第10話 奴隷だった私と庭で冒険2

「え?二人とも男同士だよね?」


イーラは驚いて言った。イーラはあまり物を知らないが、恋人は男の人と女の人でなるものだと思っていた。


「まあ、普通はそうだけどね。でも俺達はそんなの関係なく好きになったんだ。だけどこんな関係を許してくれる場所はどこにもなかったんだ」


フィルは悲しそうな顔でそう言った。


「どこにもないの?」


男同士なんて初めて知ったが、特に悪いことだとも思わなかった。どうして男同士はダメなんだろう?


「そう、俺達は隠れて付き合っていたんだけど、色々あってばれてしまったんだ。それに、俺は貴族の生まれだったから駄目だと言われて、無理矢理他の人と結婚させられそうになった。だから、俺達は逃げることにした」

「それで、魔族の国に来たの?」

「そう、追い詰められていっそのこと二人で死んでしまおうかって思って国境を越えたんだ。そこでピアーズ様に出会った」


フィルは悲しそうな顔をしつつ、なんだか懐かしそうにも言った。


「ほとんど無抵抗だったから、ピアーズ様が不思議に思ったのか理由を聞いてきた。ほとんどヤケクソ気味だった俺達はピアーズ様に正直にその事を言ったんだ。そしたらピアーズ様が面白いって言って俺達を拾った」

