第96話

 朝ごはんを食べながら、ミルカに尋ねる。


「シアやルッチラ、セルリスはどうした?」

「シアさんとセルリスねーさんは、冒険者ギルドに行くって言ってたぞ!」

「そうか。ルッチラは?」

「ルッチラは、庭でゲルベルガさまを散歩させてる」

「なるほど。散歩は大切だからな」


 そこで俺は考える。ルッチラとミルカにも教育を受けさせるべきではなかろうか。

 俺が教えてやれればいいのだが、忙しいのでそうもいかない。

 ここは、家庭教師を雇うべきだろう。だが、俺には伝手がない。


 ゴランにでも紹介してもらおう。そう決めた。


 朝ごはんを食べ終えて、後片付けを済ませると、俺は出かけることにする。


「ミルカ、ちょっと出てくる」

「ほいほい! 昼ご飯はいるのかい?」

「んー? 外で食べる。だが、夕食までには帰る」

「わかったぜ!」


 俺が外に向かおうとすると、ガルヴが一生懸命走ってきた。


「がうがう!」

「一緒に行くか?」

「がう」


 ガルヴも一緒に行きたそうなので連れていくことにした。

 庭にはルッチラとゲルベルガさまがいた。


「おはよう」

「おはようございます! ロックさん」

「こここ」

 ゲルベルガさまは機嫌よく鳴いている。


「少し出てくる。ゲルベルガさまを頼む」

「了解です!」「ここ」

「もし襲撃があれば、通路を通ってエリックを頼ってくれ」

「わかってます!」


 一応、防御魔法で屋敷はがっちり固めてある。

 とはいえ、防御に絶対はないのも事実だ。

 それに最近では神の加護を無効化するアイテムもわずかだが流通している。

 心配は尽きない。


「神の加護を無効化するアイテムを無効化する結界……とかつくれないだろうか」

「難しいと思います」


 俺がつぶやくと、ルッチラが真面目な顔でこたえてくれた。

 ルッチラは幻術使い。魔導士である。それもなかなかの魔導士だ。


「そうだよな」

「はい。でも、ぼくも考えてみますね」

「頼む」


 そういって、俺は屋敷を出た。


「がーうがうがうー」

 楽しそうにガルヴが鳴いている。


「ガルヴ、一緒に来てよかったのか?」

「がう?」

「今日は下水道に入る予定なのだが」

「がう!」


 ガルヴはびくっとした。

 下水道でおぼれたことがトラウマになっているのかもしれない。


「もしなんだったら、屋敷でルッチラやミルカと留守番しててもいいぞ」

「がう!」


 ガルヴは尻尾をピンと立てた。下水道など怖くない。

 そう主張しているようだ。


「そうか、無理はするなよ」

「がう」


 俺は一応、冒険者ギルドに顔を出した。

 壁に貼られている依頼票をチェックする。


 そうしている間中、ガルヴは俺に体を擦り付けていた。

 ガルヴは体が大きい。どうしても皆の注目を集める。

 だから、緊張しているのかもしれない。


「魔鼠退治のクエは出ているな……」


 魔鼠退治クエは、ほぼ常設だ。お役所からの依頼なのだ。

 事後受託可能クエ、つまり事前にクエストを受けなくてもいいクエストだ。

 魔鼠を退治して、死骸か魔石をもっていけば、報酬がもらえることになっている。

 一方、ゴブリン退治のクエは出ていなかった。


「平和で何より」


 俺はアリオとジョッシュを一応探す。見つからなかった。

 もうクエストを受けた後なのか、これから来るのかはわからない。

 もしかしたらお休みなのかもしれない。


 アリオたちは、俺と一緒に昨日かなりの数の魔鼠を退治した。

 今日はお休みにしたのかもしれない。


「さて、ガルヴ行くぞ」

「がう」


 俺はガルヴを連れて下水道へと向かった。

 入口から中に入ると、昨日よりも静かだった。


「ガルヴ。ネズミはいそうか?」

「がぅー?」

 よくわかっていなさそうだ。


「魔鼠が大繁殖していないか、チェックしないとまずいからな」

「がう」


 ミルカが俺に保護されてから、魔鼠の大繁殖までの時間は短かった。

 あのペースで今日も増えているのならば、数百匹の魔鼠がいてもおかしくない。

 数百匹の魔鼠は、けして放置してはいけない数だ。

 王都の民に、少なくない被害が出るだろう。


「ガルヴの鼻が頼りだからな」

「ガウ!」


 ガルヴはやる気だ。一生懸命臭いを嗅いでいる。


「がう!」

「そっちにいるのか?」


 走りだしたガルヴについて行くと、魔鼠がいた。

 二匹見つけたのでとりあえず退治する。


「死骸は魔法の鞄に入れておくか……」


 だが、これをどう処理すればいいのだろうか。

 屋敷の庭で焼くわけにはいかなくなった。


「数が少なければ、ギルドにもっていけばいいか」

 大量でなければ、Eランクへの昇格審査にはかかるまい。


 その後、ガルヴと一緒に見回りを続けたが、見つかったのは全部で十匹だった。

 通常の範囲と言える。大繁殖していなかった。ひとまず安心である。


「さて、帰るぞ」

「がうがう!」


 ガルヴと一緒に下水道を出ると、太陽が一番高いところまで昇っていた。


「もうお昼か。なにか食べていくか」

「がう!」

「ガルヴ何か食べたいのある?」

「がうー?」


 ガルヴは悩んでいるようだった。


「とりあえず、屋台のある方向に歩いていくか」

「がう」

「食べたいものがあったら言えよ」

「がう!」


 ガルヴは、ものすごい勢いで尻尾を振った。

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