第60話 奴隷だった私は四天王の嫁になる5
ピアーズの体調が回復して、落ち着いてきた頃。
イーラは思い切って、村人達に一緒に猟に連れて行ってくれないかとお願いした。
村人達には世話になっている。だから、なんとか恩返しがしたかったのだ。
しかし、畑仕事やイーラに出来ることは申し出ているのだが、いかんせんイーラは細かくて繊細な仕事は苦手なのだ。
正直、あまり役に立っているように思えない。そもそも、それだけでは受けた恩は到底返せそうにない。
しかし、狩りなどの荒事ならイーラは得意だ。
「お願いします。私を狩りに連れて行ってくれませんか」
「はあ?」
村長はあっけにとられたような表情で言った。
この村は僻地にあって森があるから土地も少ない、当然取れる作物も多くない。しかし、流石にそれだけでは生計はたてられない。
それを、解決するのが森での狩りなのだ。
実は、この森にはこの森にしか生息しない珍しい動物がいる。
その動物は鹿のような草食動物で大変毛皮が美しい、しかし数が少なく捕まえるのも難しいので、市場にはあまり出回っておらず、とても高価なのだ。
イーラは革の状態でなら見たことがあった。というかピアーズの部屋にあったのだ。確かに綺麗で手触りもとても良かった覚えがある。
村人達はそれを狩り、革を獲って。たまに来てくれる商人に売ることで、ここでは手に入らない物品と交換してもらうのだ。
商人もその貴重な毛皮を独占出来るから、この場所を秘密にしてくれている。だからこそ、この場所は知られることもなく今まできたのだ。
「私、こう見えても結構動けますし、力もあります」
「動けるっていってもな……かなり危険だぞ……」
村長は渋い顔をしてそう言った。
そう、その問題もある。
話を聞くかぎり、その動物の狩りはあまり簡単ではないらしい。その動物は気性が荒く、獰猛で狩るのは危険が伴うのだとか。
それに、あまり森の奥に入るとモンスターが出てしまうので、さらに危険は増す。
とは言え、イーラはモンスター狩りに参加したこともあるし、カイと一緒に鍛えていたのでそれなりに戦えるはずだ。
それに、畑を耕すよりイーラはそちらの方が向いていた。
「お願いします。私も連れて行ってください」
「しかしな……」
村長は渋るように言った。
「役に立てると思いますので。お願いします」
イーラは必死にお願いする。すると、村人の一人が言った。
「連れて行っても、いいんじゃないですか?今は人手も足りないし。荷物を持って貰えるだけでも役に立つだろ?」
「うむむ……そうだな。若い女性にそんなことをさせるのは気が咎めるが。それでもいいなら……」
「大丈夫です!何でもしますので。よろしくお願いします」
こうして、イーラは狩りに一緒に連れて行って貰えることになった。
狩りは、村の男達数人で向かう。武器は村人が手作りで作ったと思しき弓や槍だ。
仕方がないとはいえ、こんな貧相な武器では危険なのは当然だとイーラは思った。
「何かあったら、とりあえず逃げろ。下手に怪我をされると、今度こそ面倒見きれないぞ」
「はい、分かってます」
イーラはまだその動物を見たことがないので、どれくらい危険かわからないが用心することに越したことはない。気合いを入れる。
動きやすい服を着て、イーラは弓を持った。屋敷で使っていたものより使いにくそうだが、文句は言っていられない。
「あまり、みんなから離れるな」
そう言い含められて、イーラは初めての狩りに向かった。
まだ冬は明けていないので、森の中は冷たい空気で満たされていた。白い雪もところどころに残っている。
木から溶けた雪の水滴が落ち、小さな水音がするだけで、森の中はとても静かだった。
しばらく歩くと、一人の村人が何かに気が付いた。
「ぬかるんだ場所に足跡が……」
「糞もあるな……近くにいるかも知れない。静かに……」
その言葉で村人達に緊張が走る。武器を構え、姿勢を低くして警戒に入った。
「いたぞ!」
もうしばらく歩くと、一人の村人が小声で言った。目的の動物が見つかったようだ。その声にみんなすぐに警戒をする。
