第189話
「えっと……」
俺は少し悩んだ。エリックを見る。エリックは目で任せると言っている。
エリックたちと親しく話しすぎたかもしれない。
いや、そもそも隕石を広範囲にわたって十二同時召喚というのが派手すぎた。
恐らく若い族長以外の族長たちも俺がラックと推測していたに違いない。
口にしなかっただけだ。
「皆さんを信頼してお話しますが……。じつは俺はラックです」
「やはり!」
シアの父ダントン以外の狼の獣人族の族長たちは感動している。
「一応、機密なので……。この場にいるともに戦った戦士の皆さん以外には内密でお願いします」
ともに戦った仲間は信用したい。
「わかっております! 大騒ぎになりますからね」
狼の獣人族の族長たちはうんうんと頷いていた。
「偉大なる英雄ラックとともに戦えたこと、一族の誇りです」
そんな族長たちに申し訳なさそうにエリックが言う。
「皆の者隠していてすまなかった。信用していないわけではなかったのだ。ただ、機密ゆえな……」
「いえ。陛下、当然のことでございます」
隠していたことで気分を害していないらしい。ありがたい。
そのとき、エリックの盾が輝き始めた。
「おっと……」
「……もう、掃討はおわったのであるか?」
盾の転移魔法陣から、人の姿のケーテが出てきた。
「顔を出す前に通話の腕輪で連絡してくれ。激戦の真っただ中、まさに盾で攻撃を受け止めている最中かもしれないだろう?」
実際、先程俺は攻撃を食らいかけた。
戦闘に使う盾に描かれた魔法陣から、急に顔を出すのは危ないのだ。
「確かにそうであるな!」
慌てて、ケーテは引っ込むと、
『そっちはもう終わったのであるか?』
通話で連絡してきた。
「今更、通話の腕輪を使っても、もう遅い。……そっちは無事か?」
連絡がないのだから大丈夫。そうわかっていても一応尋ねる。
『やっと後片付けも終わって、結界の点検もおわったところである。少し待つがよい』
ケーテはすぐにリーアとニアを連れて出てきた。リーアも人の姿だ。
一連の流れに驚いている族長たちを気にせず、ケーテは大きな声で全員に呼びかけた。
「皆、大儀であるぞ! 我は風竜王ケーテ・セレスティスである! 同胞である水竜族のための尽力、まことに感謝である」
王の名乗りに、狼の獣人族がひざをつく。
「こちらが、水竜の王太女リーア・イヌンダシオ殿下である」
「みなさま。水竜のためにありがとうございます。狼の獣人族の方々には百万の感謝を」
リーアは防衛に手を貸してくれた狼の獣人族に直接お礼を言いに来たのだろう。
「もったいなきお言葉、光栄に存じます」
年長に見える狼の獣人族の族長が代表して返答した。
「本来であれば、正式なる場所で狼の獣人の方々の労に報いたいところなのですが……。竜族と王国の友好関係は機密なのです」
「理解しております」
年長の族長がひざまずいたまま返答した。
「ですが、公にせずとも水竜族の狼の獣人族への感謝は真実です。なにかがあれば、水竜族は狼の獣人族に力を貸すことを約束いたしましょう」
「もったいなきお言葉」
後日王宮で行われるであろう論功行賞。その場にリーアは出席できない。
だから直接来たのだろう。この場なら人目を気にしなくてもよい。
リーアは一人一人に感謝の言葉を述べつつ、族長たちに短剣を直接手渡していく。
水竜の魔力を込めた魔法の短剣だ。青い刃がとても綺麗だった。
「水竜族と狼の獣人族との友好の証としてお受け取りください」
「一族の宝にいたします」
売れば屋敷が買える以上の価値がありそうだ。もちろん売るつもりはないだろう。
「ロックにも受け取ってほしいの」
「ありがたいが、俺個人がもらっては他の者たちが不公平を感じるだろう」
族長たちは一族としてもらっている。個人としてもらうのは少し違う。
「何をおっしゃいますか。ラックどのがいなければ……」
族長たちからも、再び感謝の言葉を告げられた。
リーアも改めて言う。
「受け取ってほしいの」
「ありがとう」
青くて美しい少し長めの刃をもつ短剣だ。美術品にも見えるが装飾はシンプルだ。
美しいだけでなく、実用にも耐えうるものだ。
水竜の清浄なる魔法がかけられている。昏き者どもには効果が高そうだ。
そして、リーアはシア、ニア、セルリスには指輪を手渡す。
「これは水竜の王太女ではなくて、個人的なお礼なの」
「ありがとうであります」
「よいのですか?」
「嬉しいわ」
「お友達だから」
そう言って、リーアはにこっと笑った。
エリックが狼の獣人族たちに言う。
「大儀であった。だが、これで終わりではないぞ。朕からの褒賞もあるぞ。明後日、王宮に集まるがよい」
「ははっ! 後始末などはお任せください」
エリックは大きな声で言う。
「みなの力で勝ち取った勝利だ! 昏き者どもの陰謀は打ち砕かれた! 誇るがよい!」
「「「わんわーん!」」」
「がうがーう!」
シアたち獣人族が一斉に勝どきの声をあげる横で、ガルヴが嬉しそうに吠えていた。
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