「なるほど……」


言いにくいと言った意味が何となく分かった。まだ子供のイーラにはまだ早いと思ったのだろう。まあ、実際イーラにはよく分からなかったが。

とりあえず人間の国では暮らせなくなって、ここに来たというのは分かった。


「だから、ピアーズ様には感謝している。ここなら二人で誰にも邪魔されず暮らせるようになったんだから」


フィルはそう言ってジャックと見つめあい微笑んだ。その笑みは本当に幸せそうに見えた。


「でも、フィルは貴族だったんでしょ?庭師なんて大変だったんじゃない?」


庭師は貴族が雇うもので、かなり重労働になるしまったく違う事をすることになる。


「そうだね、最初は力仕事なんてしたことなかったから大変だったよ。でもジャックは元々庭師だったし、俺は魔法も少しつかえたから、おかげでなんとかなったんだ」

「そっか」

「まあ、色々あったけど。故郷にあのまま残っていたらって思うと、今は幸せだよ」


そんな、会話をしていると食事が終り、フィルがまたお茶を入れてくれた。

今回のも少し味が違っていて、とても美味しかった。これは目を覚ます作用があるらしい。


「そう言えば、フィル達はいつもどこで暮らしているの?」


イーラがそう聞く。屋敷にはピアーズ様が暮らすための部屋意外にも、使用人たちが使う食堂や暮らす部屋もある。

イーラは屋敷内を散歩するようになって、屋敷で働いている人とは大体顔を見ている。しかし、記憶がある限りイーラはこの二人に出会った事がなかった。


「ああ、俺達は庭の端にある小屋で暮らしているんだ。食事は食堂で食べたり。今回みたいにお弁当をもらうから、他の使用人達とはあんまり会わないんだ」

「二人だけで暮らしてるの?」

「そう、小さい小屋だけど静かだし。誰にも邪魔されないし快適だよ」

「そっか。じゃあ、私の顔も知らなかったのはそういう理由なんだね」

「悪かったな。イーラがピアーズ様に拾われたって話もつい昨日聞いたところだ」


ジャックが申し訳なさそうに言った。

最初は驚いたが理由が分かったら納得出来た。びっくりしたけど話が出来て良かった。二人とも優しくていい人たちだ。今日は庭の探索に出て正解だった。

そんな会話をした後、イーラは部屋に戻ことにした。二人の仕事を邪魔しても悪いと思ったのだ。


「また、ここに遊びに来てもいい?」

「ああ、いつでもいいよ。庭は出入り自由だから。実を言うと、静かなことはいいんだけど、あんまり人が来ないのは、それはそれでちょっと寂しいんだ」


そう言ってフィルはちょっと苦笑する。確かにこんなに素晴らしい庭なのに見てもらえないのはもったいない気がする。

そうしてイーラは二人と別れた。

部屋に戻ると寝ていたサーシャがイーラに近づいて来た。


「どうしたの?サーシャ」


何故かサーシャはイーラの足を熱心に匂いを嗅いでくる。

いつもと違うサーシャにどうしたんだろうと思ったが、すぐに分かった。よく見ると足に傷があって少し血が出ていた。

おそらくこけた時に擦りむいたのだろう。


「どうしたんですか。イーラ?」


丁度ピアーズの部屋に来ていたコンラートが気が付いて言った。


「あ、コンラート。こけて血が出たみたい」


イーラがそう言うとコンラートは眉をひそめた。


「何があったんですか?」


そう聞かれてイーラは庭でジャックとフィルに会った事を話した。


「それでね、びっくりしてこけちゃったの。それからお話しして、お弁当食べた」

「そうですか。まあ、ひどい怪我でもないようだし、良かったですね」


コンラートはちょっとホッとしたように言った。


「うん。庭はすごく綺麗だった」

「ええ、彼らの腕は確かですよ。この部屋の温室も彼らが作ったものですから」


コンラートはそう言って奥のガラス張りの温室を指差した。


「そうなんだ。すごいね」

「そうですよ。ですから、庭に行くのはいいですが仕事の邪魔はしないように、気を付けなさい」

「はーい」


その後、なんだかんだ他にも注意をされ。もう日課になったサーシャや動物達のブラッシングをしてその日は終わった。


「今日は、何があった?」


夜になると、いつも通りピアーズは今日一日、何があったかイーラに聞く。

イーラはいつも通り、今日あった事を話す。


「ジャックとフィルに会ったのか。なんと言っていた?」

「静かに暮らせて、ピアーズ様には感謝してるって」

「……そうか、忙しくてあまり気にかけてやれなかったから。気にはなっていたんだ」


ピアーズはそう言って苦笑した。


「ピアーズは、なんで二人を連れて来たの?男同士が珍しいから?」


そう聞くとピアーズは少し考えて答えた。


「そう、好奇心だな。同性を好きになる気持ちなんてわからないから。知りたかったんだ。でも、あんなに見事な庭を作くってくれるようになるとは予想してなかった。いい拾い物をした」


ピアーズはそう言って満足そうに頷いた。


「気持ちはわかったの?」

「そうだな……わかったのは相手が女か男かの違いで、基本的には同じってことぐらいだな。彼らは女じゃなく男を好きになるだけで他と変わりない」

「魔族にも男同士で恋人はいるの?」

「ああ、いるぞ。まあ、魔族でも同性同士は嫌がられてる。だから二人には離れた小屋で暮らしてもらってるんだ。悪いとは思うがよく思わない者もいるからな」


ピアーズはそう言った。


「そういえば、なんで男同士は恋人になっちゃダメなの?」


イーラは聞いた。二人に会って話を聞いたが、その部分は何度考えても理由がわからない。男同士で恋人同士になる人は少ないのは分かるが、フィルもジャックも誰にも迷惑はかけていない。

それに見つめ合う二人は本当に幸せそうだった。なんでそれをわざわざ邪魔するのだろうか。

ピアーズ様は少し考えつつ答えた。


「おそらく、国としては子供も生まれない関係を大々的に許すのは体裁としてよくないのだろう。この国でも歓迎はされてない。人間の国なら特にそうなんだろう。後は、圧倒的に数が少ないからというのもあるだろうな」

「少ないとダメなの?」

「異端であるということは、それだけで忌避されて怖がられるということでもある。理解出来ないからと嫌がって排除する者もいるんだ」

「そっか……」


イーラは頷く。

確かによくわからないものは怖いというのは分かる。


「イーラは二人と喋って仲良くなれたんだろう?」


イーラは頷く。二人に最初に出会った時は、怖かったけど喋ったら怖さはなくなった。


「また、遊びに行く約束したよ」


そう言うと、ピアーズは微笑みイーラの頭を撫でた。


「まあ、二人が静かに暮らせてるなら、良かった」

「でも、あんまり人が来ないのも寂しいって言ってたよ」


イーラがそう言うとピアーズは少し考える。


「ふむ、そうか。コンラートにそっとしておけと言っておいたんだが。それであまり人が行かなくなったのだろう。あまり厳しくしないように言っておくか」


そんな会話をした後、イーラはいつも通りピアーズにくっついて寝転がる。

ピアーズはイーラがどこで寝ようが何も言わないので、最近これが習慣になってしまった。

むしろ、そうじゃないと落ち着かなくなってきた。たまにピアーズが帰ってくるのが遅くなると眠れなくて困る。

馴染みになったぬくもりに、うとうとしていると優しく頭を撫でられてイーラは眠りに落ちた。

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