第47話

 日付が変わったころ、俺は自室に向かった。

 ガルヴが当然といった感じで付いてくる。

 今日は、ゴランとセルリス、シアたちも客室に泊まっていくことにしたようだ。


「ガルヴも自分の部屋欲しかったら言うんだぞ。余裕はあるからな」

「がう」


 俺がベッドに入ると、ガルヴも一緒に入ってきた。

 大きいのですごく邪魔ではある。


 ベッドから降りるように言おうとしたが、

「くぅーん」

「まあ、いっか」

 可愛く鳴かれたので許してしまった。


 ちなみに、俺の部屋はルッチラとゲルベルガの部屋の隣だ。

 万一のとき、すぐに駆け付けられるようにするためだ。


「いいか、ガルヴ」

「がう?」

「ゲルベルガさまは神鶏さまだからな。神みたいなものだ。だから悪い奴に狙われるかもしれない」

「がう」

「怪しい奴が近づいてきたら、教えてくれよ? ガルヴは耳とか鼻鋭いもんな?」

「わう」


 ガルヴの尻尾がぶんぶんと揺れる。任せろと言っているかのようだ。


「ガルヴがいてくれると安心だな!」

「がう!」


 一応屋敷には結界を張っている。

 弱い昏き者どもが入ってこられなくなる結界だ。

 強い昏き者は、王都全体に張られている通称神の加護という名の結界にお任せである。


 俺はガルヴと一緒に眠りについた。



 その数時間後、

「ロックさん、ロックさん」

「コッコッ」

 ルッチラとゲルベルガに起こされた。


「……どうしたんだ?」

「夜中にトイレに起きたんですが、……怪しい音がするんです」


 ルッチラは小声でささやくように言う。

 お客さんであるゴランたちが寝ている時間だ。起こさないよう気を使っているのだろう。


「怪しい音とな?」

「コッコ!」


 ゲルベルガが、ルッチラの腕の中から、俺の胸元にぴょんと跳んでくる。


「コゥゥ」

 ゲルベルガはプルプルと震えていた。

 ルッチラよりゲルベルガの方が怖がっている。


「ゲルベルガさま、もう安心だからな」

「コッコ」

「ルッチラ、その怪しい音とやらがしたところに案内してくれ」

「はい」


 俺はベッドから出る。

 それから、ベッドの中にいるガルヴを見た。


「ぐふー」

「完全に寝てるな……」

「……すー……わふ」

 気持ちよさそうに寝ている。起きる気配すらない。


「今のガルヴは役に立ちそうもない。おいて行こう」

「はい」「コケッ」


 俺たちは静かに進む。

 階段を下りて一階へと向かい、それからトイレに行く。


「トイレしに一階に降りたんだったな」

「はい。ゲルベルガさまと一緒にトイレに行ったのですが、あちらの方から音が」


 ルッチラが指さしたのは書斎だ。前住人の男爵が残した本がたくさん入っている。

 俺とルッチラは書斎に入った。

 しばらく息をひそめる。ゲルベルガも俺の腕の中で、息をひそめていた。


 ――ギギギィィィ


「確かに変な音がするな」

「そうなんです」


 怯えたゲルベルガがプルプルし始めた。


「どこから音がしてるか調べよう」

「はい」

 音をたてないようにして、耳をそばだてる。

 こんな時こそ、ガルヴに活躍してほしいところだ。

 だが、気持ちよく寝ていたので仕方がない。


 ――うう……いたいよぅ……くるしいよぅ…………たすけて…………


「声がしたな」

「ココココココ」


 ゲルベルガが細かく震えはじめた。

 本当に怯えている。ヴァンパイアには強いのに、幽霊には弱いらしい。


 俺はぎゅっと抱きしめてやった。


「アンデッドでしょうか?」

「かもしれん」


 ルッチラは幻術を得意とする魔導士らしく冷静である。

 幽霊などは幻術のいいネタだ。

 あくまでも、ルッチラは幽霊のイメージを利用して、人を驚かす側なのだ。

 だから怖くはないのだろう。


「こっちだな」

「はい」


 俺はゲルベルガを抱いたまま、ルッチラと一緒に音のする方へと向かう。


「何もないですけど……音はこっちからするんですよね」

「隠し扉かもな」


 俺がそういった瞬間、ルッチラの目が輝いた。

 隠し扉にわくわくする気持ちはわかる。


 俺は熟練の冒険者だ。そして、パーティーではスカウトも兼任していた。

 だから、隠し扉を見つけるのはお手の物だ。


 少し調べて、発見する。


「ロックさん、すごいですね。まったくわかりませんでした」

「普通の屋敷にあるレベルの隠し扉じゃないな。中級ダンジョンクラスだぞ」

「お宝があるのかも」


 ルッチラは相変わらずわくわくしている。幽霊のことなど忘れていそうだ。

 俺は罠を確認しながら、隠し扉を慎重に開けた。

 地下への階段が続いていた。


「コココウ」

 ゲルベルガは怯えているらしく、俺に体を寄せて肩の方へと首を伸ばす。

 俺はゲルベルガを抱きしめながら、ゆっくり階段を下りていく。


 一番下まで降りると、部屋になっているようだ。

 窓もないため、真っ暗だ。多少夜目が利いても何も見えないだろう。


「暗いですね。明るくしていいですか?」

「頼む」


 ルッチラが魔法灯マジックライトの魔法を使う。

 途端に周囲が明るくなった。


 すぐ目の前に人影があった。

 こちらに背を向け逆立ちする形で宙に浮いている。

 ぼさぼさの髪の毛が垂れ下がっていた。


「ココココココココ!」

 ゲルベルガが、ブルブル震える。


「ゆ、幽霊ですね! 恨みでもあるんですか!」

 さすがのルッチラも驚いたようだ。

 ルッチラの声を聞いて、女の顔がくるりとこっちを向いた。

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