第39話

 討伐に向かうことを決めると、セルリスが立ち上がる。


「私も連れて行ってください」

「ダメだ」

 ゴランが即答した。


「私も戦えます。まだ冒険者になったばかりだけど戦闘訓練はずっと続けてきました」

「戦闘訓練でいくら鍛えていても、今回は力不足だ」

「ですが……」

「エリックやラックは優しいから言いにくいだろう。だから俺が父親として言おう」


 ゴランはセルリスの目をしっかりと見る。


「はっきり言って足手まといだ。ヴァンパイアハイロードを殺しにいくんだ。お前をかばっている余裕はない」

「……わかり……ました」


 父親にそこまで言われれば、セルリスは引き下がるしかない。

 セルリスは悔しそうにうつむいて、こぶしを握りしめていた。


 そんなセルリスに俺は声をかける。


「セルリス。経験は少しずつ積むしかない。今度一緒にパーティーを組もう」

「ありがとうございます」


 エリックも優しく声をかけた。


「セルリスが訓練していることは知っておる。今回は我が娘の護衛についてくれぬか?」

「はい」

「我が妻レフィも病み上がり故な……多少心配ではあるのだ」


 レフィは勇者パーティーの元ヒーラーだ。

 国でも有数の治癒術士で、戦闘能力もかなり強い。杖捌きは中々のものだ。


「かしこまりました。全力で守らせていただきます」

 セルリスの頭をゴランがわしわしと撫でた。


「セルリス。頼むぞ」

「はい。パパ。わかったわ」


 そして、俺はルッチラからゲルベルガを受け取る。

 ルッチラも王宮で待機だ。

 ルッチラは優れた幻術つかいではある。

 だが、ヴァンパイアハイロードとの戦いでは活躍するのは難しい。


「コッコ」

「ゲルベルガさま。しばらくは俺と同行してくださいね」

「コゥ!」


 ルッチラは優しくゲルベルガを撫でる。


「ゲルベルガさまも英雄ラックと一緒に行動出来て嬉しいでしょう」


 俺はセルリスに呼びかける。


「セルリス、ルッチラのことも頼むぞ」

「任せておいて」


 セルリスはだいぶ立ち直ったようだ。やる気のある目をしている。


 それから、俺たちは準備を済ませて仮眠をとる。

 ゲルベルガは俺と一緒にベッドで眠る。気持ちよさそうに眠っていた。

 ゲルベルガはふわふわで温かかった。


 そして、三時間後に起床する。

 胸当てを工夫し、ゲルベルガを中に入れた。


「ゲルベルガさま、狭いかもですが我慢してくださいね」

「コッコ!」


 そして、俺たちは王宮を出立した。

 時間が惜しい。第六位階が倒れたことは、すぐにハイロードの耳に入る。

 対策をとられるよりも早く仕掛けたいのだ。


 馬に乗って走りながら、エリックがゴランに尋ねる。


「獣人族の長たちには連絡してくれたか?」

「おう。昨日のうちにな。どうしても一方的な通告みたいになってしまったがな。シア。すまんな」


 獣人族には今朝攻め込むとだけ伝えることになった。

 足並みそろえて作戦をなどといった暇はないという判断だ。


 狼の獣人族といっても複数の部族がある。すべての部族に連絡するだけでも大変だ。


「いえ、王宮にまで攻め込まれているでありますよ。メンディリバル王家は既に当事者。横から獲物を奪ったということにはならないであります」


 メンディリバルは王国の名であり、エリックの家名でもある。


「獣人族は怒らぬか?」

「少しは愚痴をこぼすものもおりましょうが、攻撃を急ぐ王家側に筋があることは皆理解するでありますよ」

「ならばよいのだが……」


 エリックは心配している。国王としての色々な立場があるのだろう。


「エリック。終わった後に国王的な解決をすればいい」

「ふむ? というと?」

「感状や官職をやるとかな」


 俺に大公爵やら長い称号を与えたようにすればいいのだ。

 大公爵を与えるとなると政治的に大変だが、騎士爵ぐらいならば角も立つまい。


「少し。考えてみよう」

 エリックは真面目な顔で考え始めた。


 ヴァンパイアハイロードのアジトは王都から北に一日進んだところだ。

 馬ならば、四時間ほどの道のりだ。

 数回、馬を交換しながら走り、日の出のすぐ後に何とか到着した。


 そこは岩が多く、木々の少ない山地だった。


「この山地のどこかにいるってことだな」

「広すぎるのではないか? この広さを探索していては時間がかかりすぎてしまうぞ」

「さてどうするか。逃げられるわけにはいかないしな」


 そんなことを話していると、一人の狼の獣人が走ってきた。

 50前後の身体の大きな男だ。

 シアをちらりとみてから、エリックに向かって頭を下げる。


「お待ちしておりました。国王陛下」

「そなたは?」


 その男は、狼獣人部族の族長。その一人だという。族長はエリックに報告を始める。

 狼の獣人部族の連合体は全力を挙げて、本拠地の場所を調べ上げたらしい。


「味方の被害はどうであるか?」

「少なくない被害が出ました。ですが、本拠地を調べないことには後手後手に回ってしまいます」

「大儀である」


 エリックがそういうと、族長は改めて深く頭を下げてから言う。


「味方の被害は多く、その上ヴァンパイアの数も多く、我らの力では攻めきれぬというのが現状です」

「我らがハイロードを討伐しよう。他のロードたちは任せることは可能か?」

「お任せください。我ら部族の誇りにかけましても」

「頼む」

「陛下と、ともに戦えることは我らにとって光栄であります」


 エリックは獣人たちの戦力を聞きながら、要領よく作戦をまとめていく。

 タイミングが一番大切だ。

 俺たちがハイロード拠点攻撃と同時に、狼獣人たちがロードの拠点に攻め込むのだ。

 周囲にはロードがこもる拠点が複数あるのだ。一つも逃すわけにはいかない。


 エリックと族長の作戦会議が終わる。


「では、そのようにしてくれ」

「御意。お任せください」


 それから、族長はシアに言う。


「陛下に我ら狼の獣人族の勇猛さをご覧いただく機会である。そなたの一族と父の名に懸けて、奮戦することを我らは望む」

「あたしに任せるでありますよ」


 シアの返事を聞いて満足そうにうなずくと、作戦を伝えるため、族長は走り去った。

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