第170話

 朝食後、ドルゴが言った。


「愚者の石を生成されたうえ、魔装機械の製造も始まっているというのであれば……。防衛だけしていればいいというわけにもいかないやもしれません」

「とはいえ、水竜の防備をおろそかには出来ません」


 エリックの言うとおりだ。

 いつまた、侵攻があるかわからないのだ。


「防衛を続けながら、敵の本拠地を探すしかないでしょうね」

 俺がそういうと、ゴランがうなった。


「うーむ。そうは言うがな。どうやって探すんだ? 大々的に冒険者を使うのは難しいぞ?」


 昏き者ども、特にヴァンパイアとの戦いにおいては魅了の問題が付きまとう。

 冒険者が魅了にかかったり、眷属として取り込まれるのが最も恐ろしい。


 ギルドから公開の依頼を出した場合、昏き者どもの手の者がそれを見るだろう。

 そして罠を張られる可能性がある。


「シアたち、狼の獣人族に依頼するしかないか」

「Aランク冒険者のパーティーに秘密任務として依頼してもいい。予算は王国の方から出そう」

「そういうことなら……まあ、手を打てねーことはないが」


 黙って聞いていた、ケーテが真面目な顔で言った。


「我も空から探してみるのである」

「空から探してわかるものか?」

「探さないよりはましであろう」


 ケーテは基本暇なはずだ。ならば仕事があった方がいい。


「ケーテ、頼む」

「任せるのである!」


 その後も話し合いを進めた。

 結果、エリック、ゴラン、ドルゴたちが敵の拠点を調べてくれることになった。

 もちろん。ドルゴ以外は、配下を動かして探索するということだ。


「俺はなるべくこちらにいるようにしましょう」

「ラック、ありがとう」


 リーアは嬉しそうだった。

 エリックたちは業務があるそうで、急いで王都に帰っていった。


 俺も一度屋敷に戻り、準備することにする。

 みんなで一緒に宮殿の外に出た。


「あ、ラックさまだ!」

「昨夜はありがとうございます!」


 水竜たちが一斉に走ってきた。

 今日は三十頭ほどだ。残りの水竜は警戒に回っているのだろう。


「怪我に……いえ、怪我竜はでませんでしたか?」

「はい、おかげさまで! ほとんど大丈夫です」

「大した怪我を負ったものはいません。一番重いもので、全治一週間程度です」

「それは良かった」


 あれだけの襲撃だ。無傷というわけにはいかない。


「さすがは水竜のみなさんですね。レッサーやアークヴァンパイアはともかく魔装機械十機を相手にして重傷者を出さないとは見事です」

「えへえへ」

「そんな、照れます」


 水竜たちが一斉に照れている。尻尾がゆっくり上下に揺れていた。


「ラックさんのお弟子さんたちもすごかったです」

「さすがはラックさんのお弟子さんですね!」

「大活躍でしたよ」


 弟子というと、徒弟のニアだろうか。

 詳しく聞いてみると、セルリス、シア、ニアのことらしかった。


「我々は、どうしても小さいヴァンパイアを見逃しがちなのです」

「あーなるほど。確かに魔装機械を相手にしたらそうなるかもしれませんね」


 俺やドルゴ、侍従長モーリスたちがいた門での戦いでも、同様の奇襲があった。

 昏竜を相手にしていると、横にヴァンパイアが現れるのだ。


 レッサーヴァンパイアは霧に変化できないが、アークは変化可能だ。

 魔装機械を相手にしているときにアークヴァンパイアに襲われたら厄介だ。


「そんなとき、シアさんやセルリスさん、ニアさんが助けてくれたんです」


 そんなことを話していると、リーアが俺の袖を引っ張った。


「リーアも大活躍したの」

「そうなのか。すごいな」

「うむ。見事な働きであったぞ」


 ケーテもほめている。リーアも戦ったらしい。


「ケーテ姉さまもそう思う?」

「思う思う」

「へへへ」


 照れた後、リーアが言う。


「セルリスちゃん、シアちゃんやニアちゃんも、小さいのにすごいのね」

「竜やヴァンパイアロードならともかく、レッサーやアークならシアたちの敵ではないだろうからな」

「そうなの! すごいのよ!」

「リーアだって、活躍したんだろう?」

「でも、リーアは大きいもの。シアちゃんたちは小さいのにすごいのよ」


 リーアはシアたちに一目置いたようだ。

 そして、ケーテとドルゴは門から飛び立ち、俺は一旦屋敷に戻った。



 屋敷ではミルカが待っていてくれた。


「おかえりだぞ! 朝ご飯は食べるかい?」

「いや、すまない。食べてきてしまった」

「そっかー」


 ルッチラとゲルベルガさま、タマもやってくる。


「どうでしたか?」

「ココッ」


 ゲルベルガさまはパタパタ飛んで、俺の胸元に飛び込んできた。

 俺はゲルベルガさまをぎゅっと抱く。

 タマは俺の周りをくるくる回った。タマのことも撫でてやる。


「フィリーにも説明したいから、みんなを集めてくれないか?」

「先生を呼んで来ればいいのかい? 任せておくれ!」


 ミルカが走っていった。

 すぐに全員が居間に集まってくれた。


 ミルカ、ルッチラ、ゲルベルガさまにフィリーとタマだ。

 それに、昨日参加した、シア、ニア、セルリスもやって来てくれる。


 俺は集まってくれた皆に事情を説明することにした。

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