「あれが……」
初めて見たその動物は確かに毛並みが独特の模様をしていてとても綺麗だった。首の周りにはファーのような長い毛が付いてたてがみは威厳があって神々しさもある。
そして、とても大きかった。確かにこれで突進でもされたらひとたまりもないだろう。
その動物は食事中のようだ、頭を下げた状態で草を食べていた。
狩るにはいいタイミングだ。村人が言うには、油断しているところを攻撃して弱らせて狩るのがいつものやり方なのだそうだ。
イーラ達は音をたてないようにそっと背後に近づく。
その時、村人の一人が枝を踏んだのか一際大きな音が鳴った。
「っ……しまった!」
その音で、狙いの動物も気が付いた。顔を上げこちらを見る。
「に、逃げろ!」
その動物は興奮したように前足で地面をかくと、音をたてた村人に突進していった。
村人は必死に逃げようとしているがその動物の方が明らかに早い。しかも、慌てたせいか足を絡めてこけてしまう。
「危ない!」
イーラはこのままではダメだと弓をつがえる。狙いを定め矢に魔力をこめると風の魔法の呪文を唱えながら矢を射た。
魔力と風の魔法を使うと威力が増すのだ。これで兵士の鎧くらいは貫通させられる。
矢は見事に動物の目に当たった。動物はその矢の威力に、思わずよろける。
「今だ!貸して」
視界が奪われた今なら攻撃できる。そう思ったイーラは、そう言って近くにいた村人の槍を奪うとその動物に向かっていった。
「お、おい!」
イーラは走りながら呪文を唱えると、風を起こし空高くジャンプする。
そうして、そのままイーラは全体重をかけて動物の首に槍を突き刺した。槍は動物の体を貫通して地面に突き刺さった。
動物は声を上げ地面に倒れた。
「っ……よし!みんな、今のうちに!」
上手く仕留められた。これで他のみんなも一斉に攻撃すれば確実に倒せる。
しかし、顔を上げて村人たちを見るとみんなぽかんとした表情でイーラを見ていた。
「うん?あれ?」
しかも、動物はあっさり絶命していた。獰猛で危険だと聞いていたから、もっと手こずるかと思った。
「お、おい。一体なにをしたんだ?」
ぽかんとしていた村人が我に返って、イーラに駆け寄るとそう言った。
「え?何って、魔法で……」
「魔法?!あんた魔法が使えるのか?!」
村人が大げさなくらいに驚いて、逆にイーラも驚いてしまった。
「あ……そっか。ハーフは魔法が使えないって言われてるから……」
イーラは魔法を習い始めて大分経つので忘れていた。しかも周りはみんな魔族で魔法が使えることもイーラが魔法を使うことも当たり前になっていたのだ。
しかも、この村に来た時は魔力が枯渇している状態で、数日元に戻らなかったので、魔法が使えると言う機会もなかったのだ。
「ど、どういうことなんだ?」
「魔法ってどういうことだ?」
「今のが魔法なのか?」
他の村人も集まってイーラを囲む。
「え、えーっと……」
みんなの勢いに押されながらも、どうして魔法が使えるのか説明する。
イーラはハーフにも魔力があって、イーラは使い方を勉強したからと言うとみんな驚く。
「それじゃあ、俺たちも魔法が使えるってことか?」
興奮したように村人の一人が言った。
「勉強と訓練が必要ですけど。使えますよ」
イーラがそう言うと「凄い!」「本当か!頑張れば俺も使えるってことか?」「教えてくれ!」とみんな口々に言い始めた。
「ちょ、ちょっと待って下さい。すぐには無理ですよ」
イーラはなんとかそう言ってみんなを落ち着かせる。
その後はイーラを中心に狩りを再開させることになった。
今までは目当ての動物を探し、見つけたら慎重に近づいて一斉に襲うというスタイルだった。しかし、イーラがいるおかげで、獲物を見つけたら数人で気を引いて引き付け、後はイーラが仕留めると言う形がとれるようになった。
そうして、狩りは順調に進み。
これ以上は持って帰れないというところまで狩って無事、イーラ達は村に帰った。
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