第129話

 俺はそれなりに長い間、冒険者をしていた。

 そんな俺でも、魔装機械というのには遭遇したことはない。

 非常にレアなものだと考えていいだろう。


「ケーテ。その魔装機械っていうのが、大量にいたのか?」

「そうである」

「大量ってどのくらいだ?」

「確認しただけで三十機はいたのだ。きっとまだいるのだぞ」

「三十か……」


 三十は多いのか少ないのか、判断が付きにくい。

 一機の強さがどのくらいかによって脅威度が変わる。

 魔装機械はゴブリン並みなのか、ヴァンパイア並みなのか。


「で、その魔装機械っていうのは、どのくらい強いんだ?」

「三十機に囲まれて襲われたので、二十機壊したのだ」

「ほう? さすがケーテだな。だが、その状況で退いたのか?」


 ケーテは満身創痍には見えない。

 二十機を壊せたのなら、残り十機も壊せるのではないだろうか。

 そう思って聞いたのだが、ケーテはもじもじし始めた。


「……」

「どうした?」

「……すまぬ。我は嘘をついた。倒したのは一機である」

「なんでそんな嘘を?」

「……見栄を、我は見栄を張ってしまったのだ。すまぬ」

「……そうか。わかった」


 しょんぼりとしながら、白状するケーテを責める気にはなれなかった。

 だれでも見栄を張りたいときはある。

 だが、一機を二十機と言い張るのはさすがに盛りすぎである。

 二十機倒したと言いたいなら、せめて十五機ぐらいは倒していて欲しかった。

 ケーテは加減というものを知ってほしい。


「ケーテさんが一機しか倒せなかったというのは……。相当強いでありますね」

「その魔装機械っていうの一機で、Aランク冒険者のパーティーが必要かも知れないわね」


 シアとセルリスが深刻そうな表情でつぶやくように言う。

 シアとセルリス、そしてニアとガルヴはケーテと俺が戦っているのを見ていた。

 だから、ケーテの強さは知っているのだ。


「うむ。とてもやばい奴だったのだ」

「具体的にはどうやばいんだ?」

「とにかく硬くてな。我の火炎ブレスもあまり効いていなかったのだ。火炎ブレスを食らっても、ガシガシ動いていたぞ」


 ケーテの火炎ブレスは俺たちも食らった。相当な威力だった。

 大抵の魔物は耐えられまい。

 ヴァンパイアロードですら、無事では済まないだろう。


「……ガシガシ動いていたのか?」

「うむ。平気に見えたのだ」


 ケーテの火炎ブレスをうけても平気ということは、火炎耐性が異常に高いということだ。

 俺が戦うときも火炎は使わないことにしよう。


「ケーテの、爪と牙はどうだ?」

「一撃では倒せなかったのだぞ。数回も殴らねばならなかった」

「……それは本当に凄いな」


 ケーテは当然、力が強い。爪も牙も鋭い。

 一撃食らえば、大概の魔物は耐えられまい。


「魔装機械が恐ろしく頑丈なのはわかった。攻撃面はどうだ?」

「うむ。大きな音ともに小さい何かを飛ばしてきたのだ」

「小さい何か?」

「金属の小さい何かだ。ものすごく速くて目にもとまらぬほどだ」

「ふむ」

「めちゃくちゃ痛かったぞ」


 そして、ケーテはローブの袖をまくって左手を見せた。


「これを見るのだ」

「うん? 少し赤いな」

「腫れているのだ……。魔装機械の恐ろしい攻撃でこうなったのだ……」

「……それは、大変だったな」


 かすり傷というのも大げさなほどだ。蚊に刺されても、もう少し腫れる。

 まったくもって無事にしか見えない。

 ケーテは思いのほか痛みに弱いのかもしれない。

 絶対強者の竜種として生まれて、害されることなど全くなかったのだろう。


「魔装機械の攻撃が激しくて、異常に堅いうえに、ヴァンパイアハイロードが襲ってきたからやばいと思って逃げ出したのだ」

「なるほど。ヴァンパイアハイロードには魅了があるからやばいな」


 ケーテが操られたら、大きな被害が出るだろう。


「うむ。まあ、我はハイロードごときの魅了には抵抗できるがな!」

「そうか」


 ケーテは自信満々だ。

 見栄を張っている可能性もある。話半分に聞いておいた方がいいだろう。


「それにしても王都によく入れたな。衛兵にはなんていったんだ?」

「えいへい?」

「門のところにいただろう?」

「ああ、我は壁を登って越えてきたから、門は通っていないのだ」


 王都の城壁は非常に高い。高さも厚みも成人男性の身長の五倍ぐらいある。

 それを登るとは、やはり身体能力は異常に高いようだ。


「それで無銭飲食したのか?」

「いや、違うのだ。ロック。我の言い訳を聞いてくれ」

「聞こう」

「ロックの気配をたどって、ここに向かう途中にだな。ものすごくうまそうな匂いに気づいたのだ」

「それで?」

「何の匂いか気になるであろう? だから、その匂いの元に行って、じっと見つめていたのだ」


 恐らく屋台か何かだろう。


「見つめていたら、『お嬢ちゃん、どうだい? 食ってかねーかい? 絶品だぞ』って親切にも言ってくれたのでな、お言葉に甘えて食べまくったのだ」

「なるほど。ケーテ。言っておかねばならないことがある」

「なんだ?」

「今回のことでわかったと思うが、それはお金を払って買って食べていくかい? って意味だぞ」

「人族は言葉を省略しすぎる。恐ろしいことだ。一言もお金を払えと言ってなかったのだ」

「……それは災難だったな」


 ケーテに人族の生活について説明したほうがいいのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る