第14話

 俺はシアに口止めをしてから、アリオたちのもとへと戻る。

 途中で、ゴブリンをさらに倒しつつ、歩いていく。


「次元の狭間から、こっちに帰って来たばかりでな」

「それは大変だったでありますね」

 ――ドシュ

 返事をしながら、シアがブロードソードでゴブリンマジシャンを斬った。

 魔法詠唱する暇すら与えない。見事な動きだ。


「石像まで建てられてるし、通貨単位にもなってるし困ってるんだよ」

「そのレベルになると、どう感じるのか、想像もつかないでありますなー」

「それで、第二職業の戦士で登録しなおして、活動を開始したんだよ」

 ――バシュ

 俺は側道からとびかかってきたホブゴブリンの首を魔神王の剣ではねた。 


「だから、アリオたちにも隠しているんだ」

「わかっているでありますよ! 秘密でありますね」

 ――ザシュ

 シアは、笑顔で返事をしながら、ゴブリンジェネラルを倒す。


 そうしながら、ゆっくりとアリオたちのところまで歩いて行った。


「あ、いたであります。おーい。無事でありますか―?」


 シアに呼びかけられて、アリオたちはこっちに気づく。

 アリオたちはほっとした様子で笑顔になって小走りで駆けてきた。


「ロックこそ、無事だったのか」

「ああ、心配をかけた」


 そう言いつつ、俺は周囲を見回した。

 3匹ほどゴブリンが転がっている。待機中にゴブリンと戦ったのだろう。


「まだ、こっちにもゴブリンがいたのか」

 俺はゴブリンの死体を調べる。

 特に苦戦した様子もなく、綺麗に倒している。いい腕だと思う。


 ジョッシュがつぶやくように言う。


「予想以上に大きな群れだったんですね」

「ゴブリンロードが率いている群れだからな……」

「俺のミスです。家畜の盗難頻度が高かったのに、ゴブリンの数を少なく見積もりすぎました」

「まあ、よくあることだ」


 ジョッシュは反省しているようだ。

 反省ができるのは伸びる冒険者である。良いことだ。


「さて、ゴブリンの戦利品を回収しようか」

「あたしも手伝うでありますよ」

「いいのか?」


 シアはゴブリン討伐クエを受けていない。

 討伐証明品を集めたところでシアには得はないのだ。


「ロックさんには、強敵を倒すのを手伝ってもらったでありますから」

「そうか、助かる」


 アリオとジョッシュたちも連れて、最奥へと移動しながら討伐証明品を回収していく。

 ゴブリンの討伐証明品は、横隔膜の上あたりにある小さな魔石だ。

 お腹を切って腹に手を突っこんで、魔石を取り出す。


「やっぱり、あまり気持ちのいい物ではないな」

「そうですね」


 アリオとジョッシュはそんなことを言いながら、回収していく。

 全員で、少しずつ奥へと進んでいった。


 戦利品を回収するよりも合流を優先したいと考えていた。

 だから、これまで倒したゴブリンの死体は放置してあるのだ。


「あたしはもう慣れたでありますねー」

「シアも冒険者歴長いのか?」

「父に連れられて、小さいころから魔物退治はやっていたでありますよ」


 どうりで若いのに、強いはずだ。

 話を聞いていた、アリオがふと思い出したように言う。


「ロック。そういえば、ゴブリンロードよりも恐ろしい敵というのは一体何だったんだ?」

「それは……」

「どうした?」


 俺は少し悩んだ。事実を話すべきだろうか。

 アリオたちは同じパーティーの仲間だ。

 冒険中に遭遇した敵の情報は共有すべきというのが一般常識である。


「ヴァンパイアロードだ」

「……」

「……」


 アリオとジョッシュは息をのんだ。

 そんな二人に念のために言う。


「俺とシアで倒したのだが、口外しないでくれ」

「なぜ、内緒にするのですか?」

「まあ、事情があってな」

「事情があるのか……」


 アリオたちは少し釈然としない表情をしていた。

 なんと説明しようか、少し困る。

 正直に言ってもいいのだが、あまり正体がばれるのも良くない気がする。


 少し悩んでいると、

「我が一族の汚名をそそぐためにヴァンパイアロードを倒すことが必要だったのでありますよ」

 横から助け船をシアが出してくれた。


「そうだったのですね」

「一応、倒せたので、汚名はそそげたのではありますが……、あまり広めたいことではないであります」


 たとえ、そそげたとしても汚名は汚名。

 恥ではなくなったと言って言いふらしたいことではない。

 そんなシアの説明に、アリオたちは納得したようだ。


「それはそうだな。ヴァンパイアロードのことは口外しないことにしよう」

「ですが、ヴァンパイアロードとの遭遇についてギルドに報告しなくていいのですか?」


 特に危険な魔物と遭遇した場合、冒険者はギルドに報告する義務があるのだ。


「それはあたしが報告しておくでありますよ。ギルドに頼んで名前は出さないようにしてもらうであります」

「そうか。頼んだ」


 シアに助けられた。後でお礼を言おうと思う。


 そうこうしているうちに、ゴブリンの討伐証明品の回収が終わる。

 全部で50匹を超えていた。


 ジョッシュが真剣な顔でつぶやく。


「これほど多いとは……。自分の見積もりの甘さが嫌になりますね」

「数の推定は難しいからな」


 一応、励ましておいた。

 それからアリオとジョッシュに向けて明るめの声で言う。


「この群れが村を襲う前に退治できて、本当によかったな」

「ああ、本当にそうだな」

「そうですね」


 アリオとジョッシュは深くうなずく。

 ゴブリンロードに率いられた、50匹のゴブリンに襲われたら村が全滅する。


「とても運がよかった」


 俺がそうつぶやくと、アリオたちも同意した。

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