第33話

 俺が話し始めようとすると、エリックは椅子に座る。

 そして、他の者にも座るように促した。

 マリーとシャルロット、セルリス以外が着席すると、エリックは口を開いた。


「で、急ぎの用があるのであろう?」

「そうなんだ。ヴァンパイアに怪しい動きがあってだな」


 そこまで言って、俺はマリーを見る。

 マリーたちの前で血なまぐさい話をしていいか迷ったのだ。


 マリーはゲルベルガを撫でていた。そんなマリーを後ろからシャルロットが見守っている。

 セルリスはさらにその後ろから二人を見守っているようだ。


「せるりすねーさま。げるべるがちゃんかわいいね!」

「そうね。可愛いわね」

 そう言ってセルリスはマリーの頭を撫でている。


 親友であるゴランとエリックの娘同士、もともと交流があるのだろう。


 ゲルベルガを撫でているマリーをシャルロットが見つめている。

 シャルロットもおそらく、触りたいのだ。

 マリーの手前、大人ぶっているとはいえ、シャルロットもまだ幼女なのだ。


 それに気づいてセルリスは優しく促す。


「シャルロットも触らせてもらったら?」

「……ルッチラさん、ゲルベルガさま、触ってもよろしいですか?」


 シャルロットがルッチラに尋ねる。


「コッ!」

「どうぞ」


 ゲルベルガの返答をうけて、ルッチラもシャルロットに笑顔で応えた。


「ふわふわですね」

「ねー」


 シャルロットとマリーは互いに笑いあっている。

 ゲルベルガも嬉しそうだ。


 そんな二人をセルリスが優しい瞳で見つめていた。

 セルリスは俺のことを弟だとして可愛がろうとしたほどだ。

 シャルロットとマリーのことも妹扱いして、可愛がりたいのだろう。


 それを見ていたゴランが言う。


「そうだな。セルリス、王女殿下たちと遊んで差し上げろ。かまわんか? エリック」

「もちろんだ。頼む」

「了解しました」


 そう返事したセルリスはすごくいい笑顔だった。

 二人と遊べるのが嬉しいのだろう。


「じゃあ、あっちで遊びましょうか」

「はい。セルリス姉さま」

「せるりすねーさま、げるべるがちゃんとも、いっしょにあそびたいの」

 マリーがそんなことを言う。


「マリー、わがままを言ってはいけませんよ」

 姉のシャルロットが優しくたしなめる。


 その時、ゲルベルガが鳴いた。

「コッコケ!」

 そして、バサバサ飛んで。セルリスの肩に止まる。


「げるべるがちゃん、いっしょにあそんでくれるの?」

「コッコ!」


 マリーの問いに肯定するかのようにゲルベルガは鳴く。

 肩に止まられたセルリスはルッチラに尋ねる。


「ルッチラ、構わないかしら?」

「丁重に扱ってくださいね」

「ありがとう」


 そして、三人と一羽は別室へと移動した。


 その後、エリックが言う。

「気を使わせたようだな。我が娘への配慮ありがとう」

「いや、気にするな」

「用があるのは知っていたのだが……。どうしても、ラックにも我が娘を紹介したくてな」

「そうだったのか」


 エリックが娘を連れてきたのには、そういう理由があったようだ。


ちんが……いや、俺がシャルロットに会えたのは、ラックのおかげであるぞ」


 エリックは普段は自分のことを朕と言っているらしい。

 国王としては当然ではある。だが、意外な気がした。


「そういえば、魔神王との戦闘のとき、レフィは妊娠中だったな」

「そうだぞ。その赤子がシャルロットだ。そして、当然だが、ラックの自己犠牲がなければマリーも生まれておらぬ」


 レフィとはエリックの妻の名前だ。つまり王妃である。

 そして、俺たちのパーティーの元ヒーラーだ。


「レフィもラックに会いたがっていたんだがな。しばらく風邪をひいておってな」

「それは心配だな」

「いや、なに。もう治っておる。だがうつすわけにはいかぬだろう?」


 エリックは俺たちの健康に気を使ってくれたようだ。

 エリックは俺の手を取った。


「娘に出会わせてくれて、本当にありがとう」

「照れるからその辺にしといてくれ」

「だからこそ、ラックには絶対に娘を紹介したかったのだ」

「そうか。ありがとう」


 それからやっと本題に入る。

 俺がヴァンパイアの動きなどをエリックに説明した。


「ヴァンパイアハイロードとは、穏やかではないな」

「そうだ。まあ、ハイロードは俺が討伐するから安心しておいてくれ」

「それは心強い」

「その間、ゲルベルガさまを王宮で保護してくれないか?」

「王宮で保護であるか? 理由を聞かせてくれ」


 ゲルベルガの力をシア、ルッチラと一緒に説明する。

 ゲルベルガの血を吸うことで呪いが一気に溜まることも含めて説明した。

 話を聞いて、エリックの表情は険しくなった。


「神鶏さまをヴァンパイアどもに渡すわけにはいかぬな」

「そうだ」

「了解した。神鶏さまは王宮で責任もって保護しよう」

「ありがとうございます」


 ルッチラが頭を下げる。


「ルッチラも一緒に保護してやってくれ」

「もちろんだ。神鶏さまもそのほうが安心できよう」


 そして、エリックはルッチラに尋ねる。


「神鶏さまにとって快適な環境がどのようなものか教えて欲しい」

「お心遣い、ありがとうございます」


 エリックが俺の目を見る。


「ほかに何か必要なものはあるか? できる限り援助しよう」


 心強いかぎりだ。だが、特に必要なものはない。


「気持ちだけでいいぞ」

「そうか。遠慮するでないぞ」


 これで準備は終わった。

 心おきなくヴァンパイアハイロード討伐に向かうことができるというものだ。

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