第178話

 俺はその場でゴランとエリックに連絡を取った。


「ゴラン、エリック。ミスリルと魔石が欲しんだが、なんとかならないか?」

『そりゃ、なんとでもなるが、何に使うんだ?』


 俺は事情を説明した。


『ほう? それはよい。資金は国庫から出そう。ゴラン、頼む』

『ミスリルも魔石も、金さえあれば集められるものだからな、任せておけ』


 放っておいても、魔石は冒険者が日々買取に持ち込んでくる。

 ミスリルも鉱山からせっせと街に運ばれてくるものだ。


 ゴランに素材の手配を頼むと、俺たちはセルリスのもとに行く。


「セルリス。魔道具ができた。つけてみてくれ」

「……ロックさん、フィリーさん。ありがとう、本当にありがとう」

 セルリスはものすごく喜んでいる。涙ぐんでいるほどだ。


「セルリス、よかったでありますね」

「セルリス姉さま、これで一緒に冒険できますね」


 シアとニアも喜んでいる。

 だが、俺としてはまだ安心できない。


「セルリス、その腕輪をつけて、庭に出てくれ」

「え? わかったわ」


 庭に出ると、俺はセルリスとケーテに並んでもらう。

 そして、幻術をセルリスとケーテにかける。

 精神抵抗の強さを見るためだ。


「えっと……熊が見えたわ」

「ふむ? 熊であるな。わかったのである。幻術をかけておるのだな? 我には効かぬが」

 セルリスはきょとんとしている。

 セルリスもケーテも幻は見えているが、幻術にはかかっていない。

 ひとまずセルリスの精神抵抗の向上には成功しているようだ。


「なるほど。ではこれではどうだ?」

 俺は徐々に魔力を込めていく。どのくらい向上しているのか見るためだ。


「ひぁ」

「うおっ」


 俺が全力を尽くして、やっとセルリスとケーテにびくっとさせることに成功した。

 幻術をかけることに、俺が全力に近い力を出す必要があった。

 風竜王のケーテと、ほぼ同じぐらい幻術にかけるのが難しかったのだ。


「これだけ精神抵抗を強化出来ていれば問題なかろう」

「やった、ありがとう、ロックさん!」

「ケーテも協力ありがとう」

「ロックに幻術をかけてもらえるなど得難い体験である。リーアに自慢できるというもの。それにしても、ロックはさすがであるな」

「そうか?」

「我は仮にも風竜王であるぞ。精神抵抗の高い竜族の中でも、特に高いのである。その我に幻術をかけるとは」

「ケーテにかけるには時間がかかり過ぎるし、魔力消費も大きいから、実戦では難しそうだがな」

「がっはっは、そうであるか!」


 ケーテはとても嬉しそうだった。

 セルリスが言う。


「これでやっとヴァンパイア狩りに参加できるわ」

「まあ、待て」

「どうしたの?」

「ゴランに許可をとりなさい」


 そう言って俺は通話の腕輪をゴランにつなげた。


『どうした? ロック。魔石なら……』

「いや、今の用はそっちではなくてだな」

「パパ!」

『む? セルリスか、どうした?』


 セルリスは事情を説明して、許可をもとめる。

 最初は渋っていたが、ゴランも最終的には同意した。



 次の日。シアとニアとセルリスは狼の獣人族に合流するため出立することになった。


「気をつけろよ」

「わかっているわ。ありがとうロックさん」

「命が一番大事なんだからな!」

「パパも安心して」


 ゴランは本当に心配そうだった。


 俺は徒弟のニアにも声をかける。

「ニアも気を付けなさい」

「はい!」


 すごく不安だ。

 水竜族の集落の防衛さえなければ、俺もついて行きたいところだ。


「シア、二人を頼む」

「わかっているであります。全力を尽くすでありますよ」


 三人を見送ってから、俺は水竜族の集落に向かう。ガルヴも一緒だ。

「ロック、来てくれてうれしいの」

「いつもありがとうございます」


 いつものように、水竜の王太女リーアと侍従長モーリスが出迎えてくれた。

 ガルヴを散歩をさせながら、集落に対する襲撃について聞く。

 一応毎日のように襲撃はあるらしい。


 だが、本格的なものではない。

 レッサーヴァンパイアを中心に編成された襲撃部隊だ。容易に追い返せる。


「……今日から夜はこちらに泊まるようにしましょう」

「本当なの? うれしいわ」

「それは心強いです」


 基本的に、昏き者どもの襲撃は夜に偏っている。

 昏き者どもには夜行性な奴が多いのだから当然ともいえる。


 モーリスが言う。


「それにしてもなぜレッサーヴァンパイアは攻めてくるのでしょうか?」

「そうですね……。結界の穴を探しているのかもしれませんね」

「穴ですか?」

「昏き者どもは馬鹿ではありません。レッサーヴァンパイアをいくら使っても落とせないのはわかっているでしょう。考えられる理由は、偵察が一番有力です」


 つまり、近くに本隊が潜んでいるのだ。

 レッサーが穴を発見すれば、そこから一気になだれ込むつもりなのだろう。

 だからこそ、俺も夜泊ることにしたのだ。


「毎日結界の様子を巡回することにしましょう」

「我らも見回っておりますが、見落としがあるやもしれませぬ。ぜひよろしくお願いいたします」


 それから、夜は水竜の集落を防衛し、朝になれば王都に戻ることにした。

 そして王都では、フィリーの作った魔道具に魔法をかけていく。

 製造工程を簡素化したおかげで、俺は最後に魔法をかけるだけでよくなったのだ。

 もちろん、セルリスに作ったものに比べたら、性能はかなり落ちる。

 だが、近衛騎士などに配れれば、戦力を増強出来るだろう。


 そして、夜になれば、再び水竜の集落に泊まり込む。

 ただのレッサーの襲撃であっても、先頭に立つことにした。

 何か、敵情がわかるかもしれないからだ。


 そのような生活を始めてしばらくの間、特に何事もなく平和に過ぎた。

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