第68話

 シアとセルリスは張り切っているようだ。


「頼む。気を付けてな」

「任せるでありますよ!」

 シアは尻尾をぶんぶんと振っていた。


「私も頑張るわ!」

 セルリスは大丈夫だろうか。少し不安だ。


「セルリス。本当に気を付けてな」

「わかってるわ!」


 シアとセルリスは、二人で屋敷を出て行った。

 それを見送りながら、ルッチラが言う。


「不安ですね」

「こぅ」

「そうだな。だがシアがいるから大丈夫だろう」


 ゲルベルガも不安そうだ。

 俺はひざの上で小さな声で鳴く、ゲルベルガの背を撫でた。

 翼と翼の間が、ふわふわである。


「こここ」

 ゲルベルガは気持ちよさそうにしていた。


 それから、俺たちは応接室を出た。


「じゃあ、俺は今日の分の食糧を買ってくるかな」

「ぼくが行ってきますよ」

「そうか。じゃあ。頼む」

「はい!」

「適当でいいぞ。食糧は適当に多めに買ってきてくれ」


 そういって、お金を渡す。


「お任せください!」

 ルッチラがおつかいに駆け出していった。


「ココゥ」

 ゲルベルガはルッチラの背を見送りながら、小さく鳴いた。

 ゲルベルガは狙われる可能性があるので、なるべく俺と同行するようにしているのだ。


「ゲルベルガさま。台所に行くぞー」

「コッコ!」

 俺が台所に向かうと、ゲルベルガは楽しそうについてくる。


「ここここ」

 小さく鳴きながら、たまに羽をばたばたさせている。


 台所には、ミルカとガルヴがいた。


「あ。ロックさん。どうしたんだい?」

「がう」


 ミルカは先程の服から着替えていた。

 先程の貴族の令嬢っぽい服じゃなく、普通の動きやすそうな服だ。

 それでも、美少女なのは変わりない。

 髪の毛がきれいになっているし、顔の汚れなども取れている。

 元がいいので、清潔にしていれば、とても可愛らしい。


「ちょっと、食糧保存庫でも作ろうと思ってな」

「そうかい! 手伝うことはあるかい?」

「いや、大丈夫だ。それより、着替えたのか?」

「うん。汚したらもったいないからな!」

「その服も似合っているぞ」

「えへへ。ありがとう」


 ミルカは照れている。

 今着ている服も、これまでのボロボロの服ではない。

 上等そうな生地で作られた仕立ての良い服だ。


「セルリスから貰ったのか?」

「そうなんだよ。セルリスねーさん、服を沢山くれたんだ」

「気前のいいやつだな」


 あとで俺からもお礼を言わねばなるまい。


「セルリスねーさんには、頭が上がらないぜ!」

 そういいながら、ミルカは掃除をしていた。


「掃除は明日からでもいいのに」

「台所ぐらいは綺麗にしとかないと、お腹を壊すからな!」

「そうか。すまない」


 掃除をするために着替えたのだろう。

 一方ガルヴはというと、台所の匂いを嗅ぎまくっていた。


「ガルヴわかっていると思うが、縄張りの主張は許さないからな」

「! ガウッ!」


 ガルヴはびくりとした。

 ちょっとぐらい主張してもいいのでは? そんなことを思っていそうだ。

 油断も隙も無いとはこのことである。


「いいか。ガルヴ。縄張りの主張というのはだな……」

「がぅ」

「俺の屋敷でも、王宮でも絶対したら駄目だぞ」

「がう」

「ゴランの家でもだめだ。というか室内では基本禁止だ」

「! がう!」


 え、だめなの? そんな感じの鳴き声だ。失敗する前に、教えられてよかった。

 それから駄目な理由を説明する。

 ガルヴはちゃんと、わふわふ聞いていたので、理解してくれただろう。


「普段はトイレでしなさい」

「がう」

「どうしても縄張りを主張したくなったら、散歩に連れて行ってやるから、その時にな」

「がう!」

「とはいえ、王都の中だと迷惑になるよな……。王都の外に散歩に行ったときにでも頼むぞ」

「がう!」


 ガルヴは子供だが、小さな馬ぐらい大きい。

 当然量も多いのだ。迷惑になる。

 ガルヴは賢いので、縄張りを主張しないで散歩も出来るだろう。


 そんなことを話している間に、ゲルベルガはガルヴの背に乗っている。

 お気に入りの場所らしい。

 ガルヴも特に嫌がらない。


「さて、食糧保存庫だが、ルッチラが帰ってくるまでには作りたいな」

「これじゃダメなのかい?」

 ミルカが台所に元から付属していた大きな戸棚を指でさししめす。


「普通の戸棚だからな。外に置いておくのと変わらないし」

「じゃあ、こっちはどうだい?」

 ミルカは床を指さす。床下にも収納スペースがあるようだ。


「こっちは冷暗所って感じでいいな」

「だろ」

 ミルカは自慢げだ。掃除しながら、どこに何かあるか調べていたのだろう。


「両方使おう」

 俺は両方に保存プリザベーションの魔法をかける。

 それから容積拡大エクスパンションの魔法もかけておいた。

 いわば、固定式の魔法の鞄のようなものだ。


「どんな魔法をかけたんだい?」

「それはだな」

 俺はミルカに説明しておいた。


「ロックさん、すげー」

「一応、秘密だが、俺は魔法使いでもあるのだ」

「そうなのかー」


 それから、俺は改めて屋敷の中を見回った。

 隠し通路や隠し部屋が他にもあったら把握しておきたい。

 ミルカ、ゲルベルガ、ガルヴもついてくる。


 残念ながら、新たな隠し通路や隠し部屋は見つからなかった。

 ついでに、俺は屋敷に魔法をかけて回った。

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