2章

第46話

 ヴァンパイアハイロードを討伐した功績で、エリックから家をもらった。

 話を聞くに、後継者不在で断絶した男爵の屋敷らしい。

 俺の欲しかった家よりかなり広そうだ。


「とりあえず、入ってみよう」

「はい」「ココッ」


 俺は同居予定のルッチラとゲルベルガ、そして狼とともに屋敷に入る。

 ゴランやセルリス、シアも興味津々といった感じで付いてきた。


 家の中に入ると、今すぐ何不自由なく暮らし始めることができそうだった。


「家具まであるのか」

「気に食わなければ交換すればいいと思うわ」


 セルリスがそんなことを言う。さすが金持ちのお嬢さまだ。


「断絶したのはだいぶ前って聞いたけど……、綺麗だな」

「エリックが言うには、ラックが家を欲しいと言った時のために用意しておいたらしいぞ」

「えっ? そうなのか?」

「そうらしい。居候をやめたいって近いうちに絶対言うはずだって考えてたんだとよ」


 エリックの予測は完璧にあたっている。

 そして、ゴランはまだ遠い目をしながら言う。


「ずっと俺んちに居てくれていいのだがなぁ」

「そういうわけにもいかないだろ。ゴランにも家庭はあるんだからな」

「私もラックさんと一緒で全然かまわないわ!」

「それは、どうもありがとう」


 セルリスもそうは言ってくれるが、俺が気を使うのだ。


「ルッチラ、適当に気に入った部屋を自分の部屋にしていいぞ」

「ありがとうございます! 行きましょう、ゲルベルガさま」

「コッコケッ」


 ルッチラが二階の方へと駆けて行く。その後ろをゲルベルガがとてとてついて行った。

 一方、狼は俺の近くにずっといる。


「お前も家の中を見て回っていいぞ」

「がう」

「犬のトイレについても考えないと駄目だよな」

「ががう」

「いましたいのか? トイレも用意できてないし、今日は特別に庭でしてもいいぞ」

 とりあえず、トイレを用意できない間は庭に埋めておけばいいだろう。


「がうがう」


 狼はパタパタ走ると、とある扉の前で止まる。

 そしてこっちをじっと見る。


「どうした?」

 俺が狼に近寄ると、器用にレバー型のドアノブを口でつかんで扉を開いた。


「おお、すごいな」

「がう」


 狼がどや顔で開いたのはトイレの扉だった。

 俺が見ていることを確認すると、狼は便座の上にお座りした。

 普通の犬ではなく、大きな狼なので、上手に座れるようだ。

 そして、すぐにブシャーーっとおしっこを始めた。

 自分に犬用のトイレは必要ないというアピールだろう。


「最近の犬はすごいな」

「狼でありますよ?」

「そういえば、そうだったな。狼はすごいんだな」

「狼ってすごいのねー」


 ゴランとセルリスは狼の特性だと思っているようだ。

 狼の特性ではなく、個体の特技みたいなものだろう。


 狼はトイレを済ませるとまた、俺の近くまで来た。

 なかなか、俺から離れようとしない。

 とりあえず、褒めながら、頭を撫でておいた。


「あ、そうだ。ラックには、まだ渡すものがあったぞ」

「なんだ?」

「エリックからの褒美の一つだ」


 ゴランが渡してきたのは魔法の鞄だ。


「ラックの使っていた奴は魔神との十年間の戦いで失くしてしまっただろう?」

「そうだな。すごく助かるぞ」

「お金については、冒険者カードでいつでも引き出せるようにしておいたぞ」

「色々すまんな」

「なに、気にするな」


 そんなことを話していると、ルッチラたちが二階から戻ってきた。


「ラックさん、部屋決めました!」

「コゥ!」

「お、どこだ?」

「こっちです!」


 楽しそうなルッチラに案内されて、部屋に向かう。

 二階南東側の角部屋だった。真っ先に朝日が入りそうだ。


「あー確かにゲルベルガさまが好きそう」

「コッコ!」


 ゲルベルガも嬉しそうで何よりだ。


「そうだ。ゲルベルガさまを守るためにも結界を張っておこうか」

「あ、お願いします!」

「屋敷の敷地全体に張って、部屋ごとにも張るといいかな」

「多重結界ですか? すごいです!」

「ココウ!」


 とりあえず、ルッチラとゲルベルガの部屋に結界を張っておいた。

 これで昏き魔物は、容易には入れないだろう。


 そもそも、強い魔物は王都全体にかかっている神の加護で入れないことになっている。

 だが、王宮にアークヴァンパイアが侵入したように、完全ではない。

 警戒はしておかなければなるまい。


「とはいえ、完璧な防備というのはありえないから、注意はするんだぞ」

「はい! 気を付けます!」「コゥ!」

「がうがう」


 狼も任せろとばかりに吠えていた。

 それを見ていたシアが言う。


「ラックさん。そろそろ、狼さんにも名前を付けてあげるべきでありますよ」


 その瞬間、狼の尻尾がぶんぶんと揺れる。

 名前が欲しいのかもしれない。


「そうだなー。なにかいい名前ないか?」


 俺が問うとみんな真面目な顔で考え始めた。


「うーん。そうね。チョコとか」

「俺はコロとかがいいと思うぞ」

「ぼくはヴァナルガンドがいいと思います」

「あたしはフェンリスウールヴがいいと思うでありますね」


 ゴラン親子と、ルッチラ、シアとの温度差がすごい。


「お前はどれがいい?」

「……がう」


 どれも、狼的にはあまり好みではないようだ。

 しばらく、狼を囲んでどんな名前にするかの議論が続く。


「もう、ガウガウでいいんじゃないかしら?」

「! ガガウ!」


 セルリスの投げやりな発言に、ショックを受けたように鳴く。

 さすがにガウガウは可哀そうだ。


「よし、もう、俺が決める! ガルヴにしよう」

「がう」


 狼は一声鳴いて、尻尾を振った。気に入ったようだ。

 セルリス案の「ガウガウ」とシア案の「フェンリスウールヴ」を混ぜただけだ。

 気に入ってもらえたならそれでいい。


 そのあとは、家の中を見て回ったりして楽しく過ごす。

 結局、みんなで夜遅くまで楽しく騒いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る