第196話

 次の日、俺たちはシアたちの実家に向けて出発することになった。

 屋敷からでるとき、フィリーとミルカ、エリック、ゴラン、ドルゴが見送ってくれた。


「まあ、ロックがいるなら安心だろうが、油断するんじゃねーぞ」

「任せろ」

「ロック。ダントンによろしく頼む」

「わかった。それより、エリック、ゴラン。フィリーとミルカを頼む」

「それは任せてくれ。注意しておこう」


 俺の屋敷と王宮は秘密通路を使えばものすごく近い。

 エリックが注意していてくれるなら安心だ。


 フィリーとミルカの二人にも通話の腕輪を渡しておく。


「もし何かあったら、これで俺を呼びなさい」

「わかっているのだ」

「わかったんだぞ!」

「結構、気軽に呼んでいい。この程度で呼んだら迷惑なんじゃって遠慮して大変なことになるほうが面倒だからな」

「うん。わかった!」

「迷ったら呼びなさい」

「大丈夫。わかっているのだ」

「タマも頼むぞ」

「わふ!」


 タマは頼りになる。

 俺はドルゴにも言う。


「フィリーたちをよろしくお願いいたします」

「気を付けておきましょう。ロックさんも……うちの娘をよろしくお願いいたします」

「むしろ、我はお世話する側なのである」

「どの口で言うか」

 ケーテが自信満々で言って、ドルゴに突っ込まれていた。


 その後、俺たちは徒歩で王都の外へと向かった。

 大所帯なので王都の衛兵に少し驚かれたが、すんなり外に出る。

 さらにしばらく歩いて、王都から距離をとる。

 そこでやっとケーテが本来の竜の姿に戻るのだ。


「よいしょ、よいしょ」

「ちょっ、ケーテさんなにをしているの!?」

「ひやぁああ」


 ケーテが服を脱ぎだし、セルリスとルッチラが顔を真っ赤にした。


「ロ、ロックさん、早く後ろを向いて!」

「お、おう。わかった」

「が、がう」


 俺がケーテに背を向けると、ガルヴも一緒に背を向けた。

 冒険者は基本、裸を見慣れがちだ。

 着替えや入浴を男女別で行う余裕がないことの方が多いためである。

 Bランク冒険者のシアは平然としていた。ニアもまた平気なようだ。

 ニアは冒険者ばかりの狼の獣人族で育ったので慣れているのかもしれない。


「む? セルリスそんなに慌てて、どうしたのであるか?」

 ケーテはきょとんとしていた。


「お、男の人の前で裸になるなんて! ハレンチだわ!」

「そんなものであるかー。人族は大変なのだなー」

「ケーテも今は人族の格好なのだから気を付けないとだめよ!」

「うむ。わかった」


 ケーテは素直なので納得したようである。

 しばらくして、ケーテは竜に戻った。


「ロックさん、いいわよ」

「ほいほい」「がーう」


 俺とガルヴは振り返る。

 すると、ケーテは顔を両手で隠していた。


「て、照れるのである」

「竜の姿のほうが恥ずかしいのか」

「だ、だって」

「というか、もう何度も見た気がするが」

「意識したら恥ずかしくなったのだ」

「……そうなのか」


 竜の感覚はよくわからない。きっとすぐになれるだろう。

 それから、俺たちはケーテの背に乗せてもらう。


 シアとニア、そしてガルヴとゲルベルガさまはケーテの背のうえは初めてではない。

 シアとニアは少し緊張しながらも、背に上がる。ガルヴも器用に素早く上った。


「ルッチラとセルリスは初めてだったな」

「は、はい」

「そうね」

「背に上がるのが大変そうなら、手を貸そう」

「私は大丈夫よ!」


 セルリスはぴょんぴょんと跳びはねて、器用に上がる。

 さすがは毎日鍛えているだけのことはある。


「ルッチラは大変だよな」

「すみません」

 俺はルッチラを横抱きにして、ゲルベルガさまを肩に載せて、ケーテの背に乗った。


「さて、みんな乗ったのであるな。飛ぶから、鱗にしっかり掴まっておるがよいのである」


 ケーテは、いつもよりゆっくり飛び上がる。

 初めてのルッチラやセルリスに気を使っているのだろう。


 そして、徐々に速さを増しながら飛んだ。


「ひいい」

 ルッチラは怯えた様子で、俺の腕にしがみつく。

 セルリスも顔を引きつらせながらも鱗にしがみついていた。

 シアとニアも少し緊張しているようだった。


「ケーテ場所はわかるのか?」

「もちろんである。地図で教えてもらっているのである」


 ケーテ基準でゆっくり飛んで、二十分ほど経ったとき、たくさんの人が見えた。

 全部で五百人ぐらいいそうだ。

 老人や子供もいる。集まっているのは戦士だけではないようだ。


「あれって……」

「狼の獣人族でありますよ」

「シアの部族ってあんなに多いのか?」

「いえ、うちの部族は全部で百人ぐらいでありますから……。近くからも集まってきているみたいでありますね」

「歓迎しているのだと思います!」


 シアとニアは笑顔だった。


「着陸するのである!」

 そういって、ケーテはゆっくりと降りていく。


 たくさんの人の先頭ではダントンが、笑顔で手を振っていた。

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