第195話

 シアを通してダントンに連絡してもらい、次の日に出向くことになった。

 出向くとなれば、準備がいる。

 水竜の集落にも、駆け付けるまでに時間がかかることを報告しなければならない。

 本拠地を叩いたばかりで、襲撃もおさまっているとはいえ、油断はできないのだ。


 いつもの朝のガルヴの散歩が終わった際、王太女リーアと侍従長モーリスに告げた。


「リーアも行きたいの」

「それはなりませぬ。リーアさまは水竜集落の精神的支柱でありますゆえ」


 リーアはモーリスに窘められていた。

 襲撃はおさまっているとはいえ、まだまだ、緊張感が漂っているのだ。

 リーアが不在となれば水竜たちが不安になる。


「それはそうかも知れないの……。残念だけど仕方ないの。じゃあ、お土産を持って行って欲しいの」


 そういって、リーアはお土産をくれた。

 水竜の美味しい水だ。飲んでみたが本当においしかった。身体にもいいらしい。

 非常に重いが、魔法の鞄があるので何とでもなる。


「ダントンさん、お怪我されてるみたいだったし。これを飲むといいと思うの」

「おお、きっと喜ぶと思うぞ」


 ほかにも水竜の集落のほとりにある湖で採れた魚などもくれた。


「ラック。戻ってきたら絶対すぐ遊びに来てね」

「わかってるさ。すぐ来るよ。それに狼の獣人族の集落は王都から二時間程度だからな。大変なことがあったら言ってくれ。すぐに向かう」

「うん。頼りにしているの」


 水竜たちに見送られて、屋敷に戻る。

 シアとセルリスは庭で訓練をしているようだ。

 ニア、ミルカ、ルッチラはフィリーとお勉強をしている。


「さて、ガルヴ。今のうちにお土産を買いに行こう」

「がうがう」

「散歩したばかりなのに元気だな」


 俺とガルヴが屋敷を出ようとしたとき、

「待つのである!」

 魔法陣部屋からケーテが飛び出してきた。


「がうっ!」

 ガルヴはケーテをみて大喜びだ。

 俺とケーテには飛びついて良いと教えているので、大はしゃぎする。

 ガルヴはケーテの肩に両前足を置いて、顔をベロベロなめた。

「よーしよしよしよし」

 ケーテはガルヴを撫でまくる。


「どうしたんだ? ケーテ。そんなに慌てて」

「リーアに聞いたのである。シアたちの実家に遊びに行くそうではないか!」

「まあ、そうだが……」

 遊びではないのだが、説明が面倒なのでそういうことにしておこう。


「折角だし我も行くのであるぞ」

「仕事はいいのか?」

「よいのである。それに我の背中に乗っていった方が速いのである」

「それは確かにそうだな」


 徒歩で二時間ほどかかるなら、ケーテに乗れば数分だろう。

 水竜の集落に何かあった場合、ケーテがいればすぐ戻れる。それはとても安心だ。


「で、早速シアの実家に行くのであるな?」

「行くのは明日だ。今は明日のためにお土産を買いに行くところだ」

「なるほど! 土産であるな! 我も行こう」

「じゃあ、一緒に行くか」


 そして俺とガルヴとケーテは一緒に屋敷を出た。

 特訓の邪魔をしては悪いのでシアたちのいない裏口を使う。


「お土産には何が良いのであろうか? ロックはなにをお土産にするのであるか?」

「うーん。適当に菓子折りとか」

「シアの一族って何人いるのであるかな? お菓子を食べれないものがいたら可哀そうであろ?」

「そういえば、聞いてないな。多めに買って行けばいいだろう」


 そんなことを話しながら、商業街につく。

 俺が菓子折りを選んでいると、いつの間にかにケーテはいなくなっていた。

 どこかに何かを買いに行ったのだろう。


「恐らくシアやニアと食事の好みは一緒だと思うんだよな」

「がう」

「シアたちが好きそうな菓子折りを沢山買って行こう」


 お菓子を大量に買い込んで、魔法の鞄に入れていく。

 そこにケーテが戻ってきた。


「ロック、待たせたのである」

「ちゃんと、お金払ったか?」

「当たり前であるぞ。我はしっかり勉強しているのである」


 もはや無銭飲食していたころのケーテではないようだ。


「で、何を買ったんだ?」

「ふふん、見るがよい。我のお土産はこれであるぞ」


 そう言ってケーテが、魔法の鞄から取り出して見せてくれたのは大きな石だった。

 大体、人の身長の一・二倍ぐらいある。


「え? それなに?」

「これはただの石の塊である。だがこれを彫って像を作ろうと思っているのである」

「……へー」


 お手製の彫刻。それは喜ばれるのだろうか。

 そもそも、ケーテは彫刻作製が得意なタイプには見えない。


「いや、ケーテが作った物なら、嬉しいのかな?」


 風竜王のお手製なら、出来はどうあれ嬉しいかもしれない。

 美術的価値はともかく、将来的に歴史的価値は出そうだ。


「ふふん。期待しておくのである」

「それは楽しみだが……。明日出発だけど、間に合うのか?」

「なんとかなるであろ!」


 ケーテはとても楽観的だ。たとえ完成できなくても、後で届ければいいだろう。

 とりあえず、ご機嫌なケーテとガルヴを連れて、俺は今日のご飯を買いに行くことにした。

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