第11話 奴隷だった私と絵本
今日もイーラは食事が終わると散歩に出ていた。
「あ、雨降ってきた……」
今日は朝から空が暗いなと思って窓の外を見ると、ポツポツと水滴が窓を叩いていた。とうとう雨が降ってきたようだ。
「今日は庭には行けないね、サーシャ」
イーラがそう言うとサーシャは返事するようにフンと鼻を鳴らした。
最近、サーシャはイーラの散歩に付いて来るようになった。
この間こけて怪我をしてからだ。どうやら、サーシャはイーラを一人にしておくのは心配だと思ったようだ。
朝の食事が終わって散歩に出かけると、いつの間にか付いてくるようになった。
「仕方ないから、今日はお屋敷を散歩しよう」
イーラはそう言ってのんびり歩き出す。
カイは今日は来ない。今日は火曜日だ。カイは貴族の生まれなので家庭教師がついている。そして毎週火曜日は家庭教師が来るので来れないのだ。
窓から空を見るとかなり分厚い雲が掛かっている。今日の雨は特に激しくなりそうだ。もしかしたら庭の花も散ってしまうかもしれない、残念だ。
屋敷内は大体歩き回ったのでほとんど覚えてしまった。ピアーズが言っていた隠し通路も二人で強力して見つけることが出来た。
何度も迷ったしヒントも何もなかったので、何日も掛かってしまったが、見つけた時は嬉しかった。
お陰で、屋敷内で迷うこともなくなった。
だから今は本当にただの散歩をすることになる。
屋敷内は雨のせいで薄暗く、いつもより不気味に見えた。
「今日は、早めに終わらせて部屋に帰ろうか……」
一人だと散歩もつまらなく感じる。それにこんなに暗いと、慣れたとはいえやっぱりちょっと怖い。
しかし、帰ってもやることはない。まあ、部屋は広いからサーシャと遊んでもいいのだが、この間熱中して遊んでいたら、勢いあまって花瓶を壊してしまって、コンラートに怒られてしまったのだ。
カイが雨の時のためにトランプというカードゲームやチェスというボードゲームを持ってきてくれたのだが、一人では遊べないし楽しくない。
だから、遊ぶといっても限られるのだ。
「結局お昼寝するくらいしかやることないね……ん?この部屋はなんだっけ?」
プラプラ歩いていると、通った事はあるものの入ったことのない部屋に行き当たった。
「わあ、広い……」
大きな扉を開けるとその部屋はピアーズの部屋以上に大な部屋だった。しかも、壁一面に本棚で敷き詰められていて圧迫感すら感じた。
「凄い……」
本棚な天井まであり、ぐるりと回れる階段もあって上の方も取れるようになっている。
しかし、上の方は遠すぎて何が書いてあるのかも分からない。
「これ全部本なのかな?」
「あら、イーラ何してるの?」
「あ、ゲルダ」
圧倒的な量にイーラがぽかんとしていると、誰かに話しかけられた。話しかけて来たのはメイド長のゲルダだった。
ゲルダはいつも笑っているような表情の女性で、おっとりしていて優しい人だ。でも怒るととても怖いらしい。
最近知ったのだが、執事のコンラートとは夫婦らしい。性格が全然違う二人だから最初に聞いたときは驚いた。
「暇だから、散歩してたの。ここは凄いね」
「ああ、凄いでしょ?ピアーズ様が全部集めて作らせたのよ」
ゲルダはぐるりと上を見上げてそう言った。
「凄い……」
「そういえば、イーラはここに何か用事があったの?」
ゲルダの質問にイーラは首を横に振る。
「雨降ってるからする事がなくて、散歩してたの。ゲルダは?」
「私はちょっと調べ物があって来たの。それにしても、雨か……外に出られないと暇ね」
ゲルダはイーラが暇な事に気がついたようだ。そうして、少し考えたあと何かを思いついたように言った。
「そうだ。ちょっとまってて」
ゲルダはそう言って部屋の奥の方に行った。
しばらくすると、ゲルダは数冊の本を持って来た。
「なあに?それ。私、字は読めないよ」
そう言うと、ゲルダはいつものニコニコ笑顔で言った。
「これは、子供用の絵本よ。字が読めなくても絵だけでも楽しめると思って」
そう言って、ゲルダはその本を手渡す。
よく見ると確かにその本は他の本より薄く、表紙は可愛いらしい絵が描かれている。
パラパラとめくってみると、中も全て綺麗な絵で彩られていた。確かにこれは見ているだけで時間が潰せそうだ。
「ゲルダ、ありがとう」
イーラはそう言って本を持って部屋に戻った。
部屋に戻るとイーラは早速、ソファに座って本を開く。サーシャも隣に座りイーラに習って、横から覗き込んでくる。
「本当に綺麗だね。サーシャ」
パラパラページをめくりながらイーラは言った。文字が読めないから、どんな話しが書かれているかは分からない。それでも、ゲルダが言ったとおり、絵を眺めているだけでも面白かった。
絵本には主人公らしき男の子が剣を持っていたり、馬に乗っていたりする。どうやら冒険に出るようだ、細かいことはわからないが不思議な動物や人が出てきた。
他の本は綺麗な女の人が美しいドレスを着て、王冠をつけた王子様とダンスを踊っていたり、魔法使いらしき人が騎士とドラゴンと戦っている絵本もあった。
「でも、やっぱり文字が読めないのは残念だな……」
そう言いつつイーラはパラパラページをめくった。
どの絵本の登場人物も最後には幸せそうな顔でページが終わっている。
イーラは絵を見ながら、どんな話しが描かれているのか想像してみた。
「この男の子は、きっと自分達が暮らす家を探してるんだと思う。この大きな狼は仲間になるのかな?サーシャに似てるね」
イーラはサーシャに話しかけながら考える。まったく違う話しかもしれないが、お話を考えるのは楽しかった。
その時、突然鋭い光と音が辺りに響いた。
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