第13話 奴隷だった私と絵本3

ピアーズに絵本を読んでもらってから、イーラは絵本に夢中になった。

お気に入りの本は、いつも持ち歩き暇そうな人を見つけると絵本を読んでもらったりしていた。


「あ、イーラ。遊ぼうぜ」


散歩をしていると、カイが駆け寄ってきた。今日はカイと遊べる日だ。


「やった。絵本読んでほしい」

「またかよ。好きだなあ」


カイは呆れたように言った。最近、遊ぶ時は必ず文字が読めるカイに絵本を読むようお願いしているからだ。


「うん、大好き。面白いよ」

「しょうがないなぁ。でもこれが終わったら、他のことして遊ぶからな」

「うん」


絵だけを眺めていても楽しいが、やっぱり読んでもらった方が楽しいし面白い。

二人は早速、手頃な場所に座って読み始めた。今日読んでもらっているのはお気に入りの一冊。誰も近寄らないな森に財宝を探しに行って、不思議な妖精と出会うお話しだ。


「ねえ、これってなんて読むの?」

「えーっと、これは。リンゴ」


最近、イーラは文字も少しずつだが覚え始めている。簡単な言葉しかわからないが少しずつわかる単語が増えて来るのは楽しかった。


「リンゴかー」

「大分、読めるようになってきたな」

「うん。でも、まだ全部は読めないから、頑張らないと。カイは本も読めて凄いね」


イーラは尊敬の眼差しで、カイを見る。騎士になるには色々な勉強をしないといけないらしいが、それでもまだ子供なのにカイは凄いなと思った。


「い、いや。俺も全部は読めないよ。これは子供用だから読めるだけだし」

「それでも、凄いよ」

「大丈夫だよ。イーラもすぐ読めるようになるから」


そんな会話をしていると、絵本はすぐに読み終わった。

その後は約束通り二人で遊ぶ。今日も二人で屋敷内を散策する事にした。

今日もサーシャがついて来る。大きな狼にカイは最初驚いていたがサーシャが大人しい子だと分かるとすぐに仲良くなった。

最近二人がはまっているのは、庭の散策だ。庭にある迷路で鬼ごっこをした、広いから相手を探しているうちに迷ってしまったりするからなかなか難しい。

サーシャは広いところで走り回れて嬉しそうだ。


「あ、イーラ。今日も散歩か?」


二人でしばらく遊んでいると、フィルが声をかけてきた。


「うん。今日はカイと遊んでるよ」

「もうすぐ休憩だから、良かったらおいで。お茶を入れるよ」

「ありがとう」


フィルがそう言ったのでありがたく、二人はお茶をもらうことにした。今日は美味しそうなお菓子もあった。


「美味しい」

「よかった。お茶はおかわりもあるから言ってね」


カイがそう言うとフィンも嬉しそうに言う。カイは最初人間のフィン達がいることに少し驚いていた。しかし、イーラが普通に話しているのを見、て今では普通に話すようになった。それから、晴れている日は、よく来るようになったのだ。広くて遊ぶ場所の多い庭は二人のお気に入りの場所になった。

それにしても、人間とハーフと魔族が一緒にお茶を飲んでいる今の状況は、何だか不思議な気持ちになる。ピアーズに三人でお茶をしたと言ったら嬉しそうにそうかと言っていた。


「今日も、綺麗に咲いてるね。また、新しい花も増えてるし」


この間の雨で、花びらが落ちてしまったのではないかと思っていたが、相変わらず庭は溢れるほどに色が満たされていた。


「最近、屋敷の使用人達がたまに散歩しき来てくれるようになったから……」

「フェイが頑張ろうって張り切っちゃってさ。大変だったよ」


フェイは嬉しそうに言ったあと、ジャックは苦笑して言った。

それを見てイーラも微笑む。前より明るい笑顔にイーラも嬉しくなったのだ。


「そう言えば、イーラにお礼を言わなきゃだね」

「え?なんで?」

「ここに、あんまり人が来なくて寂しいって、ピアーズ様に言ってくれたんだろ?お陰で人が増えたんだ」

「でも、私はピアーズに言っただけだから、何もしてないよ」

「そんな事ないよ。ありがとう」


そんな風にお礼を言われて、イーラは少し恥ずかしようななんだかくすぐったい気持ちになる。

その後、また二人で遊んでいるとあっという間に夕方になった。

夕食の時間だ。カイと別れて、キッチンに向かう。


「よお、イーラ腹減ってるか?」

「うん」


ヘンリーがイーラを見つけて声をかける。


「今日は俺の考案した新作だぞ」


イーラはもう、何でも食べれるようになった。だから、今は他の使用人に出される物と同じものを食べる。しかし、たまにこんな風にヘンリーがオリジナルで作った料理を出してくれるのだ。


