」


 村の中には百ほどの魔力を持つものが存在した。

 この時点では特に異常は見受けられない。普通の小さな村である。

 ただ、魔力探知では人間と昏き者の区別はつかない。


 もっといえば、人ぐらいの大きさの家畜と人の区別もつけにくい。

 そのため、俺は続けて魔力探査マジック・エクスプロレーションを発動させる。

 百の魔力を持つもの全員に魔力探査をかけていく。


 手を触れずに遠隔で、しかも百体同時は難度が非常に高い。加えて魔力消費も膨大だ。

 だが、時間短縮になる。


「……まともな状態の人間が一人もいない」

「え?」

「どういうことですか?」

 俺の言葉に、アリオとジニーが驚いて目を見開いた。


「つまり、全員ゴブリンということなのであるな? 村ごと吹き飛ばせばよいか?」

「いや違う。少し待ってくれ。ケーテ」

「わかったのである」


 ジニーが弓を取り出しながら尋ねて来る。

「ロックさん。ゴブリンでないというと……」

「ヴァンパイアの眷属が三十体。魅了された人間が七十人」

 魅了された人間たちは、恐らくヴァンパイアどもの食糧と人質を兼ねているのだろう。


「ふむー。ヴァンパイアはいないのであるか?」

「村の中にはいなかったな」


 だが、近くにいるのは確実だ。

 これだけ大量の眷属と魅了された者たちを抱えているのだ。

 ヴァンパイアも、アークヴァンパイア程度ではないだろう。


「少なくとも上級ヴァンパイアが近くにいると考えた方がいい」


 ハイロードがいてもおかしくはない。

 だが、あえてロードやハイロードが存在する可能性を告げて怯えさせる必要はないだろう。

 アリオとジニーにとっては、ロードもハイロードのどちらも強すぎる相手だ。


「やはり、村ごと焼きはらった方がいいと思うのである」

「ケーテ。魅了された人間は治療すれば元に戻れるんだ」

「……そうであるか。それは助けないといけないのである」


 ケーテはうんうんと頷いている。

 救出しながら戦うのは、非常に難しい。


「俺たちだとロックさんの足を引っ張る。退いた方がいいかもしれないな」

「そうだね、お兄ちゃん」


 アリオとジニーの判断は正しい。

 だが、二人だけで帰らせるわけには行かない。

 帰路の途中で、ヴァンパイアロードに襲われて眷属にされる可能性が高いからだ。


「二人で帰るのは危険だ。そもそもこの依頼自体が罠だろうからな」

「罠ですか?」

 冒険者を眷属にできれば非常に使い勝手の良い駒になる。


 だから、ゴブリン退治の偽依頼で冒険者を呼び出した可能性が高い。


「実際、前回シアと一緒に退治したヴァンパイアロードは、それを狙っていたようだったからな」

「そういうこともあるのか……」

「恐ろしいですね」

 アリオとジニーは改めて怖くなったようだ。


 前回、シアと一緒にヴァンパイアロードを倒したことは伝えた。

 だが、ロードがどのようなことを企んでいたかまでは伝えてなかったのだ。


「ということで、二人だけで引き返すのは危険だ」

「じゃあ、全員で戻ろう」

 アリオの言葉に俺は首を振る。


「眷属はともかく魅了されている者たちを放置できないからな」


 七十人の魅了されている者たちは助けられる者たちだ。放置は出来ない。

 放置すれば、魅了されている者が眷属にされるかもしれない。

 眷属にされたら、もう元に戻す術はない。


「ケーテ。ここは俺に任せて、竜形態に戻ってアリオとジニーを乗せて一旦王都に……」


 そこまで言った瞬間、魔法の槍マジック・ランスが上空から降り注いできた。

 その数、数十本。ケーテとガルヴはとっさにかわす。

 そして、俺は足を止めてアリオ、ジニーを覆う魔法障壁を展開した。


 ――ガガガガガガガガッ


 障壁に魔法の槍が当たって、派手な音が鳴る。

 魔法の槍の威力は非常に高い。恐らくロード以上のヴァンパイアが繰り出したものだろう。


「……おいおい。最初から殺意高いな」


 俺の予想は外れたのかもしれない。

 殺してしまえば魅了をかけられないし、眷属にもできない。


「捕らえに来るのではなかったのであるか!?」


 かわしきれなくなったケーテが魔法の障壁を展開して防御を始めた。

 そして、俺はガルヴ周囲にも魔法の障壁を展開する。


「殺意高い理由はあとで調べよう。それよりガルヴ、こっちに来なさい」

「ガウ!」

 ガルヴは素直にこっちに駆けて来た。

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