第130話

 俺はケーテに丁寧に説明することにした。


「人族の街では、なにをするにも金がかかる」

「ほう?」

「とりあえず、お金はいくらかかるのか、最初に尋ねたほうがいい」

「ふむふむ」

「ケーテは人族の文字は読めるんだよな?」

「当たり前である!」

「それなら、よく見たら値段が書いてある場合も多い」

「なるほどー。ロックは物知りであるなー」


 ケーテは、ふんふんと感心していた。

 俺たちの様子を見ていたシアが真面目な顔で言う。


「ケーテさんの宮殿がヴァンパイアに占拠されたとおっしゃったでありますね?」

「おお、そうなのだ。ひどい話であろう」

「はい。そのケーテさんの宮殿には何があったでありますか?」

「なにが……、と言われても……色々な生活にまつわるものがあったのだ」

「ケーテさんの宮殿というぐらいでありますから、大昔の施設だったりするでありますよね?」

「おお、なぜわかったのだ?」


 シアは鋭い。

 ケーテは昔の竜族の遺跡、それも宮殿だった遺跡を、自分の物にしていたに違いない。

 セルリスが、ケーテに尋ねる。


「ケーテさんが住処かにしているところに、何か装置みたいなのとかはあったのかしら?」

「うーん。装置はあったが……。昏き者どもが喜びそうな装置ではないのだ」

「例えば、どんな装置なのだ?」


 フィリーは真剣な表情で身を乗り出す。

 この場で最も装置の類に詳しいのはフィリーだろう。

 それにしても、フィリーもシアもセルリスも、ケーテに物おじしないのはすごい。


「そうであるなー」

「ケーテどのは、いつもはどのように使用しておったのだ?」


 フィリーがケーテに尋ねている間に、俺は通話の腕輪を起動する。


「エリック。ゴラン、聞こえるか?」

『どうしたのだ、ロック。通話テストか?』

『おお、エリックとロックの声が同時に聞こえるぞ。複数で同時に話ができるんだな』


 通話の魔道具の中でも、かなり高価なものの様だ。


「例のドラゴン、ケーテ殿がいらっしゃったぞ」

『む? どういうことだ?』

「人化して、直接俺の屋敷を訪ねてくださった」

『ケーテ殿は、グレートドラゴンではなかったんじゃねーのか?』


 ゴランの疑問はもっともだ。だが、それは後で聞けばいいだろう。


「詳しい話はあとで直接尋ねようと思う。どうやらケーテ殿の住処がハイロードに占拠されたらしい」

『なんだと』


 俺はエリックとゴランに、ケーテが撃退された様子などを報告する。

 昏竜イビルドラゴンと魔装機械に関して、二人とも脅威を感じたようだった。


『今から急いでロックの屋敷に向かう』

『俺もすぐに行くぞ』

「頼む」


 そして、俺はケーテに向けて言う。


「ケーテにも渡しておこう」

「む? これはなんだ?」

「通話の腕輪だ。使い方は……」


 俺が使い方を説明すると、ケーテは目をキラキラさせて聞いていた。


「なるほど、これがあればいつでもロックと話ができるのだな!」

「そうだ。エリックとゴランとも会話ができるぞ」

「ふーん」


 エリックたちとの会話にはあまり興味がないようだ。

 ケーテは、エリックとゴランに会ったことがない。

 その反応も当然と言える。


「で、そのエリックとゴランが今から来てくれる。とても強いぞ」

「ほほう。ロックがそういうのならば、期待できるな」

「で、フィリー。なにかわかったか?」

「確証はないのだが……。最悪の想像が的中していれば……」

 フィリーはそう前置きをし置いてから、ゆっくり語る。


「ケーテどのが万能ごみ箱として使っていた道具であるが……。魔装機械の製造装置だった可能性がある」

「なんと」


 俺は驚いてケーテを見た。

 ケーテは慌てて首を振る。


「まさかまさか! それはフィリーの杞憂であるぞ! 祖父も父も昔からごみ箱にしていたのであるし」

「代々?」

「我が宮殿は、我の祖父のころから、住んでいる家であるぞ」

「さっき、大昔の施設に住んでいるって言ってなかったか?」

「祖父のころから住んでいるということは、当然、数千年前ということである。人族にとっては大昔であろう?」

「確かに、そのとおりだ」


 祖父のころからと言っても、ケーテは人間ではない。竜族なのだ。


「ふふん。我も人族の常識を学びつつあるのだ」


 ケーテはどや顔だ。


「我は文化財を大切にする竜族である。太古の遺跡を勝手に占拠して住み込むなどするわけなかろう!」

「それは失礼した。ということは、ごみ箱自体も新しいものなのか?」

「……それはだな」

 ケーテは言いよどむ。


「どうした?」

「我は文化的な竜なのだが、祖父と父は、そうでもなくてだな」

「なるほど、ケーテの父上たちが、遺跡から持ってきた可能性もあるということか」

「……うむ。そうなのだ。勝手に持ち出すのはよくないと思うのだがな」


 元あった場所に戻そうにも、ケーテが生まれたときからごみ箱だったのだ。

 どこから持ってきたのか聞いても、父も祖父も、元からあったと言うばかり。

 仕方ないので、あきらめたらしい。


「まあ、ごみ箱の由来はともかく……魔装機械とやらを作れる可能性があるのならば、急いだほうがいいな」


 時間は昏き者どもに有利に働く。


「ゴランとエリックが到着次第、向かうぞ」

「私も……」


 セルリスがおずおずといった感じで、手を上げる。

 参加したいに違いない。


「……セルリスは」


 俺は言葉に詰まった。

 ヴァンパイアハイロードとの決戦の際、セルリスは王宮で待機だった。


「私も、腕を上げました」

「それはそうだ。だがな……」

「セルリス。わがままを言うな」


 ゴランだ。部屋に入ると同時にセルリスにはっきり告げる。


「ヴァンパイアどもだけならともかく、話を聞く限り魔装機械はやばい。セルリス。まだ足手まといだ」

「……はい。わかりました」


 セルリスはしょんぼりしていた。


「シアとセルリスは屋敷でゲルベルガさまやフィリーたちを守ってくれ」

「……わかったであります。護衛は大切な任務でありますからな」


 シアは冷静にうなずいた。


 そこにエリックが到着した。

 挨拶も省略し、エリックとゴランに魔装機械がさらに増える可能性を報告する。

 早速、ケーテの宮殿へ向かうことになった。


「では。参ろうか」

「ケーテ。王都の外に出てから、竜に戻って送ってくれ」

「わかったのである」


 そして、俺たちは王都の外に向かって走った。

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