第97話

 冒険者ギルドに向かう途中、屋台の出ているエリアを通った。

 ガルヴはきょろきょろして、しきりに尻尾を振っている。


「なにを食べようかな」

「がぅー」


 ガルヴはとある屋台の前で足を止める。

 それは焼き鳥の屋台だった。


「ガルヴ、焼き鳥食べたいのか?」

「がう!」

「そうか」


 確かに、鶏肉の焼けるいい匂いが漂っていた。うまそうだ。

 俺は店主に尋ねる。


「あの、たれと塩両方抜くことって、できますか?」

「たれも塩も抜くのかい? それは構わねーが、たれかけたほうがうまいぞ?」

「こいつが頑張ったご褒美なんですよ」


 そういって、俺はガルヴを示す。

 それで、店主は納得したようだった。


「そうかい。そういうことなら、生もあるぞ」

「ガルヴ、生と焼いたのどっちがいい?」

「がうー」


 ガルヴの返事の仕方からは、正直どっちがいいのかわからない。


「じゃあ、生にするか?」

 尻尾をびゅんびゅん振る。生の方がいいのかもしれない。


「やっぱり焼いてある方がいいか?」

 そう尋ねても、ガルヴは尻尾をびゅんびゅん振った。


「焼いたのと生、両方おねがいします」

「量はどうする?」

「三本ずつで。あと俺も食べるのでたれ付きも三本」

「あいよっ! 少し待ってくれよ!」


 しばらく待つと、焼き鳥が焼き上がる。肉の大きい焼き鳥だ。

 お代を払って受け取ると、ガルヴを連れて公園へ移動した。


「ガルヴ、串とってやるからな」

「がうがう!」


 ガルヴはお座りして、尻尾を振っていた。

 串をとって、包み紙の上にのせる。


「食べていいぞ」

「がふっがふがふ」


 一生懸命食べている。うまそうだ。

 俺もガルヴと一緒にたれ付きの焼き鳥を食べる。うまい。


「焼き鳥を食べたって、ゲルベルガさまに言うなよ?」

「がふがふ」


 うまそうにガルヴは焼き鳥を食べていた。

 鶏肉はうまい。だが、にわとりのゲルベルガさまが聞いたら怒るかもしれない。


「ルッチラにも言わないほうが、いいかもしれないな」

「がふがふがふ」


 聞いているのか、いないのか、ガルヴは一心不乱に食べていた。


「ガルヴは体が大きいからもっと量が多くても良かったかもな」

「がふがふ!」


 あっという間にガルヴは食べ終わった。

 そして、俺の串をじっと見ている。


「これはたれがかかってるから、やらん」

「……がぅ」


 ガルヴは食べたそうに、俺のひざに顎を乗せる。

 そして、俺の串をじっと見る。


「だから、やれないんだって」

「……くぅーん」


 哀れっぽく鳴きながら、よだれをこぼしていた。

 俺の太ももがぬれる。


 やはり、体の大きいガルヴには串六本では足りなかったのかもしれない。


「あとで、また何か買ってやるから」

「くぅーん」


 ガルヴは鳴きながら、尻尾を振った。


 俺は串を食べ終わると、ガルヴに追加のおやつを買ってやることにした。

 肉を中心に買っていく。かなりの量になった。

 それをもって、公園に戻りガルヴに食べさせた。


「これなら屋台にいくより、食肉販売店に直接行った方がよかったかもな……」

「がふがふがふがふ」


 ガルヴは一生懸命食べている。

 まだ子供なのだ。いっぱい食べて大きく育って欲しい。


「わっ、おっきいわんちゃんですね」

 小さい子供が近寄ってきた。

 獣人の子供らしく、可愛らしい尻尾と獣耳が生えている。


「撫でてもいいですか?」

 礼儀正しい子供だ。


「いまはご飯食べてるからだめだよー」

「わかりました」

「がふ?」


 イヌ科は食事中に触られるのを嫌がる。取られると思うのだろう。

 だが、子供のころから触りながら上げると怒らなくなる。

 ガルヴもそう躾けたほうがいいかもしれない。

 次から、そうすることにしてもいいかもしれない。


 ガルヴがご飯を食べ終わるのを、子供はじっと待っていた。

 食べ終わると、再び聞いてくる。


「もう大丈夫ですか?」

「ああ、撫でてもいいよ」

「ありがとうございます」

 子供はガルヴを撫でる。子供の尻尾がバサバサ揺れた。


「えへへー」

「がうー」

 ガルヴも機嫌よさそうに尻尾を振っていた。


 その後、子供と別れて、冒険者ギルドに向かった。

 魔鼠の死骸十体を提出して、小金をもらう。


 ギルドの受付嬢が、真面目な顔で言う。


「魔鼠、たくさんいませんでしたか?」

「この子にも手伝ってもらって、かなり探しましたけど十匹だけでしたね」

「そうですか。それならよかったです。昨日大発生していたみたいですから、しばらくの間は下水道に入るときは慎重にしてくださいね」

「了解です」


 その後、もう一度、ギルドのクエスト掲示を確認する。

 やはりゴブリン退治は無かった。


「がぅー?」


 ガルヴも真剣な顔で掲示を見ていた。

 字が読めるのだろうか。


「お土産にお菓子買ってから帰るか」

「がう!」

 屋敷に帰る途中、たくさんのお菓子を買った。


「がっぅがうがぅー」


 ガルヴは、とてもご機嫌だ。お菓子が楽しみなのだろう。


「おや?」

「がう?」


 俺の屋敷の前に、子供が立っていた。


「さっき、ガルヴを撫でてご機嫌だった子供だよな」

「がぅ」

「なんか用でもあるのかね」


 俺はガルヴとともに、屋敷の前に行く。

 そして、子供に話しかけた。


「この家に何か用なのか?」

「あ、さっきのおにいさん! それにわんちゃん! 奇遇ですね!」

「おじさんは、この家の人なんだ」

「そうだったんですね」


 そして、子供は丁寧に頭を下げる。


「ぼくはシアの妹のニアと言います。ロックさんですね! 姉がいつもお世話になっております」


 シアの妹はどうやら礼儀正しいようだった。

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