第15話
戦利品をすべて回収してから、分配について話し合う。
俺とアリオ、ジョッシュは同じパーティーだから、話し合いの必要はない。
だが、シアとは話し合う必要がある。
「あたしはヴァンパイアロードの戦利品だけでいいでありますよ」
「だが、それだと……」
シアの言葉に、アリオは少し困った顔になる。
シアにはゴブリン討伐をかなり手伝ってもらった。
ゴブリンの戦利品を全部もらってしまうと、もらいすぎだ。
ためらう俺たちに、シアが言う。
「ロックさんには、ヴァンパイアロードの討伐を手伝ってもらったでありますし」
「だが、シア。ヴァンパイアロードにとどめを刺したのはシアだぞ」
「じゃあ、このブロードソードをもらっていいでありますか?」
そういって、シアはブロードソードをかかげて見せる。
ゴブリンからの戦利品の質の悪いブロードソードだ。
「もちろん、それは構いませんが……」
「剣が折れてしまった時に貸していただいて、とても助かったでありますよ。戦利品はヴァンパイアロードのものと、これで充分であります」
「本当にそれでいいのですか?」
ジョッシュが心配そうにシアに尋ねる。
シアは笑顔で返す。
「構わないであります」
「では、シアのお言葉に甘えるとしよう」
「そうして欲しいであります」
戦利品の分配方針が決まった。
決まりさえすれば、後は早い。すぐに分配は終わる。
分配した後の物を見て、俺はつぶやいた。
「ゴブリンの討伐証明品の魔石、50匹分か」
「すごい量ですね」
「これだけ集めても、報酬額は変わらないのは少し残念だな」
ジョッシュとアリオがそんなことを言う。
「報酬は変わらないが、ランク昇格の判断材料にはなるぞ」
「そうなのか。それなら嬉しい」
そんなことを会話しながら、ゴブリンの死体を坑道の外へと運んでいく。
50匹分だ。かなりの重労働である。
シアも手伝ってくれたが、二時間ほどかかった。
ゴブリンの死体を集めて、燃やす。
燃やすか埋めるかしないと、腐って悪臭や疫病の原因になる。
その死体を食べに魔獣が集まることだってある。
きちんと処理するのは冒険者の義務なのだ。
それから村に任務討伐完了の報告をして帰途についた。
シアも王都まで同行してくれることになった。
王都までは途中で野宿をする必要がある。少し長旅だ。
王都の門が見えてから、アリオが言った。
「二泊三日の冒険か。良い冒険だった」
「いい冒険でした」
ジョッシュも満足げだ。ゴブリンを倒し、村の窮地を救ったのだ。
自信にもつながることだろう。
王都に入ると、真っ先にギルドへ向かう。
クエスト完了の報告と、討伐証明品の提出を済ませるためだ。
シアも、ヴァンパイアロード討伐について報告するため、ギルドの受付に向かった。
ギルド受付嬢が俺たちの顔を見て、笑顔になる。
「ご無事でなによりです」
「ゴブリンを一杯倒しました」
俺はそういって、討伐証明品である魔石を提出する。
徐々に積み上がっていく魔石に、受付嬢は驚いている。
「多いですね……。え? いやほんとうに多いですね」
魔石はさらに積み上がっていく。
50個積み上げるころには、受付嬢はしばらく固まった。
質のあまりよくない魔石だが、これだけ集まれば大したものだ。
そして、我を取り戻すと、後方に向かって叫ぶ。
「せ、先輩! た、助けてください」
「どうしました?」
先輩職員がやってくる。
そして、大量の魔石をみて、唖然とする。
「これは?」
先輩職員に尋ねられて、アリオがどや顔で答える。
「ゴブリン討伐クエにいったのですが、想定以上に大きな群れでした」
「これは、ホブゴブリンに……、ゴブリンマジシャン。これはまさか、いや確かにこれはゴブリンロードですね?」
さすがは先輩職員である。
魔石の質と大きさを見ただけで、ゴブリンの種別を特定して見せた。
「よくわかりましたね」
俺がそういうと、先輩職員は息をのむ。
「……こちらに」
俺たちは奥へと案内された。
王都に来た最初の日にゴランに案内された部屋とはまた別の部屋だ。
席に座るように言われてから、先輩職員に尋ねられる。
「詳しく聞かせてください」
「えっとですね……」
俺は嘘は交えず、正直に詳しく説明しておいた。
「ゴブリンロードを倒せたのですか?」
「Bランク冒険者のシアさんが助けてくれたので……」
「なるほど……それは幸運でしたね」
真剣な表情で、先輩ギルド職員は書類に記入していた。
事情聴取が終わってから、先輩職員が言う。
「これだけの数を倒されたので、ギルドの方から特別に報奨金を出させていただきますね」
「やったぜ」
「それは助かります」
アリオとジョッシュは嬉しそうだ。
任務達成の成功報酬と、報奨金を合わせて、一人当たり10万ラックになった。
ゴブリンの戦利品の売却益も合わせれば、13万ラックにもなる。
部屋から出たあと、アリオが言う。
「ゴブリン討伐で13万は美味しいな」
「これでしばらく生活できますね」
アリオとジョッシュも貧しかったようだ。
ちょうどその時、別の部屋からシアが出てきた。
「シアも報告し終わったのか?」
「はい。ヴァンパイアロードの件はギルドの方でも動いてくれるみたいであります」
「それはよかった」
それからシアが俺たちに言う。
「せっかくですし、一緒にご飯でも食べに行くでありますよ!」
「お、いいですね!」
「素晴らしい。ロックも行くだろ?」
「ああ、そうさせてもらおう」
俺たちは近くの酒場へと向かった。
その日は夜遅くまで、飲んで食べた。
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