第131話

 俺たちはゴランを先頭に、王都を走る。

 俺とエリックはあまり目立たないほうがいい。

 だから、深くフードをかぶり、顔を仮面で隠しておいた。


「ケーテも顔を隠さなくていいのか?」

「なぜだ?」

「気にしないなら、それでいい」


 俺たちの後ろをケーテが走ってついてくる。

 さすがは竜族。人型になっても身体能力が高い。遅れずについてくる。


 王都の門には一日中、衛兵が立っている。

 走る俺たちを見て、衛兵は驚いたようだ。声をかけられる。

 

「モートン卿、どうなされたのですか?」

「非公式の緊急クエストってやつだ。通してくれ」

「了解いたしました」


 さすがはギルドのグランドマスターである。

 問い詰められることもなく、王都の外に出ることができた。


「そろそろ、戻ってもよいか?」

「まだだぞ」


 ケーテは王都を出てすぐに竜に戻ろうとしたので、たしなめる。

 王都からも街道からも距離をとってから、足を止めた。


「ケーテ、そろそろ竜になっても大丈夫だ」

「お、そうか?」


 もぞもぞと、ケーテは服を脱ぎ始めた。


「お、おい。なぜ脱ぐ」

「脱がなければ、服が破けるであろう! もったいない」


 考えてみれば当たり前の話だ。

 何のためらいもなく全裸になったケーテは大きく深呼吸すると、竜に戻った。


「なんと立派な竜であろうか」

「ああ、すげーな」


 エリックとゴランは感心していた。

 確かにケーテは立派なドラゴンなのだ。


「照れる」


 ケーテは、右手で後頭部辺りをわしわしする。

 竜のくせにやけに仕草が人間臭い。


「そんなことより、早く我が背に乗るがよい」

「お邪魔します」


 俺はケーテの背に乗った。

 ゴランとエリックも飛び乗る。


「では、行くぞ」

 ケーテは一気に飛び上がる。そしてすぐに加速を始めた。


「一日に二度も竜の背に乗ることになるとは」

「ぎゃっぎゃっぎゃ! 我も日に二度も人を乗せることになると思わなかったぞ」


 午前中は、ニアたちが一緒だった。だからケーテは加減していたのだろう。

 今の方が倍近く速くなっている。向かい風が凄い。しがみつくので精いっぱいだ。


『ケーテ、速いな!』

 大声で怒鳴っても聞こえないと判断したので念話テレパシーの魔法を使う。


『当たり前である。我は風竜ウインド・ドラゴンであるぞ!』

『そうだったのか。火竜ファイア・ドラゴンじゃないのか?』


 初めて会った時、ケーテは火炎ブレスを使っていた。

 それに魔装機械との戦いでも火炎ブレスを使ったと言っていた。

 当然、俺は火竜だと思っていた。


『ぎゃっぎゃっぎゃ! 我は風竜である。だから速いのだ!』


 機嫌よくケーテは飛んでいく。

 エリックもゴランも、顔を引きつらせて鱗にしがみついていた。


「ついたのだぞ。遠くに見えるであろう?」


 ケーテは滞空しながら、前方を指さした。

 ものすごく速く飛んでくれたおかげで、あっという間に目的地に到着した。


「……王都からの距離はどのくらいだ?」

「わからねえ」

「あの山脈を見ろ。あれは竜の山脈だろう」

「なら、王都から徒歩で三日? ぐらいか?」

「そうなるな」


 そんなことを話しながら、エリックとゴラン、そして自分に暗視ナイトヴィジョンの魔法をかける。

 もはや夕暮れ時。裸眼で遠くにあるものを観察するのは難しい。


 暗視魔法を通してみると、ケーテの宮殿というのがよく見えた。


 標高の高い山が連なっている。

 その中でも特に高い二つの山の頂上をつなぐようにして、なだらかな稜線がみえた。

 そこに大きめの丘のような、半球状の建造物が建っていた。

 エリックの王宮よりも広くて高い。


 入口の扉らしきものが周囲に転がっている。

 頑丈そうな金属の扉の残骸である。


 その周囲を、四足の金属製の蜘蛛のようなものが歩いていた。

 見える範囲には三体いた。


「……あれが魔装機械であるか」

「あの動いている奴だな? かなり大きくて強そうじゃねーか」

「そうである。火炎ブレスが効かないのだ」

「ケーテは風竜なんだろう?」

「そうだぞ」

「なぜ風のブレスを使わなかったんだ?」


 ケーテは少し黙った。


「……だって、我の風のブレスはかなり強いのだ」

「風竜ならそうだろうな」


 火炎ブレスであれほどの威力だったのだ。

 本来の自属性である風のブレスなら、威力ははるかに高くなる。


「我の家がめちゃくちゃになってしまうのだ」

「……それは、たしかに大変だな」

「であろう?」


 ケーテの気持ちはわかるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「とはいえ、魔装機械は強いんだろう? なら片づけを手伝ってやるから、暴風ブレスを頼む」

「えっ?」

「えっ? じゃないぞ。敵の数はかなり多いんだろう? ならそれが早い」

「……遺跡部分が壊れたら困るのだ」

「なるほど」


 そう言われたら強要しにくい。


「じゃあ、俺がおとりになって、敵をケーテの家から引っ張り出すから。そこに最強ブレスを頼む」

「だ、だが……」

「それなら、ケーテの家は壊れないだろう?」

「そうではなくて、我のブレスでロックが吹き飛んでしまうのだ」

「大丈夫だろう」


 ケーテの火炎ブレスはかなり強力だった。

 それよりも数段強いと考えても、来ることがわかっているのだ。

 いくらでも対処できる。


「ほ、ほんとに大丈夫か? ロック、死なぬか?」

「安心しろ。それほどやわではない」

「ほんとに、死ぬなよ? 死んだら嫌であるからな!」

「安心しろ。死なないから、手加減はするなよ」

「わかったのだ」

「頼んだ。もう少し近づいて、高度を落としてくれ。俺が宮殿に突っ込んで引っ張ってくる」


 エリックが不安そうに言う。


「手伝えることはあるか?」

「おとりなら俺がやるぞ」


 ゴランも真剣な表情だ。


「ケーテのブレスを受けたことがある俺が適任だ」


 エリックとゴランはとても強い。

 だが、単独での生き残り能力は俺が一番だ。

 防御能力も一番だと思う。


「エリックとゴランは、ケーテの暴風ブレスの後に突っ込んでくれ」

「わかった」

「気を付けるんだぞ」


 俺は高度を下げたケーテの背から飛び降りた。

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