第5話 奴隷だった私のペット生活2

ヘンリーがイーラの食事を作ることが決まったので、ヘンリーは早速ジョセフの苦言にしたがって、イーラに質問をし始めた。

ヘンリーは手にメモ帳を持ち聞く。

最初、面倒そうにしていたが意外に真面目だとイーラは思った。


「じゃあ。イーラもう一度聞くが、今までどんなもの食べてたんだ?」

「えっと……いつもはゴミ箱に入ってるのこり物を探してたかな……たまに、カビてる固いパンとか、あ!運が良かったら木の実が落ちてる時があるから、それ食べてた」

「お前、よくそんなんで生きてこられたな……」


ヘンリーはメモを取るのも忘れて呆れる。


「後、すごくお腹すいたときは爪を噛むの。暇つぶしにもなるし、おすすめだよ」

「わかった、わかった。もういいよ……」


ヘンリーはため息をついて止める。これ以上聞いても無駄だと思ったようだ。


「じゃあ、次は好きな食べ物はなんだ?」

「え?う、うーん……」


イーラは考え込む。今までつねにお腹が空いていて、目の前にある食べ物は口に入れる物だと思っていたから、好き嫌いなんて考えたことがなかった。


「なんでもいいぞ……」

「あ、さっき作ってもらったの……好き」


イーラはそう言ってバケツを指さす。とりあえず口に詰め込んだから味はゆっくり味わえなかったけど、卵のぷりぷりした触感とかパンがフワフワしていて美味しかった。


「俺が作ったやつ?」

「今までで一番おいしかったよ。たぶん世界一美味しいよ……」


イーラがそう言うと、ヘンリーはちょっと驚いた顔をする。


「ヘンリー、良かったじゃないか。夢に一歩前進したな」


ジョセフは笑って、ヘンリーの背中を叩く。

ヘンリーは顔を真っ赤にさせて、ちょっと変な顔になる。


「ま、まあ。俺ぐらいなら当然だけどな……」


もごもごそう言って頭を掻く。


「本当に美味しかったのに……やっぱりさっきのもう一回、食べて……」


イーラはそう言って、またバケツを見る。

ヘンリーは慌てて「絶対、ダメだ」と言ってイーラの視界からバケツを隠す。


「と、とにかく分かった。あんまり参考にならなかったけど、改めて作ってみるか……」


そう言ってヘンリーは料理を作り始めた。

しばらくするとヘンリーがまた何か持ってきた。今度はお米が入ったスープだった。

とてもいい匂いがして、イーラはまた急いでお皿を掴む。


「ちょ、ダメ。まだダメだ」


ヘンリーは慌ててお皿をイーラから遠ざける。


「え?だめなの?」


イーラはしょんぼりする。


「また、一気に食べるつもりだろ。お前はもうちょっと、ゆっくり食べる練習をしろ」


ヘンリーはそう言うとスプーンを持ってスープを掬うと、イーラの口に運びはじめた。

イーラは飛びつくようにスプーンにかぶりつく。シンプルな具だがスープの味がしみ込んでいて美味しかった。


「んん!美味しい。もっと食べたい!」


イーラはそう言って、また手を伸ばす。ヘンリーは予想していたのかサッと避ける。


「ダメだって!全部食べられるから落ち着け。それから、もっとちゃんと噛め」

「うー、わかった……」


イーラは不満そうな顔をしつつ、口をモグモグさせて言う通りにしてみる。

柔らかいお米はすぐに口からなくなった。


「まったく……なんで俺がこんな事……」


ヘンリーはブツブツ文句を言いながら、せっせとイーラに食べさせる。

そうして、ゆっくり食べたおかげか今度は無事に食べ終わった。


「ふう……お腹いっぱい」

「よし、今日はこれくらいでやめといた方がいいな」


ヘンリーはそう言って、記録を取っているのかメモになにか書き込んでいる。

色々あったおかげで、時間はもうお昼になってしまっていた。


「これで、一週間は生きていける……」

「いや、何言ってんだ。夕食も食べさせるし、明日もまた来い」


うっとりしながらイーラが言うと、ヘンリーは怒りつつ言った。


「はーい」

「とりあえず、しばらくはスープを中心にして、ちょっとずつ固い物も食べれるようになるのが目標だな」

「この後はどうしたらいい?」

「うーん、とりあえずしばらくは激しい運動はするな。大人しくしておいて、夜にまた来い」


そう言含められたので、イーラは大人しく部屋に帰る。


「お帰り。どうしたの?随分、時間がかかったわね」


部屋に帰るとエミリーが動物達の世話をしていた。イーラはことの経緯を説明する。


「へえ、専属の料理人なんて、凄いじゃん」


話を聞くとエミリーはそう言って、イーラの頭をまた撫でた。


「何してるの?」


イーラが聞いた。


「うん?ブラッシングだよ。この子は特に体が大きいからこまめにしないと……そうだ、イーラも手伝ってよ。一人だと大変なの」


そう言ってエミリーはイーラにブラシを渡す。イーラは素直に頷いた。

ペットになったはいいが、まだ何をしたらいいのかわからなかったから助かった。

ヘンリーにあまり動くなと言われたことも守れる。

さっそく、イーラはエミリーと一緒になって狼のブラッシングをし始めた。狼は体が大きいので大変だった。確かに一人だと時間がかかりそうだ。


「そう言えば、この子達は名前とかあるの?」


ブラッシングをしながらイーラが聞いた。


「この狼は”サーシャ”よ。北にある山脈で怪我をしているのを見つけてピアーズ様が連れて帰ってきたのよ。それであの猫は”アネット”それから……」


そう言って順番に動物達の名前を教えてくれた。一番大きい子は狼で、小さな子はネズミまでいた。

サーシャは気持ちよさそうな表情で、大人しくブラッシングされている。

イーラが奴隷として働いていた時は、馬のブラッシングをしたことがあった。ただ、まだ子供のイーラにとっては大きい馬をブラッシングするのは大変で、しかも下手をすると蹴られて怪我をしそうになったこともあった。

