第233話

 そして、ハイロードの頭だけ残った。頭にもドレインタッチをかけて魔力を吸う。

 コウモリや霧に変化する余力も残さない。


「そこで待ってろ。あとで話を聞かせてもらう」

「……なめるな人間風情が」


 ハイロードはぼそっとそういうと、灰になった。尋問されないように、自ら命を絶ったのだ。

 情報を得られないのは残念だが、仕方がない。

 俺はシアたちに言う。


「敵の首魁は倒した。残りは残党。さっさと狩ろう」

「了解であります!」「大丈夫! すぐに片付くわ!」


 シアとセルリスはヴァンパイアたちとの戦闘を有利に進めていた。

 ニアやルッチラ、ガルヴは俺に返事をする余裕はないらしい。それでも悪くない動きだ。

 ケーテも、ヴァンパイアどもをどんどん屠っている。


 転移魔法陣から出現するヴァンパイアも打ち止めになったようだ。

 シアたちが戦局を有利に進めてくれていた。そこに俺が加われば、すぐに片付く。


 すべてのヴァンパイアを討伐したあと、念のために魔力探知を発動する。

 俺たちから逃れたものがいないか、確かめるためだ。


「ルッチラ。疲れているだろうが、魔力探知を忘れるな」

「はぁはぁ。はいっ!」


 俺が魔力探知をしているので、今回に限ればルッチラは休んでいてもいい。

 だが、魔法の訓練のためだ。それに戦闘における魔導士の心得を教えるためでもある。


 ルッチラは素直に魔力探知を発動する。疲れている割に範囲が広い。

 なかなかの魔導士に育っている。頼もしい。

 俺はルッチラよりずっと広い範囲に魔力探知をかけていく。

 ヴァンパイアを含めて、周囲に敵影はないようだ。


「どうだ、ルッチラ」

「はい。周囲に敵の気配なしです」

「お疲れさま。ルッチラ、全体的にいい動きだった」「ここぅ」


 ゲルベルガさまは俺の懐から顔だけ出して、やさしく鳴いた。

 ルッチラを褒めているのだろう。


「ありがとうございます。ロックさん。ゲルベルガさま」

 ゲルベルガさまにも褒められて、ルッチラは嬉しそうだ。


「シア、ニア、セルリスも強くなったな」

「お世辞でもうれしいでありますよ」

「ありがとうございます!」

「ロックさんは、あまりお世辞は言わないわ! 自信になるわ」


 三人とも嬉しそうだ。


「がうー」

 ガルヴが俺に体を押し付けてくる。褒めてもらいたいのかもしれない。


「ガルヴも強くなったな。いい動きだった」

「ガウ!」


 尻尾をびゅんびゅんと振った。


「それにしても、大量のヴァンパイアだったな。全部で何体だ?」

「八十体ぐらいでありますよ」

「そんなにか……。とりあえず死骸の処理を始めてくれ」

「了解であります」


 シアたちが死骸の処理を開始する。アークヴァンパイア以上は死ぬと灰になるので処理は楽だ。

 そして、俺はというとエリックとゴランに連絡を取ることにした。

 その時、ばさばさ羽をはばたかせながら、ケーテが寄ってくる。

 顔が近い。ケーテは顔も体も巨大なので、圧倒される。


「ロック、ロックっ! 我はどうであったか?」

「なにが?」

「戦いぶりとか……そういうのである!」 


 ケーテはシアたちと違って、元から強い。だから講評しなかった。

 失礼に当たると思ったからだ。だが、ケーテは俺の講評を期待しているようだ。


「ケーテも強かった。見事な動きだった」

「そうであるかー」


 ケーテは満足げにうなずくと、尻尾をゆっくりと揺らした。

 その様子を見ながら、俺はエリックとゴラン、ドルゴに通じる通話の腕輪を作動させた。


「少し報告がある」

『お、何があった? ダークレイス関連で何かあったのか?』


 最初に返答をしてきたのはエリックだ。

 エリック、ゴラン、ドルゴ、そして水竜の集落にはダークレイスについて報告してある。


「そのとおりだ。少し厄介なことがあってな」


 エリックから少し遅れて、ゴラン、ドルゴ、そして水竜のリーアとモーリスから返答があった。

 全員が聞いていることを確認して俺は説明する。


「いまちょうど狼の獣人族の屋敷を強化して、魔道具を設置しおわったところなんだが……」


 ダークレイスの襲撃があったこと。それにレッサーヴァンパイアが同行していたこと。

 そして謎の魔道具があり、隠ぺいを解除したら大爆発したこと。

 爆発に合わせて転移魔法陣からヴァンパイアハイロードやロードの大群が出現したこと。

 それらを手短に報告していく。


「で、今から俺は転移魔法陣をくぐって、向こう側を掃除してくる予定だ」

『ちょ、ちょっとまて!』

『まあ、待て。ロックよ』


 ゴランとエリックが慌てている。


「どうした? 何か問題があるか?」

『問題しかねーぞ。俺もすぐに向かうから待っていろ』

「そんな時間はないんじゃないか? 向こうから魔法陣をふさがれる可能性もあるしな」

『まあ、落ち着け。ロック』


 エリックがなだめるように言う。俺が慌てているように思えるのかもしれない。


「待てというのなら待つが……」

『とりあえず、十分ぐらい待って欲しい』

『少し待ってくれねーか?』

「わかった」


 その後、しばらくエリックやゴラン、ドルゴの通話の腕輪からバタバタ音がしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る