第40話

 エリックは俺たち三人とゲルベルガを見る。


「獣人族の皆がハイロードの場所を暴いてくれたぞ」

「助かるってもんだな。どうやって見つけるかが一番大変だからな!」


 ゴランはそういって豪快に笑う。

 シアも興奮気味に言う。


「さっそく、突っ込むでありますね!」

「ここまでおぜん立てしてくれたんだ。失敗するわけにはいくまい」


 俺がそういうと皆がうなずいた。

 馬に乗ったまま、ヴァンパイアハイロードの拠点に向かって移動する。

 走り出してから、俺は先程手に入れた第六位階の剣を思い出した。

 魔神王の剣と打ち合って折れなかった業物だ。有効活用したほうがいい。


 俺はエリックとゴランとシアの剣を見る。

 勇者エリックの剣は聖剣だ。第六位階の剣よりいい物だろう。

 ゴランの剣も使い込まれた魔法の剣だ。火炎属性に不壊属性が付与されている。


 シアの剣も悪くない剣だが、細くて頼りない。

 おそらくシアはスピード重視で細い剣を選んでいるのだろう。


「シア。この剣をやろう」

 第六位階の剣をシアに渡した。


「この剣はいったい?」

 そういってシアは馬上のまま、剣を数度振った。


「とても軽い剣でありますね。今のあたしの剣より軽いでありますよ」

「その剣は第六位階が使っていた物なのだが、俺の振るう魔神王の剣と打ち合って折れなかったんだ」

「それはすごいでありますね。こんな素晴らしい剣をもらってしまって良いのでありますか?」

「シアは、ゴブリンロード戦で剣が折れて苦労しただろう?」

「まだ、未熟ゆえ……」

「この剣ならそうそう折れることはないだろうさ」

「ありがたくいただくでありますよ。とても嬉しいであります」


 それを見ていたゴランが言う。


「ヴァンパイアロードの剣か。呪いとか大丈夫か?」

「それは抜かりない」


 俺がそういうと、ゴランは納得したようだ。

 魔導士としてその点はしっかりチェックしてある。

 解呪は難しくとも呪いが掛かっているかどうかは俺にも見分けられる。

 シアに渡した第六位階の剣には呪いはかかっていない。悪しき魔法もかかっていない。

 だから安心である。


 そうこうしている間に、狼の獣人族の族長に教えてもらった地点に到着する。


「む? 何もないな」

「たしかに。不審な気配はするが……」


 ゴランとエリックは馬から下りると、周囲を慎重に観察している。


「いえ、あたしには見えるでありますよ」

「俺にも見えるぞ。隠ぺいの魔法だ」


 シアと俺も馬を下りる。

 隠ぺいの魔法と言っても、ヴァンパイア独自のものだ。

 高位の魔導士の俺と、ヴァンパイアの精神作用系魔法が効かないシアには通用しない。

 一応、ラーニングしておく。


「いいか、いまから隠ぺい魔法を解除する。解除と同時に敵に気づかれると思った方がいい」

「了解だ」

「突っ込めばいいんだな?」

「覚悟は完了しているであります」


 エリックとゴランは真剣な顔だ。シアは剣を抜いた。


「ゴラン、エリック、シア、俺の順で突っ込もう」

「大魔法は使わなくていいのか? ラック、そういうの好きだろ?」


 ゴランはよく俺の好みを知っている。


「好みだが、魅了されている人間がいるかもしれないしな。捕らえられた獣人族がいるやもしれないし」

「そうか。それもそうだな」

「だから使う魔法は慎重に選ばなければなるまい。突入は魔法の後に頼む」

「了解だ」


 俺は隠ぺい魔法の魔力の流れを把握する。

 そして魔力を流して、一気に流れをかき乱してから遮断した。

 たちまち洞窟の入り口が見える。


 見張りはいない。隠ぺい魔法をかけている以上、見張りはいないほうがいい。

 見張りを立てれば人の気配も消さねばならないので、隠ぺいの難度が跳ね上がるのだ。

 おそらく中に入ってすぐのところに、獣人対策の見張りを置いているのだろう。


「少し待て」


 俺は洞窟に向けて眠りの雲スリープクラウドを放った。

 風の魔法を同時に使い、雲を洞窟の中へと流していく。

 そして、しばらく待機する。

 眠りの雲を洞窟に完全に充満させてから、風魔法で眠りの雲を外に飛ばす。

 これから突入するエリックたちが眠っては困るのだ。


「そろそろ、いいかな」


 そして俺はゴランたちに向けて言う。


「ヴァンパイアどもは精神異常耐性が高い。それでもレッサーまでは眠っているはずだ」

「了解した!」


 ゴランはまっすぐに突っ込んでいった。さすがに速い。

 エリックもシアもついて行く。


 洞窟に入ると、すぐにアークヴァンパイアと鉢合わせる。

 アークヴァンパイアは少し眠そうだ。俺たちに気づくのが少し遅れる。


「な……」

 言葉を発しかけたときには、すでにゴランの剣が首をはねていた。

 ゴランの剣の火炎属性により、ヴァンパイアは斬り口から燃え上がる。


 ゴランはヴァンパイアと遭遇しても足を緩めない。

 出会うすべてを斬り伏せるわけではない。走り抜けるのに邪魔な奴だけを斬っていく。

 自分が斬らなかったやつはエリックが倒してくれると信じているのだ。


 エリックも見事な剣技でヴァンパイアを仕留めていく。

 聖剣は昏き者どもに対しては絶大だ。一瞬で灰になる。


「罠であります!」

「了解!」


 罠はすべてシアが見破り、破壊していく。

 ヴァンパイアの精神作用系魔法、つまり隠ぺい魔法はシアには通用しないのだ。

 それに加えて鋭い嗅覚と耳。対ヴァンパイアのスカウトとして申し分ない。


 快調に進んでいくと、複数のヴァンパイアロードが立ちふさがった。

 その数5体。さすがのゴランでも、無視するわけには行かない。足が止まる。


「ロード5体か。ハイロードはきっとこの奥であろうな」

「おう、ラック。シア。ここは俺たちに任せて先に行け」


 エリックとゴランは笑う。

 いくらエリックとゴランでもヴァンパイアロード5体を相手なら苦戦しそうだ。


「ロード5体だぞ。大丈夫か?」

「あたりまえだろうが。この10年、強くなったのはお前だけじゃねーぞ」

「我らを舐めるでない。今はハイロードを仕留めるのが第一目標である。逃げられるわけにはいかぬ」

「ラック、シア頼んだぜ」

「わかった。死ぬなよ?」

「当然だろうが」

「そなたたちこそ、気をつけるのだぞ」


 俺とシアはヴァンパイアロードたちの横を駆け抜けた。


「逃すか!」

 ヴァンパイアロードが俺たちに追いすがり、攻撃をしかけようとする。

 だが、ゴランの剣がそれを許さない。


「よそ見たぁ、随分と余裕じゃねーか!」


 ヴァンパイアロードの攻撃は俺たちには届かなかった。

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