第171話

 俺は魔道具を取り出す。

 昏き者どもが水竜の結界を破るのに使ったと思われる魔道具だ。


「フィリーこれを見てくれ」

「ほう。愚者の石で作られたものであるな……。ふむ? 結界を破るための魔道具であろうか?」

「よくわかったな。その通りだ。破られたのは神の加護ではなく水竜の結界だが」

「ふむう。厄介なことだなぁ」


 フィリーは呻くように言う。

 心配したタマがフィリーの手をぺろぺろ舐める。


「がう」

 タマの真似をしたいのか、ガルヴが俺の手をぺろぺろ舐めていた。

 俺はシアたちに向けて言う。


「シア、セルリス、それにニアも活躍したそうじゃないか」


 ニアはゆっくり首を振る。


「セルリス姉さまやシア姉さまは活躍されてましたが……私は逃げまどっていただけです」

「そんなことないわよ? ちゃんとアークヴァンパイア狩ってたじゃない」

「ほう、アークを? それはすごい」


 俺が褒めると、ニアは複雑な表情になる。


「あれは……たまたまで」


 ニアはヴァンパイアや魔装機械の攻撃から必死に逃げていたのだという。

 よけるので精いっぱい。攻撃に転じることなどできそうもない。


 だが、逃げた先、目の前にアークヴァンパイアが背を向けて出現したのだという。


「魔装機械と戦っていた水竜さんに攻撃を仕掛けるために、霧になって移動してきたようでした」

「なるほど。それで倒せたと」


 目の前に出現したアークヴァンパイアに、ニアは驚き、咄嗟に剣をふるった。

 すると、アークヴァンパイアの首が飛んだのだという。


「たまたまです。私はレッサーから逃げまどっていただけです」

「咄嗟に剣をふるったとしても、たまたまでアークの首が落ちるものか。日々の鍛錬があったからこそだ」


 咄嗟だからこそ、力量が問われるというもの。

 ニアはまだ幼いのに優秀だ。


「そうよ。もっと自信を持っていいわ!」

 セルリスはニアをほめながら、頭を優しく撫でていた。


「むしろ私の方こそ、活躍したっていうほどのことじゃないの」

「魔装機械は水竜さんたちに全部お任せしたでありますね……」

「魔装機械は強いから仕方ない」


 一応、俺は昏き者どもの基本戦術を説明する。

 昏竜や魔装機械と戦っているところに、霧になって近づくというやつだ。

 もちろんシアたちも気付いているだろう。


 そして、忘れてはいけないことが一つ。


「レッサーやアークヴァンパイアだけならともかく、魔装機械まで襲撃に加わっているのなら危険すぎる」

「……私たちは水竜の集落の防衛に参加するなってことかしら?」

「そのとおりだ」


 シアたちはなにも言わない。だが、目で不満を訴えている。


「昨夜の活躍は認める。だが、危険性が高すぎる」

「ロックさんの言いたいことはわかるわ。でも……」

「昨日見て、気が付いただろう。魔装機械が危険すぎるんだ」

「わかるわ。充分に用心するから……」

「だめだ」


 用心してどうにかなるレベルではない。


 セルリスは食い下がったが、シアとニアは神妙な表情をしていた。


「確かに……。あたしたちには少し荷が重いのはたしかでありますが……。水竜の皆さまだけでは被害が出かねないと思うでありますよ」

 シアの指摘も正しい。

 アークヴァンパイアの奇襲に対応するにはシアたちの役割を果たすものが必要だ。

 とはいえ、魔装機械の出現する戦場にシアたちを連れていくことはできない。


「……それでもだめだ」

「用心するわ!」

「だめだ」


 セルリスは少し粘ったが、俺ははっきりと禁止した。

 セルリスは悔しそうだ。涙目になっている。

 かわいそうな気もするが、許可して死なれるよりましだ。


「残念ですが……。私が行ったら足手まといになってしまいます」


 ニアも悔しそうだが、前向きな雰囲気がある。

 逃げまどうしかなかった自分の力量不足を痛感しているのだろう。


 セルリスに、シアが笑顔で言う。


「まあ、魔装機械はちょっと手に余るでありますからね!」

「でも……。ヴァンパイア相手になら……私だって」

「それはそうでありますが、ニアだけでなく、あたしたちも足手まといでありますよ」


 水竜は心優しい。いざというとき、セルリスたちをかばってくれるだろう。

 もし、セルリスたちが助かっても、水竜たちに被害がでる。

 それはセルリスたちも望まないことだろう。


「じゃあ、セルリス、あたしたち狼の獣人たちと同行するでありますか?」

「……いいの?」


 シアは俺の方を見る。


「ロックさん、今は敵の本拠地をつぶす流れでありますよね?」

「……よくわかったな。その通りだ」

「このままだと大きな被害が出そうでありますからね」


 エリックやドルゴたちと出した結果はまだ話していない。

 Bランク冒険者としての経験で的確に状況を判断したのだろう。


「陛下はおそらく、我ら狼の獣人族にヴァンパイアの情報を求めるでありますよ」

「そうするだろうな」

「あたしたちが、水竜の集落で出来ることが少ないのなら、出来ることをするだけであります」


 それも危険はもちろんある。

 だが、冒険者として当然の危険でもある。


「シア。ぜひお願いします。連れて行ってください」

 セルリスはシアに頭を下げる。

 だが、俺はこのままでは賛同は出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る