「美味しい!」


一口食べてそう言ったイーラに、ヘンリーは苦笑する。


「お前は何食べても、そう言うな。参考にならないよ」

「だって、本当に美味しいもん。ヘンリーはてんさいだね」


そう言うとヘンリーは顔を赤くさせて「ま、まあ。俺が天才なのは当然だもんな……」ともごもご言った。

食事が終わると、体重を計る。


「うん、順調に肉がついてきてるな。そのうち、背も伸びてくるだろ」


ヘンリーが言った通り、ガリガリだったイーラの体はここに来た時とは見違えるほどふっくらしてきた。

まだ、平均よりは細いものの骨が浮くほど細かった時に比べたら格段にまともになった。

計測が終わったら、次はお風呂に入る。

ここに来た当初は温かいお風呂に入ったこともなかったから、メイド達にされるがまま体を洗われていたが、最近は一人で入れるようになった。

使用人が使うバスルームに向かう。その時、ちょうどメイドのエミリーと鉢合わせた。


「イーラもお風呂に入るの?」

「エミリー。うん入る」

「久しぶりに一緒入ろうか」


そうして今日はエミリーと一緒に入ることになった。


「私、こうやって小さい子を洗うの好きなのよね。まあ、最初みたいにあそこまで汚れてると大変だけどね」


そう言ってエミリーはイーラの頭を洗う。楽しそうなエミリーにイーラはされるがままだ。


「あの時はありがとう、エミリー」

「どういたしまして」


エミリーは最初に面倒を見てくれたせいか、こうやって気が付くと世話を焼いてくれるのだ。しかもエミリーはおしゃれも好きで、イーラのために可愛い服を持ってきてくれたり、髪をおしゃれに結ってくれたりする。

イーラはエミリーのお陰で初めて髪の毛をとく櫛というものがあるのを知ったくらい、なにも気にしたことがなかったので助かっている。

そんな会話をしていると、お風呂が終わった。


「それにしても、あの時に比べたら肌もツヤツヤになったし髪の毛も伸びたね」


髪の毛をときながら。エミリーが言った。

イーラは髪の毛を自分で結えないので、長くなってからはエミリーに結ってもらっている。毎日、髪も梳いてくれているので、どんどんツヤツヤになった。

髪を梳き終わると、エミリーはイーラの顔を覗き込んで「うん、可愛くなった」と頭を撫でた。

鏡を覗き込むと、確かに当初よりはふっくらした顔のイーラの顔が映る。しかし、可愛いいかと言われると、よく分からない。

特に隣にいるエミリーが黒髪で綺麗な赤い目をしたほっそりした美人で、艶のある漆黒の肌がとても綺麗なので、イーラの全体的にぼんやりしたグレー色がとても地味に感じる。

お風呂が終わるったら、ピアーズの部屋に帰る。

部屋に帰ると早速、イーラは絵本を読み始めた。最近はこれが習慣になっている。


「今日も、読んでいるのか。好きだな」


しばらくすると、ピアーズが部屋に戻って来て、本を読みふけっているイーラに言った。


「ピアーズ!お帰りなさい。これ読んで」


イーラは早速そう言う。ピアーズは挨拶もそこそこに本を読めと言うイーラの言葉に苦笑する。


「本当に好きなんだな」


ピアーズはそう言いつつ絵本を読み始めた。

イーラは真剣な表情で話を聞いている。


「これ、リンゴって読むんでしょ?今日、カイに教えてもらった」

「そうか。随分文字も覚えてきたな」

「うん」

「そうだ、辞書って知ってるか?」

「ううん」


イーラは首を横に振る。


「言葉の意味を調べられる本だ。図書室にある、探してみろ」

「そんな本があるんだね」

「ああ、文字を覚えればもっと他の本も読めるぞ」

「他のおはなしも読める?」

「ああ、もっと長くて面白い話しもある。それに、探せば色々な知識が得られる」

「ちしき……」


難しい言葉にイーラは首を傾げる。それも本が読めるようになったらわかるようになるのだろうか。


「知っている事が増えれば、出来る事も増えるぞ」


微笑みながら言うピアーズにイーラは頷く。

そんな会話をしながら、イーラは眠りについた。

日々は穏やかだ。

このお屋敷に来た時、夢を見ているみたいだと思った。流石に今はそう思わないが、それでもたまにまだ夢の中なんじゃないかと怖くなる時がある。

イーラは隣で眠っているピアーズにぴったりくっつく。ジワリと温もりが伝わってきて、不安な気持ちが和らいだ。

イーラはピアーズが言っていた図書室のことを思い出す。ピアーズはもっとたくさんの話しが読めると言っていた。

どんな、本があるのだろうと思うとワクワクしてしてくる。明日、早速辞書を探しに行こうとイーラは決めた。

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