第34話

 その後はヴァンパイアハイロード討伐について話し合う。

 エリックが尋ねる。


「なにか策はあるのか?」

「俺とシアで正面から突っ込む予定だが」

「えっ?」


 シアが、びっくりしたような顔をする。

 シアは別の作戦を考えていたのかもしれない。


 俺の作戦を聞いたエリックとゴランが互いに顔を見合わせた。


「さすがに……、無策がすぎるのではないか?」

「そうだぞ。ラックなら勝てるだろうが、もう少し安全策をとってもいいかもしれねーな」


 俺はエリックたちに作戦を解説する。


「一応、策ではあってだな。俺とシアが突っ込めば、ヴァンパイアロードどもは集まってくるだろう?」

「そりゃ集まるだろーな」

「そうなれば、獣人族の部隊もヴァンパイアを狩りやすくなるだろう?」

「うーむ。ハイロード狩りは獣人族に任せるのか? 賛同は出来ぬな」

「俺も反対だ」


 エリックとゴランに反対されてしまった。


「シアはどう思う?」

「はい。むしろ獣人族の部隊がヴァンパイアどもを引き付けている間に、ラックさんがヴァンパイアハイロードを討伐すべきであります」

「うーむ……」


 悩みどころではある。

 ヴァンパイアハイロードは当然ロードより強い。

 だが、ロードの大群よりは戦いやすいはずだ。


 俺はロードの大群を相手にする方が難度が高いと考えた。

 だから引き受けようと思ったのだ。


「ラックさんの考えはわかっているであります。いわば陽動部隊を引き受けてくれるつもりでありますね?」

「まあ、そうだ。俺とシアなら、陽動の役割はきっちり果たせると思う」

「ラック。また自己犠牲の精神で献身するつもりか?」


 エリックの表情が険しくなる。

 俺は弁解の必要を感じた。


「いやいやいや。俺一人ならともかく、シアも一緒なんだ。自己犠牲にシアを巻き込んだりするわけないだろ」

「それもそうであるな」

「たしかにそうだな。疑って悪かった」


 エリックとゴランに頭を下げられた。


「ヴァンパイアロードぐらいならば、大群に囲まれたところで、生き延びる自信はある。もちろんシアの安全を完全に保障できるわけではないが」

「それは当然覚悟しているでありますよ。あたしもヴァンパイア狩りの一族の戦士。それにBランク冒険者でありますから」


 シアは若いのに、覚悟が決まっている。


「危険は当然あるが、俺は二人とも生還することを前提に作戦を考えているぞ」

「そうか。そうだな」

「ヴァンパイアロードを大量に引き付けられたら、ハイロードが手薄になる。そうなれば獣人の部隊に任せようと思っている」

「引きつけられなかった場合は?」

「その場合は、そのままヴァンパイアハイロードの首をとるぞ」


 俺の作戦を聞いて、ゴランとエリックも考え込んだ。

 そしてしばらくしてゴランが口を開く。


「冒険者ギルドからも応援部隊を出したいんだがな」

「魅了を警戒しているのか?」

「そうだ。魅了で味方が敵に回りかねない。」


 ゴランの言うとおりだ。

 ヴァンパイアの魅了で敵に回った冒険者は、俺も相手にしたくない。

 先程まで味方だったのだ。どうしても剣先が鈍る。


 魅了にかけられただけならば、回復手段がある。

 それは一見いいことのように思える。

 だが回復手段があって、救うことができる仲間を殺せる奴はそういない。

 助けようと努力し手こずっている間に、魅了による被害が拡大しかねない。

 一人が魅了にはまれば、パーティー丸ごと魅了される危険性が一気に高まるのだ。


「眷属化も警戒しなければならぬ」


 エリックも真剣な表情だ。

 吸血により眷属になったものは回復手段が限られる。実質不可能と言ってもいい。

 だから、たとえ元仲間でも、殺すしかないと思いきりやすくはある。


 だが、眷属と化したものは身体能力が向上する。

 元が優秀な冒険者であればあるほど、厄介な相手になる。

 CランクがBランク相当に、BランクがAランク相当に底上げされてしまうのだ。


「騎士も兵士も派遣しにくいのだ。すまぬ」

「冒険者も同様だ」


 エリックとゴランが頭を下げる。


「わかっているさ。俺も元冒険者相手だと、気持ちよく戦えないからな」

「我ら狼の獣人族には吸血も魅了も効かないであります。我らに任せて欲しいでありますよ」


 そんなシアに向けてエリックが言う。


「かたじけない。武器や防具。必要な物資などがあれば言ってほしい。あとで専門官を連れてこよう」

「ありがとうございます」


 シアは素直に頭を下げる。遠慮はしない。

 一族の生存確率を少しでも上げられるのだ。遠慮する理由がない。


「さて。俺も準備しなければな」

「久しぶりの前線だ。気合が入るってもんよ」


 そんなことをエリックとゴランが言う。


「え? エリックとゴランも参加するつもりか?」

「そうだが?」

「当たり前だろ?」


 エリックとゴランは何を当然なと言った感じだ。


「いや、いいのか?」

 エリックは国王だ。前線に出るべき人物ではない。

 ゴランも冒険者ギルドのトップなのだ。


「ラック。舐めるでない。ヴァンパイアの魅了ごとき抵抗できるぞ」

「そうだ、ラックばかりに活躍させるわけにはいかねーからな」


 国王とグランドマスターは満面の笑みでそう言った。

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