第177話

 俺たちは王都の屋敷に戻った。

 フィリーの研究室で魔道具製作を行うためだ。

 ケーテとドルゴも、人型になって俺たちと一緒に屋敷に戻る。


 ケーテがおずおずと言う。


「ロック、あの……」

「どうした?」

「魔道具製作を、見たいのだが……だめであろうか?」

「いや、構わないが……フィリーはどうだ?」

「もちろん構わぬ」


 フィリーからの許可が出ると、ケーテは嬉しそうに尻尾を振った。


「ドルゴさんも、どうぞ」

「ありがとうございます。とても興味がありましたので」


 竜の貴重な資料を読ませてもらったのだ。

 その技術を使って製作するのだから、当然その成果は共有すべきだろう。


 フィリーの研究室にはミルカがいた。


「先生! 見学させておくれ!」

「構わぬぞ。ロックさんはどう思う?」

「もちろん構わない」

「やったー」


 ミルカも魔道具製作に興味があるらしい。

 とはいえ、素人が見てわかるようなものではない。

 雰囲気だけでも感じてもらえればいいだろう。


 これで興味を持って、その道に進むのなら、それはそれで素晴らしいことだ。


 まずはフィリーが基本構成を図面に起こしてくれた。


「ロック意見をくれ」

「わかった」


 フィリーの図面はかなり精巧だった。必要な魔法陣なども同時に提案された。

 それに対して、俺は魔法側の理論を説明して提案していく。


「それなら、こういう魔法陣の方がいいのでは?」

「なるほど。そういうことなら、フィリーは……」


 話し合いは、思いのほか楽しかった。

 良い魔道具が出来そうだ。


 しばらく話し合った末、フィリーが宣言する。


「よし、これで決まりである!」

「わーわー」

 ミルカが嬉しそうにはしゃいでいた。


 俺はドルゴに尋ねる。


「ドルゴさんはどう思われました?」

「成功すれば素晴らしいかと」


 少し含むところがありそうな言い方だ。

 ケーテが真面目な顔で言う。


「本当にできるとは思えないのである」

「失敗したら、また新たに考えればいいだけだ」

「それもそうであるな」


 どうやら、ケーテとドルゴはうまくいかないと思っているようだ。

 フィリーの使う予定の手法は、錬金術の得意な風竜族からみても難しいらしい。


「まあ、風竜王陛下の懸念もわかるのである。今はただ見ていて欲しい」

 フィリーは自信があるようだ。


 俺たちが注視する中、フィリーは魔道具の製作に入る。素材の精製からだ。

 オリハルコンやミスリル。魔石や少量の賢者の石などを用いて進める。


 俺も製作の途中でタイミングよく魔法を行使する。

 的確に魔法陣を刻むのだ。


 小一時間かけて、魔道具が完成した。


「初めてにしては、中々息の合った素晴らしい出来ではないか?」

「そうだな。試作品にしてはいい出来だ」

 俺とフィリーが休憩がてら会話していると、ケーテがわなわな震える。


「ロ、ロック、それにフィリーよ……。見せてもらっても、いや、触ってもよいであろうか?」

「好きに見てくれ。ただの試作品だ」


 ケーテとドルゴが魔道具を穴が開くほど見つめはじめた。

 その横で俺たちは相談を始める。


「もう少し、この個所を……」

「確かに。改良の余地があるな」

 実際に作ってみて初めて分かることもある。


 魔道具を調べていたドルゴが少しショックを受けていた。


「なんという……。我らが作った魔道具より素晴らしい出来です」

「お世辞でもうれしいです」

「お世辞ではありません。良いものを見せていただきました。そのような手法が可能だったのですね」

「勉強になったのである。ありがとう」


 ドルゴとケーテにお礼を言われてしまった。

 恐らくお世辞だろうが、錬金術を得意とする風竜族に褒められると嬉しいものだ。


 俺とフィリーは本製作に入る。

 再度、小一時間かけた。今度は満足のいくものができたと思う。


 完成した魔道具は腕輪形式だ。

 身につけると体内の魔法回路に作用して、精神抵抗が向上する。


「これを身につければ、ヴァンパイアハイロードの魅了も容易には通じまい」

「うむ、満足のいく品ができた」


 これをセルリスに渡せば安心だ。

 そんなことを考えているとフィリーが言う。


「さて……。作っている最中に考えたのだが……この部分を簡略化して、素材も安価なものに代えれば……」

「量産化か」

「大量生産というほどは無理だが、一個中隊や大隊程度に配る程度なら……可能ではないか?」


 簡略化した分能力は落ちる。それでもロードの魅了にはあらがえるだろう。

 もし量産化できれば、兵士や騎士、冒険者に配ることができる。


 それを聞いていたドルゴが、少し考えて口を開く。

「それなら……」


 さすがは錬金術が得意な風竜族の先王。

 品質をあまり落とさず作りやすくする技法を提案してくれた。


 ケーテとミルカは、その横でずっと「ふんふん」言っていた。

 フィリーが考えながら言う。


「それならば、もっと大量のミスリルが欲しいな。出来れば魔石も……」

「わかった。何とかしよう」


 もし量産化できれば、昏き者どもとの戦いを有利に進めることが出来るだろう。

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