第241話

 しばらく同じように小部屋のヴァンパイアを倒しながら進んでいく。

 その間、ボスに動きはなかった。


『もう少し走ればボス部屋だ』


 一応全員に見取り図を描いて間取りを説明してある。

 だが、何度も戦闘を繰り返しているのだ。覚えているとは限らない。

 だから、改めて全員に伝えることにしたのだ。


『大きな部屋を抜けたら、俺たちはボス部屋に向かう。シアたちは人間のいる部屋を頼む』

『了解したであります』

『任せておいて』


 しばらく走ると、とても広い部屋に出た。巨大化したケーテが五体ぐらい入れそうなぐらいだ。

 左右には床から天井に達する大きな窓がいくつもあった。巨大化したケーテでもくぐれそうだ。

 いや、窓というより、四本の太い柱の間にガラスをつけたといった方がいいかもしれない。

 高級な板ガラスをふんだんに利用している。それだけで余程の金持ちの屋敷と判断できる。


 その部屋に布のかけられた巨大な物体が並んでいる。

 それをみてシアが首を傾げた。


『あれは何でありますか?』

『あれは――』


 魔力探査をかけた俺が皆にその正体を伝えようとしたまさにその時、

 ――ガガガガガガガガガガガガガガ

 ものすごい爆音が周囲に響き、小さな金属片が超高速で撃ち込まれる。


 布の中にあったのは、魔装機械だ。

 自らの射撃によって布を吹き飛し、中から魔装機械十機が現れた。


 横二列にきれいに並んだ魔装機械からの一斉射。逃れられる場所がない。

 こういう時こそ魔導士の出番だ。俺は魔法障壁で全員をカバーした。


 エリックとゴラン、そしてケーテが魔装機械との間合いを一気に詰めていく。

 俺の張る魔法障壁に防御を任せて攻撃に専念することにしたのだ。

 俺への信頼の証だ。応えなければならない。


 エリックたちが魔装機械に肉薄したまさにその時、

 ――GAAOOOOOAAAAAAA

 俺たちの側面、広間の外から巨大な咆哮が響き同時に猛毒ブレスが撃ち込まれた。

 大きな板ガラスが吹き飛んで、加速した破片が俺たちに向かって降り注ぐ。


 昏竜イビルドラゴンの攻撃だ。それも一頭からの攻撃ではない。

 広間の片側から五頭ずつ、計十頭が吐き出す強力な毒ブレスだ。


 魔装機械とくらき竜のブレスにより十字の射線が形成される。

 元より横列による一斉射の時点で避ける場所はなかったのだ。

 それに横からの毒ブレスも加われば、防御は非常に難しい。

 さらに上から鋭利な刃物のようになったガラスの破片が高速で降り注ぐ。


 しかも魔装機械の斉射は金属片を高速で飛ばすという物理的な攻撃だ。

 昏竜の毒ブレスは魔法の毒属性攻撃である。毒というのが厄介だ。

 当たらなくとも充分に効果を発揮する。面で防御しても空気の流れにのって回りこんでくる。

 ガラスの破片はとにかく数が多く、しかも動きがランダムすぎて予測できない。


「まかせろ!」

 俺は大声で叫ぶ。焦った前衛を安心させるためだ。

 だが、杞憂だった。前衛たちは足をまったく止めていない。

 金属片の斉射も、毒ブレスも、降り注ぐガラス片もすべて気付いているのに動じていない。


 俺を強く信用してくれているのだ。


 ゴランが魔装機械を剣で切り裂く。炎の魔法の剣の効果によって斬り口がどろりと溶けた。

 エリックの聖剣が魔装機械の装甲を斬り裂いて、その中枢にまで到達する。

 ケーテはこぶしと足に風の魔法をまとわせて殴りつけ、思いっきり蹴り上げる。

 高い天井まで魔装機械が吹き飛んでいく。


 その間も俺は魔法障壁を張り、金属片とガラス片を防いでいく。

 そうしながら、暴風嵐テンペストの魔法を発動させる。

 味方は巻き込まぬようにしつつ、広間の外周に暴風を走らせて毒ブレスを巻き込んで外に出す。

 毒ブレスと一緒にガラス片もまとめて外にいる昏き竜どもに叩き返す。


 一連の魔法の流れを成功させるには強力な威力に加えて繊細な魔法操作が必要とされる。

 攻撃のための風魔法なら、ケーテに頼むのが効率的に思える。

 だが、今は攻撃ではなく防御のための風魔法だ。俺が実行するのがいいだろう。


「「「PIPIPIPIPIPIPI――」」」

 後列にいた五機の魔装機械が、俺の暴風嵐に巻き込まれて天井まで舞い上がって激突する。


 ――ダガアァァン

 そして五機はほぼ同時に落下して大きな音を出した。

 そのころには前列の魔装機械五機はエリック、ゴラン、ケーテが倒してくれた。

 だが、まだ部屋の外に昏き竜たちがいるのだ。


「ケーテ! 右を頼む! 手加減はしなくていい!」

「任せるのである!」


 一気に巨大化すると、ケーテは広間の外に向けて強力な風のブレスを吐き出す。

 石の柱を二本なぎ倒しながら、右の昏き竜五体を切り刻む。


「GAAAAAAAA!!」

 昏き竜たちが苦しそうに悲鳴を上げる。流石は風竜王のブレスである。

 威力の調節が必要ない風の魔法となると、やはりケーテは頼りになる。


 一方、俺の担当は左の昏き竜五頭だ。

 魔法の槍マジック・ランスを十五本生成し、一頭に三本ずつ撃ち込む。


 ――ドドドドドドド

 昏き竜たちは避けようとしたが、俺の魔法の槍の方が速かった。

 昏き竜たちに魔法の槍が深々と突き刺さっていく。


 ケーテが担当した右の五頭が沈黙するのとほぼ同時に、左の五頭も沈黙した。

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