第234話

 エリックたちはエリックたちなりに、何かしているのだろう。

 何をしているのかは知らないが、とりあえず待っておこうと思う。


 すると会話が一段落したと察知した水竜の王太女リーアが話しはじめた。


『ロック。爆弾なんて、とても怖いわ』

「リーアか。そうだな、怪しいものを見かけても不用意にいじらないようにしないとな」

『うん。わかっているわ』

『ロックさま。我らも何か対策を考えましょう』

「モーリスさん。対策といいますと具体的には?」

『はい。水竜の結界術を使うのですが……』


 モーリスが対策の中身を詳細に説明してくれる。

 水竜の結界術を利用して、爆弾を察知する術を組み立てるらしい。

 複雑な術式が必要になるようだ。


 水竜の魔法の系統は俺も少しだけ学び始めたばかり。知らないことがまだまだ沢山ある。


「そんなことが可能なのですか?」

『とても難しいですが……。やってみましょう』

「よろしくお願いします。対策が可能ならば、とても助かりますから」


 そんなことを俺とモーリスで話していると、リーアの声が聞こえてきた。


『……あの、ロック。モーリスができなくても責めないで上げて欲しいの』

「もとより責めるつもりはないから安心しなさい」

『さすがロック。やさしいわ』


 水竜の魔法技術を使っても、リーアがモーリスの失敗を懸念するほど難しいのだろう。


『リーアもモーリスのことお手伝いするわね』

「それは心強い」

『うん。がんばるわね』


 リーアは張り切っているようだ。

 俺はモーリスに語り掛ける。


「協力できることがあればおっしゃってください」

『そうですね……。爆弾の現物があれば、より確実なのですが』

「現物は爆発して消失してしまいました……」


 爆弾の現物というのは、つまるところ魔素を利用した魔道具だ。

 術式や魔導回路ごとエネルギーに変換して一気に拡散してしまう。

 そうすることで威力を高めるのだ。そして後には魔素しか残らない。

 爆発してしまった後どのようなものだったのか調べるのは困難なのだ。


「解析にかかった瞬間、爆発されてしまったものですから……」

『ロックさんでも、構造をまったく把握できなかったのでしょうか?』


 あの時構造解析していたのはルッチラだ。俺が解析してたらより詳しくわかったかもしれない。

 とはいえ、俺も後ろから真剣に観察していた。不十分だが、わかっていることもある。


「ルッチラ。一瞬だっただろうが、わかったことをモーリスさんに説明してあげなさい」


 ルッチラはすぐ近くに待機している。俺が促すと通話の腕輪に顔を近づけて語り始めた。

「あ、はい。とはいいましても、ほとんどわかっていないのですけど……」

『ルッチラさん、どんな些細な情報でもありがたいですから。ぜひお願いいたします』

「わかりました」


 ルッチラは語り始める。一瞬だったというのに結構しっかりと解析していたようだ。

 モーリスを感心させているほどだ。


「ぼくがわかったのはこのぐらいです。ロックさんは何かわかりませんでしたか?」

 やはり俺が後ろから観察していたことは、ルッチラにはわかっていたようだ。


「そうだな。一瞬だった割にルッチラの分析は見事だ。俺が付け足すことはほとんどない」

「ありがとうございます」

「あえて言うならば……」


 俺はルッチラが気づかなかったことを、いくつかモーリスに報告する。


「すごいです。後ろから見ていただけなのに……」

『さすがロックどのです。もちろんルッチラさんも見事です』

「どうでしょうか? 何とかなりそうでしょうか?」

『私が想定していたよりも情報を得ることができました。なんとかなると思います』

「それはよかった」


 爆弾についての情報交換を終えたあと、モーリスが言う。


『……ロックさん。愚息はご迷惑をおかけしておりませぬでしょうか?』


 モーリスは少し不安そうだ。モーリスの言う愚息とは当然モルスのことだ。

 モルスはダントン屋敷の強化をするために残ってくれている。


「モルスさんにはとても助けられています。ありがとうございます」

「うむ。モルスは大活躍だ。助かっておるのだぞ」


 ケーテも太鼓判を押す。


『そう言っていただけると、ありがたいです。ところで、愚息はいまどこに?』

 モーリスはモルスと会話をしたいのかもしれない。


「モルスさんにはダントンの屋敷に残ってもらっているのです」

『愚息が何か問題を……』

「そういうわけではないのだ。我は構わぬと言ったのだが、我が背に乗るのを断ったのだ」

『なるほど。それは当然です。愚息が陛下の背に乗っていたら、許さぬところでした』

『……ケーテ。さすがに自重しなさい。ケーテは風竜王なのだ』


 モーリスだけでなく、準備すると言ってから黙っていたドルゴまで忠告している。

 やはり、竜の文化では上位者の背中に乗るというのは特別な意味があるようだ。


「ふむぅ。その方が早いのだがなぁ」

 だが、ケーテはあまり気にしていないようだ。


「我らにとって、背に乗ることは特別な意味があるのだからな」

 その時、上空から直接ドルゴの声が聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る