第265話 ロードへの尋問

 首だけで地面に転がりながらアークヴァンパイアが叫ぶ。


「許さぬぞ、下等なる人族め!」

「うるさい。さっさと死んでろ」


 首だけになったアークどもがコウモリや蠅に姿を変えようとした。


「ガガガガアウ!」


 そのうちの一匹は、ガルヴが噛みついて、とどめを刺す。

 ガルヴの牙と爪に抑えられると、ヴァンパイアは変化できなくなる。

 それがガルヴの特殊能力だ。


「ガルヴ、よくやった!」

「がう!」


 俺も負けていられない。

 絶対に逃がさぬよう魔力探知マジック・サーチをかけながら、念入りに燃やしておく。

 そして、俺はそっと胸当ての上からゲルベルガさまに触れる。


 今日のゲルベルガさまはヴァンパイアが変化した瞬間鳴かなかった。

 だから、少し不思議に思ったのだ。


 俺が確認すると、ゲルベルガさまは静かに眠っていた。

 散歩の途中でやって来たので、ゲルベルガさまも疲れたのかもしれない。


「むしろ良かったかもしれないな」


 ゲルベルガさまが鳴いたら、神鶏が居ることがばれる。

 周囲に隠れている昏き者どもはいないはずだ。

 だが、村の魅了された者や眷族に何者かが紛れている可能性はある。

 それに、アークヴァンパイアごとき、ゲルベルガさまが鳴くまでもない。


「ゲルベルガさま。ゆっくりおやすみ」

「……」


 ゲルベルガさまは大人しく眠り続けていた。


「アリオ、ジニー! しばらくそのまま待機してくれ」

「わかった!」

「了解しました!」

「油断はするな」

「わかってる!」


 アリオとジニーは素直に指示に従ってくれる。

 それだけ俺のことを信用してくれているのだ。

 二人のいるところに、魔法障壁を展開したまま、ケーテの方へと走る。


「ガウガウ!」

 ガルヴも真剣な雰囲気で尻尾を立てて振りながら俺を追ってくる。


「ガルヴ、油断するなよ」

「ガウッ!」


 ガルヴは元気な自信のある吠え声を返してくれた。

 今日のガルヴは頼りになりそうだ。

 俺は殴りあっているケーテとヴァンパイアロードに一気に近づく。

 そしてケーテがロードの顔面を殴っているところに横から突っ込んだ。


「殴っても殴っても立ち上がってくるのである! こいつロードのくせに強いのだ」


 ケーテがいうとおり、確かにロードの割には強い。

 邪神に強化されたロードなのかも知れない。

 とはいえ、以前戦った邪神に強化されたロードよりは弱そうだ。


「そりゃそうだ。ヴァンパイアはゴキブリみたいにしぶといんだ」

「ふざ……」


 ロードが怒り、俺を睨みつける。だが、それだけだ。

 俺の言葉に反応できたとしても、動きに反応する暇は与えない。

 問答無用で、ロードの首を右手に持つ魔神王の剣で斬り落とした。


「ケーテ! とりあえず首を落とすのが簡単だ」

「それはそうだろうが、ケーテは武器を持ってなかったのである!」

「そういう時はこうしろ!」

 俺は左手に魔力をまとって、ロードの皮膚を破り胸骨を砕いて心臓を鷲掴みにする。

「うぐあああああああ」


 既に頭と身体が離れている。だとというのに、ロードは苦し気に呻く。

 そして、俺は心臓を掴んだまま左手を引き抜いた。


「心臓を抜き取れば、そこそこ大きなダメージを与えられる」

「……ロックは凄いことするのであるな」

「だが、これならケーテにでもできるだろう?」

「できるけど……。感触が気持ち悪そうなのだ」

「まあ、気持ち悪い。ケーテも武器を持ち歩くといい」

 そして、俺は首を斬り落し、心臓を取り出したロードに向かって言う。


「わざわざ依頼を出して冒険者を呼び出すとは、人手が足りないのか?」

「…………」

「ふむ、答えたくないか」


 ヴァンパイアロードは何もしゃべらない。

 ヴァンパイアは基本的に口が堅いのだ。

 口が堅いのは種族的な特徴ではなく、邪神の狂信者だからかもしれない。

 人族でも邪神の狂信者は口が堅いものだ。

 素直に聞いても情報を得られないのならば、責め方を変えなければなるまい。


「お前たちも大変だよなぁ」


 俺が優しい口調で同情してみせると、

「……?」

 ロードは怪訝な表情を浮かべながらも、俺をにらみつけてきた。


「真祖だっけ? あんな雑魚が上司だと、苦労するだろうなぁ」

「貴様! 下等生物があの方を愚弄するな」

「その下等生物にあっけなく倒されたのがお前らの上司だろう?」

「貴様か! 貴様があの偉大なる御方に傷を――」


 どうやら真祖が倒されたことを、このロードは知っているようだ。

 俺が挑発したのは、昏き者どもの間で真祖が死んだことが知られているか知りたかったからだ。

 会話の結果から判断するに、真祖がどのように死んだかもこのロードは知っているらしい。

 レッサーやアークはともかく、ロードクラスにはかなり詳細な情報が広まっていると考えるべきだろう。

 そこまで考えて、俺はロードの言葉に違和感を覚えた。


「…………傷だと?」

「お前らのような猿が触れて良い方ではない! 神罰が下るだろう!」

 それは、まるで真祖が死んでいないかのような口ぶりだった。

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