第238話

 その間も俺は魔力探査を続けていく。魔法防御をかけられた壁のせいで難度が高い。

 慎重に進めていく必要があるので時間がかかる。

 とはいえ、壁のおかげで間取りがはっきりとわかるので、助かるという一面もある。


 俺もよく建物に魔法防御をかけることがある。

 だが、魔力探知で間取りがばれるということまでは考えていなかった。

 これからはそういうことにも気を配らなければなるまい。


 俺は魔力探知の途中経過を報告する。

『やはり人型の反応のほとんどはヴァンパイアだな』

『種類はなんであるかー?』

 ケーテは相変わらず緊張感のない声を出す。逆にセルリスは緊張しすぎているようだ。

 ずっと剣の柄に右手を触れている。経験が少ないので仕方がない。


『レッサーの数は少ないな。アークとロードが大半だ』

『ほう? エリートの集まりってやつか』

『ただの拠点ではないと考えた方がいいだろう』


 俺の伝えた情報をもとにゴランとエリックが分析を始めている。


『ハイロードはいないでありますか?』

『今のところ……あ、いるな』

 シアに問われた直後にちょうど見つけた。今いる部屋からかなり離れた部屋にいる。


『そいつがボスでありますかね?』

『かもしれない』


 その時、ハイロードのいる部屋の近くに複数の人間がいることを見つけた。


『人間がいるな。五名。全員魅了をかけられている』

 魔力探査は、魔力探知と違って魅了をかけられている者を判別できるのだ。


『眷属ではないのか。ならば助けられる』

『ああ、不幸中の幸いってやつだな』

 エリックとゴランが真面目な顔で言う。

 一部屋に閉じ込められていることから考えて、使用人ではないだろう。

 恐らくはハイロードの食糧代わりの人間と考えた方がいい。


『人質に取られたら厄介でありますね。隠密行動を心掛けた方がいいかもしれないであります』

『そうだな。シアの言うとおりだ』


 俺が同意すると、シアの尻尾が静かに揺れた。

 そしてやっとのことで、俺の魔力探査が完了する。

 建物の構造や大体の敵の配置などを報告しようとした、まさにそのとき、


 ――ドゴオオオォオオ

 今いる部屋の正面、一番大きな扉が吹き飛んだ。

 その向こうには魔装機械がいた。それも四機。

 入り口が大きく、部屋が広いのは魔装機械を運用するためだったのかもしれない。

 部屋に侵入すると同時に魔装機械は超高速で鉄の玉をばらまいた。


「防御は任せろ!」


 俺の言葉を聞く前に全員が素早く動き始めている。俺が防御すると信じてくれているのだ。

 エリック、ゴラン、ケーテはさすがの動きだ。一瞬でそれぞれ一機ずつ魔装機械を破壊した。

 セルリスとシアも姿勢を低くして、魔装機械との間合いを一気に詰めていく。

 二人で連携して、魔装機械を破壊した。


 魔装機械四機の沈黙を確認した後、エリックが言う。


「侵入がばれたか」

「俺に魔力探査をかけられたことに気づいたのかもしれない」


 魔装機械は、ちょうど俺がヴァンパイアハイロードに魔力探査をかけた直後に襲ってきた。

 それで俺の存在に気づけたのならば、相当の実力者と判断せざるを得ない。


「魔装機械は魔力探知に引っかかっていたのか?」

 ゴランが真剣な表情で聞いてきた。


 魔力探知は魔力を持つ存在を探す魔法で、魔力探査はその存在がどういうものか調べる魔法だ。

 魔力探知に引っかかった存在を、魔力探査で調べるというのが基本になる。

 魔力探知にひっかからなければ、そもそも魔力探査をかけることはないのだ。


「魔装機械は俺の魔力探知には引っかかっていなかった」

「なんだと……」

 エリックが息をのんだ。ゴランも顔をしかめる。


 機械であっても魔石を動力源にしている以上魔力探知には引っかかる。

 それを防ぐために厳重に隠ぺい魔法がかけられていた。

 言い訳になるが、魔法防御をかいくぐりながら広範囲を一気に探知する必要があった。

 だから、精度が落ちていたのが見逃した原因だ。

 それでも探知し損ねたのは俺の責任。反省せねばならないだろう。


「俺のミスだ。すまない」

「いや、ロックが探知しなかったということが分かっただけで充分だ」

「ああ。とんでもない魔法の使い手がいるって考えた方がいいだろうな」


 エリックとゴランがそういうと、シアたちも緊張した様子でうなずいた。

 想像以上の強敵がいる以上、シアたちには荷が重い。


「とりあえず、作戦を続行する前にシアとセルリス、それにガルヴは転移魔法陣から――」


 俺がそこまで言ったとき、

 ――ガキィィィン

 転移魔法陣から大きな音が響いた。

 転移魔法陣が刻まれていた魔道具が砕け散ったのだ。


「シアたちには転移魔法陣で向こう側に戻ってほしかったんだがな」

「ロックの言うとおりだが、こうなったら仕方あるまい」

「……誰も逃がすつもりはないってことだな」


 ケーテが言う。


「ふむう。ロックなら転移魔法陣を修復することは出来ぬのか?」

「できると思うが、一から作るより難しいな」

「時間はどのくらいかかるのだ?」

「一日あれば確実に。もしかしたら半日でできるかもしれない」

「ロックでもそれぐらいかかるのか……。事実上不可能と言ってもいい難度であるな―」


 転移魔法陣を修復する間、ここに引きこもるというのは明らかに愚策だ。

 向こうには多様な攻撃手段があるのだ。打って出た方がいいだろう。


「とりあえず、ボスのハイロードを殺すか」

「そうだな。それが一番早いだろーな」

「ああ。そうしよう」


 そういうことになった。

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