第69話

 一通り、屋敷と敷地全体への魔法をかけ終わった。

 扉や窓の魔法鍵も一応設置する。

 鍵登録は後でみんながいるときにすればいいだろう。


「こここ」


 ゲルベルガは俺の後ろをついてくる。

 時たま虫を捕まえて食べていた。

 ガルヴもゲルベルガの後ろを大人しくついてきている。


「庭に出てみるか」

「コゥ!」

「がう」


 ゲルベルガが特に嬉しそうだ。

 ガルヴも尻尾を振っているので嬉しいのだろう。


 庭に出ると、「こここ」と鳴きながら、ゲルベルガは駆けまわっていた。

 抱きかかえられて移動することが多かったので、運動不足なのかもしれない。

 ガルヴも庭の匂いを嗅ぎまくっている。


「ここ」

 ゲルベルガは虫を食べたり、草を食べたりしていた。


 俺は玄関口に座って、獣たちの様子を眺めていた。

 すると、門の外側にアリオとジョッシュがいるのを見つけた。


「あ、ロック! ほんとにここに住んでるんだな」

「ロックさん。すごいですね」

「おお、よく来た。それにしても、俺の家がよくわかったな。教え忘れてたのに」


 ジョッシュが笑顔で言う。


「さっき、シアさんとセルリスさんに聞きました」

「そうだったのか。セルリスたちはどうした?」

「人探しの依頼を探しているみたいだったぞ」


 当初の予定通り動いているようだ。

 人探し系クエは通常クエのように受注するシステムではない。

 人探し系は達成不可能クエストの可能性が高いからだ。

 死亡している。もしくはすでに他国に出奔済みなどの可能性もあるのだ。


「そうか。ところでアリオたちはいいクエ見つけられなかったのか?」

「いや、いつものように魔鼠まそ退治クエを受けたんだけどな」

「ちょっと手に負えないクエストでして……」


 そしてアリオたちは頭を下げた。


「ロック、手伝ってくれ」

「ロックさんに魔鼠退治の手伝いを頼むなんて、失礼だと思うのですが……」

「それは全く構わないぞ。だが、手に負えない魔鼠ってなんだ?」

「それがですね……」


 いつものようにアリオとジョッシュは魔鼠退治の依頼をうけて下水道に入ったのだという。

 だが、魔鼠の数が異常だった。

 いつもは数時間下水道を歩いて、数匹、多くても十数匹に遭遇する程度だ。

 だが、今回は数百匹を超える魔鼠を目撃したのだという。


 いくら魔鼠と言っても、数百匹もいれば、とてもじゃないが退治しきれない。

 それで、俺に助けを求めに来たのだという。


「ギルドに報告して、放棄しようと思ったのだがな」

「手続きにしばらくかかるといわれました」

「少なくとも明日の午後まではかかると言っていたぞ」

「それまでに魔鼠が下水道から外に出てきたらと思うと……」

「民に被害が出かねない」


 アリオとジョッシュの懸念はもっともだ。

 とはいえ数百匹といってもただの魔鼠。

 俺なら問題なく終わらせることは出来るだろう。


「じゃあ、行くか」

「ありがとうございます」

「助かる」

「ガウ!」

 ガルヴも張り切っていた。


 俺は軽く準備をしてから出発する。

 念のためにゲルベルガには俺の胸あての中に入ってもらった。

 ヴァンパイアハイロードと戦った時と同様だ。


 下水道への入り口に向かって歩いていくと、たまたまシアとセルリスに遭遇した。


「順調か?」

「まだ手探りって感じでありますよ」

 そう言いながら、シアの尻尾はぶんぶんと揺れていた。


「これからアリオたちと一緒に魔鼠退治に行くんだが。シアたちもどうだ?」

「あたしは……。すこし調べたいことがあるので」

「そうか。セルリスは?」

「下水道よね? 下水道でも調べたいことあったし私は魔鼠退治に参加しようかしら」

「そうでありますね。セルリスさんはそっちを頼むであります」

「シアさんこそ、よろしくお願いするわ」

「任せるであります!」


 そう言ってシアは歩いて行った。高級住宅街で調べることがあるらしい。


 一方、俺たちの方も下水道に向かって歩いていく。

 しばらく歩くと、下水道への入り口が目に入った。

 立派な扉があり、それを開いて中に入ると、下水道に続く階段があるのだ。


「戦士の俺が先頭、同じく戦士のセルリスが最後尾で行くぞ」

「了解だ」

「わかりました」

「わかったわ」


 アリオは火球ファイアーボールを使えるFランク魔導士だ。

 そして、ジョッシュは優秀なFランク弓スカウトである。


「ガルヴは……俺の横かな」

「がう」

「ちなみに下水道の中なら、縄張りを主張していいからな」

「! ガウッ!」


 ガルヴはとても嬉しそうに尻尾を振った。

 縄張りの主張は本能だ。いつもは理性で我慢しているのだ。

 さっそくガルヴは一生懸命、周囲の臭いを嗅ぎはじめた。


「じゃあ、行くぞ」


 魔法の鞄からカンテラを取り出して、灯りをつける。

 魔法灯マジックライトでもいいのだが、一応俺は戦士ということになっている。

 あまりでしゃばるべきではない。


 しばらく進む、キーキーという鳴き声が聞こえてきた。


「ネズミたちの声がうるさいな」

「だから、俺たち二人の手には負えんと判断した」

「いい判断だ」


 冒険者は慎重なぐらいでちょうどいい。


 さらに進むと、カンテラの灯りが魔鼠を照らす。

 とても大きな魔鼠だった。

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