第239話

 俺は基本の作戦を説明することにした。一応作戦伝達には念話を使った方がいいだろう。


『ハイロードは俺たちに任せろ。シアとセルリスは人間を保護してほしい』

『わかったであります』

「……」

 シアは念話で返事をして、セルリスは無言でうなずいた。


『ガルヴは……そうだな。状況を見て指示を出そう。だが基本はセルリスたちに同行だ』

「がう」

 ガルヴは少し不満気だ。俺と一緒に戦いたいのだろう。


『ガルヴ、そういうな。ボスを相手にするためとはいえ、こっちに戦力が偏りすぎているんだ』

「がぅ……」

『それに人間を探す際にもガルヴの鼻は役に立つんだ』


 そして俺はガルヴの頭を撫でながら声に出して言う。


「頼りにしてるぞ」

「がう!」


 ガルヴは嬉しそうに尻尾を揺らした。


『とはいえ、別行動するのは最後の最後だ。ハイロードと人間のいる部屋は近いからな』

「不幸中の幸いって言えるかもしれねーな」

「本当に幸いかは何とも言えぬがな」


 出発しようとするとケーテが言う。


「さっきから普通に話したりもしておるが、よいのであるか?」

「ああ、もう侵入はばれてるからな」

「それでも奇襲することを考えると静かにした方がいいとおもうのである」

「ケーテ。慎重に周囲の魔力の流れを解析してみろ。魔力探知がかけられているだろ」

「…………なんと、ほんとうであった」


 やはり、敵はよほど高位の魔導士のようだ。

 ケーテに気取られずに魔力探知をかけているのだから。

 ケーテは言動から頼りないイメージはあるが、仮にも風竜王。

 竜族の中でもトップクラスだし、人間基準で言えば超が何度もつく一流の魔導士だ。

 普通の超一流魔導士による魔力探知ならば、かけられた瞬間に気づくだろう。


「ハイロードには俺たちの居場所は筒抜けだ。奇襲は不可能だ」

「ふむ? だが……」

 ケーテは「ハイロード以外には奇襲が通じるのでは?」と言いたいのだろう。


「ほかのロード程度なら奇襲するまでもない」

 俺の言葉に、エリックがうなずいて言う。


「意思の疎通を不便にしてまで、ロードごときに奇襲する必要はない」

『もちろん、相手に知られたくないことは今後も念話を使うつもりだ。セルリス不便をかける』

 俺は念話で補足しておいた。念話で発話できないのはこの場ではセルリスとガルヴだけだ。


「……」

 セルリスは無言でうなずいた。


 そして俺は紙を取り出して簡単に建物の見取り図を描く。

 全員にこの建物の構造を把握させるためだ。


『エリックとゴランには言うまでもないことだが、魔法防御のかけられてない壁はわからない』

『そういうものなのでありますね』

『魔法防御がかかってなくても石や鋼鉄なら通れねーからな。一応注意だけはしといたほうがいい』


 ゴランが補足して説明してくれた。

 もっともゴランやエリック、そしてケーテならば石も鋼鉄もさほど障害にはならないだろう。

 だが、シアやセルリス、ガルヴはそうはいかない。


 俺は見取り図を描いている間、改めて魔力探知を念入りにかける。

 魔装機械を見逃してしまっていたからだ。


『調べなおしたが、まだ魔装機械がいるな。おそらく向こうは奇襲をかけてくるつもりだろう』

『そういうことなら、奇襲を食らうふりをしてやろうじゃねーか』

 ゴランは笑顔で言う。

 自分も魔力探知で周辺を調べていたらしいケーテが俺を見る。


『我の魔力探知では昏竜を見つけられなかったのだが、ロックの探知ではどうだったのである?』

『俺が調べた限り、建物内には見つけられなかったな』

『ふむう。ということは外にはおるのであるな? 我は建物外は調べてなかったのだ』

『いるぞ。特大のが五匹。建物の中に入るには大きすぎるんだろう』


 エリックが言う。


『一応、建物の中にいないとはいえ、近くにいるのは間違いない。頭の片隅にはおいておこう』

『ああ、そうだな。ロック先導を頼む』

『任せろ。ゴラン、殿しんがりは任せた』

『おう』


 俺が走り出すと、全員がついてくる。

 隊列は俺のほぼ横、わずか後ろにガルヴ、ガルヴの横にエリックだ。

 ガルヴたちの後ろにケーテ、そのさらに後ろにシアとセルリス。最後尾がゴランの順だ。


『どうせばれているんだ。全滅させながら行くぞ』

『了解』


 ロードたちはともかく、とても強力な魔導士が存在するのは確からしいのだ。

 いざ、強敵と戦うという段になって、後方から襲われるのは厄介だ。

 どうせ魔力は有り余っている。全滅させて後顧の憂いを断ちながら進んだ方がいいだろう。

 それに部屋の中に昏き神の加護の魔道具などがあると困る。


『普通なら魔力探知で厄介な魔道具の存在はわかるんだが……」

『確かに隠ぺいが得意な奴がいるのなら、魔力探知を厳重にかけるとなると面倒だな』

『それより敵を全滅させて調べて進んだ方が早いってぇことだな』


 さすがにエリックとゴランは理解が早くて助かる。

 俺は黙ってうなずくと、全員に言う。


『最初の部屋だが、ロード二匹、アーク四匹だ。扉のすぐ向こうで待ち構えている』

『『了解』』


 俺は鋼鉄の扉を魔神王の剣で斬り裂いた。

 すぐにエリックとケーテが斬られた扉を蹴り飛ばして中に飛び込む。

 敵がこっちに攻撃を仕掛ける前に、ロードの心臓にエリックが聖剣を突き立てた。

 ケーテのこぶしがもう一匹のロードの顔面を陥没させる。


 アーク四匹のうち三匹はガルヴとシア、セルリスが仕留めた。残った一匹は俺が殺しておく。

 殿のゴランは部屋の入り口で外を警戒している。


 瀕死のロードやアークが霧やコウモリになって逃げようとしていた。当然逃がすわけがない。

 俺は魔神王の剣を振り回し、すべてを吸収しておいた。

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