第116話

 ヴァンパイアは俺に攻撃せず、鏡を叩き割った。

 命に代えても、鏡を壊さなければならない理由があったのだろう。


「ふふ」


 鏡を破壊したヴァンパイアは、こちらを見てかすかに微笑んだ。

 俺はそのヴァンパイアの首を、魔神王の剣で斬り飛ばした。


「さて。あの鏡は一体なんだ?」


 首だけになったヴァンパイアに尋ねた。

 視線は首に向けたまま、近くに転がっている干からびたヴァンパイアを並べる。


「俺からなにか情報を得られると思うのか?」


 首だけになったヴァンパイアが不敵に笑う。

 ヴァンパイアは基本的に口が堅い。幻術にかければよかった。

 後悔しても、もう遅い。


「調べればいいだけの話だ」

「じゃあ、そうしろよ」


 首だけのヴァンパイアと会話している間に、干からびたほうが徐々に回復していく。


「お前らは本当に回復力がすごいな」

「ふん!」


 首だけになったヴァンパイアにとどめを刺した。

 そして、ニアとガルヴに念話を飛ばす。


『そこの物陰に隠れてくれ』


 ニアとガルヴがこくりとうなずく。

 そして、こっそりと隠れる。ガルヴの尻尾が出ていたので、俺が手で押し込んだ。

 そのうえで隠蔽の魔法をかける。

 これで、アークヴァンパイアと言えど気づくまい。


 それから幻術を発動させて待機する。

 干からびている間、ヴァンパイアは意識がない。

 だから、うまくやれば幻術にかけることができるだろう。


 さらに十分待った。

 その間、干からびていたヴァンパイアはどんどん回復していく。

 まだ、顔色は悪いが、目を覚ます頃合いだろう。


 俺は幻術で、最初に倒したヴァンパイアロードの姿に化ける。


「おい! いつまで寝ているのだ!」

 怒鳴りつけながら、軽く蹴りつけた。


「一体……どうなったのです?」


 目を覚ましたヴァンパイアはきょろきょろ見回す。

 周囲には割れた鏡、そして灰と化した同僚の姿が見えたはずだ。

 それに加えて俺の死体の幻を転がしておく。


「どうなった、だと? それはこちらのセリフだ! なにゆえ鏡を割った!」

「て、敵は……」

「敵? とうに我が殺した」

「そうだったのですか。ありがとうございます」

「いいから、鏡を割った理由を話すがよい。下らぬ理由で割ったのであれば、許さぬぞ」

「強力な敵ゆえ、我らでは防ぐことができぬと思い……せめて鏡を敵の手に渡らせないために……」

「なんと愚かな……・我があのような人間に負けると思ったのか」

「申し訳ありませぬ」


 謝るヴァンパイアを見ながら、俺は少し考えた。

 俺の手に渡したくないものだったらしい。理由を知りたい。

 なんと問いかければ、聞きだせるだろうか。


「壊してしまったものは仕方あるまい」

「まことに申し訳ありません」

「修復せよ」

「それは私には……難しいことで……」

「わかっておる! 代替手段を考えろと言っているのだ」

「王宮に直接出向いて、転移魔法陣をつなぎなおすしか……」


 王宮? 不穏な言葉が飛び出した。

 まさか、エリックの王宮に繋がっていたとでもいうのだろうか。

 俺は平静を装って、尋ねる。


「それでよい。いつまでに出来る?」

「全力で走りましても……。私の足ならば片道三日は……」


 少し安心した。エリックの王宮とは別の王宮らしい。

 距離だけを考えれば、アークヴァンパイアが走れば、ここから王宮まで数時間だ。


 実際に走るならば、もっとかかる。

 神の加護と衛兵の目を誤魔化さなければならないからだ。

 それでも片道三日はかかるまい。


 どの王宮か聞かねばなるまい。だが、普通に聞いたら怪しすぎる。

 俺が化けているヴァンパイアは当然知っていることだからだ。


 俺は自分の頭を地面に落とす。もちろん幻術を使ってだ。

 頭を地面に転がして、二つに割った。


「なっ!」

「ああ、先程、侵入者に首をはねられてな。おかげで貴様を助けるのが遅れた」


 そう言いながら、頭を拾って首に乗せる。


「そうでしたか。それは大変でしたね」


 ヴァンパイアは納得したようだ。


「おかげで記憶が混乱していてな……」

「そうでしたか」

「聞きたいことがあるのだが、……ところでこの遺跡は、一体何のための遺跡であっただろうか」

「はい。竜族の古代遺跡の装置を利用して、愚者の石の製造を行うということになっております」

「……ああ。そういえばそうだった気がするぞ。すまぬな。混乱していて」

「いえ、なんでもお聞きください」

「そうか。それは助かる。その愚者の石を製造する装置はどれなのだ?」

「隣の部屋にございます」

「それは破壊されておらぬのだな?」

「そのはずでございます」


 かなり重要な遺跡だったようだ。


「そうか。それはよかった。ここの他にもその装置はあるのか?」

「全力で探しておりますが、ごく僅かしか見つかっておりませぬ」


 どうやら僅かとはいえ、ほかにもあるようだ。

 あと知りたいのは一つだけだ。


「ところで、鏡がつながっていたという、王宮とはなんであっただろうか」

「え?」


 さすがに怪しまれたかもしれない。

 俺は言い訳する。


「頭を縦に割られたせいで、脳髄への損傷がな」

「そうでしたか……。大変でございますね」

「うむ。思い出せそうで、思い出せぬのだ」

「我らが至高の王の御座所にございます」


 至高の王? ハイロードより偉そうだ。


「それは一体どのような方なのだ?」


 俺がそう尋ねた瞬間、ヴァンパイアが斬りかかってきた。

 咄嗟に返り討ちにする。首だけになったヴァンパイアに睨みつけられる。


「貴様……。偽物だな……」

「やっと気づいたか」

「至高の王のことを、それと呼ぶなど、記憶が無かろうがあり得ぬ」

「そうか。それは勉強になった」


 俺はヴァンパイアにとどめを刺した。

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