第26話

 灰になったヴァンパイアを俺は調べる。

 メダルの有無。復活の可能性。

 それらは絶対確認しなければならない。


「ふーむ。魔力は感じないし、復活はなさそうだな」

「当然です。神鶏しんけいの力ですから」

「ココッ」


 ルッチラはどや顔だ。ゲルベルガも心なしかどや顔に見える。

 もちろん、鶏なので、本当にどや顔なのかは定かではない。


 俺は一応、灰に向かってドレインタッチを発動しておく。

 念には念を入れて完全に魔力を吸い取る。絶対に復活を防ぐためだ。

 灰をまさぐりながら、討伐証明品の魔石を回収し、呪いのメダルの有無も確認する。


「……メダルもないな」

「メダル?」


 不思議そうな顔をするルッチラに、メダルについて説明する、

 ヴァンパイアロードが体内に埋め、呪いを集めて次元の扉を開くためのメダルだ。


「そんな恐ろしい計画が……」


 ルッチラは深刻な表情だ。危機感を持っているらしい。


「これから、ますますゲルベルガさまが狙われてしまうかも……」


 一方、セルリスはずっとぽかーんとしていた。

 急にヴァンパイアが灰になったという事態を理解できていないのだろう。

 セルリスがぽつりとつぶやく。


「あの。どういうことなの?」

「なにがだ?」

「なんかニワトリが――」

「ゲルベルガさまです!」


 セルリスのニワトリ呼ばわりを、ルッチラが即座にとがめる。


「ゲ、ゲルベルガさまが鳴いたら、灰になった」


 セルリスは驚きすぎているためか、口調がいつもと違う。


「そうだな。灰になったな」

「どういう仕組みなの?」

「神鶏の力です」

「コッ」


 ルッチラが堂々と言う。ゲルベルガが静かに鳴いた。


「ちょっとまって。鳴き声で灰にできるなら、ヴァンパイアに襲われても大丈夫じゃないの?」


 セルリスの指摘は正しく思える。


「確かにそうだな。逃げる必要ないんじゃないか?」

「それがですね、そういうわけにもいかないんです」

「制約があるのか?」

「制約ってわけではないんですけど」


 ルッチラが言うには、変化しかけたところじゃないと鳴き声は意味がないらしい。

 あくまでも神鶏の能力は境界をひく能力だ。

 ヴァンパイアから、コウモリや霧に変化しかけたときに境界を強引に引くのだという。

 その結果、灰になるのであって、変化前、もしくは変化後では効力がないのだ。


「逃げられるのを防止することは、できるのですが」

「それでもすごいわ。ヴァンパイアは逃げるのが一番厄介だもの」


 セルリスがゲルベルガを絶賛する。


「そ、そうでしょうとも。ゲルベルガさまはすごいのです」

「ココッ」

「本当に凄かったのね」


 そういって、セルリスはゲルベルガを撫でる。


「あ、軽々しくゲルベルガさまに……」

「ココッ」


 ルッチラは止めかけたとき、ゲルベルガが一声鳴いた。

 その声は機嫌がよさそうな、気持ちよさ気な声だった。

 それで、ルッチラは止めるのをやめる。


「ゲルちゃん可愛いねー」

「きさっ、貴様!」

「コッコ」


 ゲルちゃん呼ばわりにルッチラは怒った。

 だが、当のゲルちゃんは機嫌よさそうに鳴いていた。


 それからは警戒しながら、王都への道を歩いていく。

 セルリスはゲルベルガを気に入ったようで、ちょくちょくちょっかいを出していた。

 そのたびにルッチラは文句を言うが、ゲルベルガ自身はご機嫌だった。


 途中の休憩時、セルリスが尋ねてきた。


「私、ヴァンパイアと遭遇したの初めてだったのだけど……あれはレッサーなのかしら? 強そうに見えたのだけど」


 戦闘中、俺は挑発のために、ヴァンパイアをレッサーと呼んだ。

 それを聞いていたのだろう。


「あれはレッサーヴァンパイアじゃないな。おそらくアークヴァンパイアだ」


 アークヴァンパイアは、ヴァンパイアの中でも上位種だ。

 けして雑魚ではない。


「アークヴァンパイアだったのね。ということは、あいつよりもヴァンパイアロードは強いのよね?」

「そうなるな」

「私、襲撃に対応できなかった」

「上空からの襲撃は、対応しにくいからな。それに、剣は抜けていただろ」

「でも、ロックさんがいなければ、ルッチラもゲルちゃんも死んでいたと思う」

「ゲルベルガさまです!」


 すかさずルッチラが突っ込む。

 俺はそれを聞き流して、セルリスに言う。


「それはそうだが。難しいから仕方ないぞ」

「どうしたら、そんなに早く対応できるか教えて欲しいわ」

「教えてできるようになる類のものではない」

「そうかもしれないけど……」

「常に緊張感をもっていれば、そのうちな」

「わかったわ」


 あまりわかっていない様子で、セルリスは言った。

 一番大事なのは慣れである。

 練習でどうにかなるようなものではないのだ。


 それからの道中、セルリスは何度か急に身構えたりしていた。

 きっとセルリスなりに、警戒しているのだろう。

 あまり効果があるとは思わないが、自分なりに頑張るのはよいことだと思う。


 日没後しばらくしてから、王都に到着する。

 冒険者ギルドに任務完了の報告をしてから、ゴラン邸へと戻った。


「あっロックさん! 待っていたでありますよ!」


 ゴラン邸の前ではシアが、待機していた。

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