第240話

 敵の全滅を確認したあと、俺とケーテは魔道具の存在などを調べていく。


『やはり高位ヴァンパイアと戦うときはゲルベルガさまがいた方がいいな』

『ああ、コウモリ一匹逃がせないというのは正直きついな。聖剣が効くからいいものの……』


 エリックの言うとおりだ。

 ゲルベルガさまがいればその一番大変なところを任せられる。


『ロック。ドレインタッチは使わねーのか?』

『敵の魔導士、恐らくハイロードがこっちに魔力探知をかけ続けているからな』

『ふーむ。正体を隠しながら進みてえってことか?』

『そういうことだ』


 いま俺たちには魔力探知がかけられている。当然ながら、魔力探査もかけられている。

 もちろん俺は自身の魔力を隠ぺいしているから、詳細はばれてはいないはずだ。

 とはいえ、ドレインタッチを使えばさすがに目立つ。


 なるべく誰が魔導士かは知られない方がいい。

 敵はケーテだけが魔導士だと思っているはずだ。ならばそのままにしておいた方がいいだろう。



 それから俺たちは順調に進んでいく。

 部屋が大量にあるので、時間がかかるが味方に負傷者を出さずに進めている。


『シア、セルリス、ガルヴ。疲れてないか?』

『大丈夫であります』

「がう」


 そして、セルリスは無言でうなずく。だが、三者とも息が荒い。


『水を飲め。適当に何か食べると良い』


 俺はそういって魔法の鞄から甘いお菓子と水を取り出してシアたちに配った。

 エリックとゴランは自分で勝手にやっている。

 ケーテが食べたそうな顔でこっちを見るので、ケーテにも渡す。


『次の部屋は俺とエリック、ゴラン、ケーテが中心でやるから、少し休んでいてくれ』

『いや、戦えるであります』

『一番動いてほしい時に、万全の状態で動ける状態でいて欲しいからな』


 具体的には魅了された人間を救い出す時だ。

 その時おそらく俺たちはハイロードと戦わなければならない。

 シアたちを手伝う余裕はないかもしれないのだ。


『そういうことなら……了解でありますよ。お任せするであります』

『休んでいていいが、気は緩めないようにな』

『わかっているでありますよ』


 次の部屋は、俺たちおっさんたちとケーテだけで対処した。

 シアたちは部屋の入り口で警戒だけしてもらう。


 俺はヴァンパイアロードの首をはねながら、念話でセルリスに語り掛ける。


『せっかくだし念話での話し方のコツを教えておこう』

『いま教えるのか? さすがに難しくねーか?』

 ゴランがアークヴァンパイアとヴァンパイアロードを連続で斬り捨てながら言った。


『念話での発話自体はさほど難しくないからな。もしかしたらいけるだろう』

 そして俺はヴァンパイアを斬り捨てながらセルリスに念話のコツを伝えていった。


『……とまあ、こんな感じだ』

『理解したわ』

『ふぁっ!』「ガぁ?」


 セルリスから念話で返事が聞こえてきて、ゴランとガルヴが変な声を出した。


『セルリス、コツをつかむのがうまいな』

『ロックさんの教え方がいいからよ』


 念話での発話自体は難しくはない。

 とはいえ教えて即座にできるほど簡単ではない。普通数日は練習しないと難しい。

 ちなみにゴランは念話で発話をできるまで二週間かかった。

 もしかしたら、セルリスは魔導士としての才能もあるのかもしれない。



 その後も俺たちは建物の中を順調に進んでいく。一部屋、一部屋確実につぶしていった。

 エリックが念話で言う。


『そろそろか?』

『かもしれない』

 俺がそう返すと、セルリスが首をかしげた。


『そろそろって、何がなのかしら? 敵のボスの部屋までもう少しってことかしら?』

 セルリスは戦闘経験が少ないので、答えに思い至らないのだろう。

 ならば、丁寧に教えてあげるべきだ。


『敵のボスまでの距離はまだある。だが、そろそろ敵が何かしてくると思ってな』

『何かって言うと?』

『それがわかれば苦労はない』

『そっか、それもそうよね。変なこと聞いてごめんなさい』

『いや、よい問いだ。どんどん聞け』

 俺がそういうと、セルリスは笑顔になった。

 そんなセルリスにゴランが言う。


『セルリス。逆に聞くが、敵が仕掛けてくるならどんなことが考えられると思う?』

『……そうね。各個撃破されつづけているから、集結してみるとかかしら』

『それもあるだろうな。よい読みだ』


 ゴランはセルリスを褒める。

 俺は悪い読みではないと思う。だが敵はこっちに高位の魔導士がいることを知っている。

 集結したら大魔法で一網打尽にされる可能性を考えるだろう。

 もし集結してくれたならば、こちらとしてはとても助かる。


『ロックさんはどう思うでありますか?』

『そうだな……。ボスが前に出てきてもおかしくないかもな』

『配下をあまり減らされたくないってことでありますか?』

『ああ、アークヴァンパイアも敵からしたら重要な戦力なはずだ』

『もし、配下が大事でないなら……ボスは逃亡してしまうかもしれないんじゃ……』

 セルリスの懸念の通りならば、それが一番厄介だ。

 だが、敵のボスは自分の力量に自信があるようだし逃亡しないに違いない。

 俺はそう考えながら、ボスが逃亡を開始しないよう魔力探査をかけ続けた。

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