第30話

 ゴランがダメだという理由もわかる。

 ニワトリは犬や猫と違う。ニワトリはうるさいのだ。

 朝、結構大きな声で鳴く。近所迷惑になりうる。


「え、どうしてダメなの?」

「いや、ダメだろ。ママも怒るぞ……」


 セルリスはダメと言われた理由がわからないといった感じだ。

 ゴランはどうしてダメと言われないと思ったのかわからないといった感じである。


 その時、セルリスの後ろのほうから音がした。


「コッ」

 明らかにゲルベルガさまの声だ。


「む? いまなんか声したな?」

「な、なんのことかしら」

 セルリスは誤魔化しているが、誤魔化し切れるわけがない。


「コケっ」

「しっ! 少し静かにしてて」

「セルリス。もしや……」

「どどどどうしたの? なんのことかしら」


 セルリスは冷汗を、だらだら流している。

 助け船を出してやろうと思う。


「ゴラン。セルリスのお願いとも関係があることなんだが、少しいいか?」

「む? どうした?」

「ヴァンパイアロードが色々やらかしているって話はしただろう?」

「メダルに呪いを集めて、次元の狭間を開くってやつだな」

「なにやら、ヴァンパイアたちに動きがあるようなんだ」

「詳しく聞かせてくれ」


 そこで、俺はゴランを待たせてシアを呼びに行く。

 ついでにルッチラも連れてくる。


「コッコ!」

 ルッチラは当たり前のようにゲルベルガを抱いていた。

 それを見て、ゴランが口を開きかけた。


「にわ――」

「ゴラン! このお方は神鶏たるゲルベルガさまだ。断じて、ただのニワトリなどではないぞ」

「お、おう。そうか。すまん。ゲルベルガさまか」


 ゴランがルッチラを怒らせることは避けられた。

 危ないところだった。

 やはりゴラン親子は似ていると思う。


 改めて、俺はゴランをシアとルッチラに紹介する。


「こちらがゴランだ。ギルドのグランドマスターで、この家の主だ」

「ゴラン・モートンだ」

「こちらがシアさん。この前俺と組んでヴァンパイアロードを倒したBランク冒険者だ」

「おお、お噂は聞いている。有益な情報をありがとう。ギルドを代表して礼を言う」

「いえ、お会いできて光栄であります!」


 シアはやはり緊張気味だ。


「で、こちらがルッチラさん。ゲルベルガさまを保護してここまで連れてきてくれた」

「よろしく頼む」

「ルッチラです。よろしくお願いします」


 挨拶が終わると、ゴランは俺の方を見てくる。

 ルッチラとゲルベルガの説明がまだだ。

 だから、早く何者かの説明をするようにと催促しているのだろう。


「ゴラン。ルッチラは北の方の部族の出身なのだが……。ルッチラの一族はヴァンパイアに襲われて全滅したんだ」

「なんと……」


 それから、かいつまんでゲルベルガの力などを説明する。

 最初はニワトリにそんな力があるのかと疑念を持っていそうな雰囲気があった。

 だが、俺が実際にゲルベルガの力を見たことも伝えると、ゴランは信用したようだ。


 ゴランがつぶやく。


「なるほど。それで、セルリスはニワトリを飼っていいかと聞いたわけだな」

「ゲルベルガさまはニワトリではありません」


 ルッチラがいつものように抗議した。


「そうだぞ。セルリス。ゲルベルガさまに失礼だ」

「ごめんなさい」


 ゴランに叱られて、セルリスは素直に謝った。


「いいですけど」

「コッコッ!」


 ルッチラは少し不機嫌だが、ゲルベルガはとても機嫌がよい。

 ような気がする。ニワトリは少し表情が読みにくい。


 ゴランもゲルベルガに頭を下げる。


「正直、俺もニワトリだと思ってしまった。すまねえ」

「ココッ」


 ゲルベルガは頭を二度縦に振った。

 きっと構わぬと言っているに違いない。


 俺は改めてゴランに言う。


「で、先程シアから聞いたのだが、ヴァンパイアハイロードがロードを集めて何かやっているらしい」

「ハイロードかよ……。それは厄介ってレベルじゃねーな」

「そうだ。で、俺はシアと一緒にハイロードを討伐しに行く予定だ」

「むう。それは……だが」


 ゴランは口ごもった。

 ゴランの考えていることはわかる。

 俺にとって、シアは足手まといなのではないか危惧しているのだ。

 それは、シアを前にしては言えない。だから口ごもったのだ。


 Bランク冒険者は一流だ。それでもハイロードを相手にするには荷が重い。

 ゴランの懸念はもっともだ。

 だが、シアにはシアのヴァンパイアを狩らなければいけない理由がある。


「シアはヴァンパイア狩りの専門家だ。それに一族の義務もある」

「……なるほどな」


 ゴランは理解してくれた。物分かりがよくて助かる。


「で、それを踏まえて、ゴランに頼みたいことがあるんだが」

「む?」


 ゴランは少し考えて、うんうんと頷いた。


「なるほど、ラ……ロックの言いたいことが分かったぜ」

「おお、わかってくれたか」


 ちょくちょく名前を間違えかけるので怖い。


「ゲルベルガさまをつれてヴァンパイアハイロードの討伐に向かうからサポートしろってことだな!」

「違うが……」

「違うのか!」


 俺がゴランに頼みたいことは、ルッチラとゲルベルガの保護である。

 俺とシアが王都を留守にしている間に、ゲルベルガを襲われるわけにはいかない。

 そのことを説明する。


「なるほどなぁ。だがゲルベルガさまには強力な力があるんだろう?」

「もちろんそうだが、ヴァンパイアたちからゲルベルガさまを守りながら戦うのはな」


 その時シアが横から言う。


「それに、ヴァンパイアロードが神鶏の血を吸えば、一気に呪いが溜まり次元の狭間への扉が開かれると言われているでありますよ」

「え? そうなのか」

 初耳である。そういう大事なことは、もっと早くいってほしい。


 俺が抗議しようとルッチラを見ると、

「え? そうなんですか?」

「コッ!?」

 ルッチラとゲルベルガまで驚いていた。

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