だから、こんなにのんびりブラッシングをするのは初めてだ。

サーシャの毛皮はフカフカで、触っているだけで気持がいい。

その上、窓から陽も差していてポカポカしている。

お腹も一杯だったイーラはブラッシングをしながら、うとうとしてきて、いつの間にか眠っていた。


「ん……ふあ……」


目が覚めると、イーラはサーシャと一緒に絨毯の上で丸くなって眠っていた。

イーラにはエミリーがかけてくれたのか、ブランケットがかけられている。

外を見るともうすっかり暗くなっていた。

イーラが起きたからか、サーシャも目を覚ます。あくびをした後、伸びをするとサーシャはイーラの顔をペロペロ舐めた。


「寝ちゃった……わ、くすぐったい」


なんだか、さっきより少し仲良くなれた気がしてイーラは嬉しかった。


「そうだ、ヘンリーが夕食も食べに来いって言ってたんだ」


思い出してイーラは、また食堂に向かう。丁度良くお腹も空いてきた。


「よう、ちゃんと来たな」


キッチンに入るとヘンリーがそう言った。

食堂は夕食時は過ぎていたようで、落ち着いた雰囲気だった。イーラはかなり眠っていたようだ。

ヘンリーはキッチンの隅にあるテーブルに椅子を置いて、作った料理を置いた。

夕食はスープにパンを浸したものだった。スープはミルクスープでほんのり甘い匂いがする。


「もう、一人で食べれるよ」

「ダメだ、キチンと噛んで食べられるまでこのやり方で食べさせる」


ヘンリーはそう言って、今回もスプーンでイーラの口に運ぶ。

キッチンにはジョセフの他にもコックが働いていて、忙しそうに片付けをしている。数人がイーラのこの状況を見て、不思議そうに聞いてきたりしていた。

人が入れ替わり立ち代りでひとが入れ替わる。大きなお屋敷だから当然なのだろうがイーラは凄いなと思った。

食事がおわると、今度は体重を測られた。


「何で測るの?」

「記録を取っておいて、変化を見るんだ。これから毎日測っていくから」

「わかった」

「なんだか、子供でも出来たみたいだな」


そんな話しをしていると、他のコックが面白そうに言った。


「勘弁してくださいよ。俺、まだそんな歳じゃないですよ」


ヘンリーが口を尖らせて言う。


「俺から見たら二人とも子供だけどな。まあ、頑張れよ」


そう言ってそのコックはヘンリーの頭をグシャグシャ撫でる。ヘンリーは嫌そうな顔をしつつもちょっと顔を赤くさせていた。

食べ終わると、イーラは部屋に戻る。

その途中で、今度はエミリーに会った。


「あ、イーラ。丁度良かった、今から行こうと思ってたの」

「なに?」

「あなた、服がそれしかないでしょ?他のメイドに聞いて、おさがりの服がないか聞いてたの。そしたら結構集まったから持ってきたのよ」


エミリーがそう言ってイーラに服を渡す。


「くれるの?」

「この屋敷には子供がいないから、お古ばっかりだけどね」

「ありがとう」

「あなたの物を入れる箱も部屋に置いといたから、それを使ってね」


エミリーがそう言って、イーラは服を持って部屋に戻った。

早速、もらった服を広げる。


「わあ、沢山ある」


広げてみると服は思ったより多くてしかも、綺麗なものばかりだった。一着だけでも充分だったがこれだけあればこの先、服には困らなそうだ。

寝るときに着る服もある。サーシャが興味深そうに、近ずいてきて匂いを嗅いだ。

イーラは早速寝間着に着替える。時間がかかったが今度は一人で着られた。

残りの服を箱に片付けているとピアーズが部屋に戻っていた。


「服を貰ったのか?そういえば、服のこととか考えてなかったな……」


ピアーズは思いついたように言った。


「エミリーがお古をくれたの」

「そうか、そのうち新しいのも買ってやろう」


ピアーズはそう言ってイーラの頭をクシャクシャと撫でる。イーラはこの屋敷の人はやたら頭を撫でるのが好きだなと思った。


「顔色もよくなってきたな」


そう言ってイーラを持ち上げると、昨日のようにベッドに座った。


「そういえば、今日は何をしてたんだ?」


ピアーズは、くつろぎながらそうに聞いた。

イーラは、そんな事聞いて面白いのだろうかと思いつつ、朝からの出来事を話す。

食堂に行って、ジョセフやヘンリーに会った話。ヘンリーが食事を作ってくれることになった話。サーシャのブラッシングをした話しをした。

何が面白いかわわからなかったが、ピアーズは最後まで興味深そうに聞いている。


「なるほど、あいつらとも随分馴染んだみたいだな」


そう言ってピアーズはサーシャの方を見て言った。


「こんな事、聞いて面白い?」


不思議に思ってイーラは聞いた。


「ああ、面白いぞ。俺はここの主人だからな。そういう、使用人の達の姿は見ることがない。お前の視点から見るのはなかなか新鮮だ」

「そうなんだ……」

「面白いから、今後も教えてくれ」

「うん」


使用人達がピアーズの事を変わった方だと言っていたけど、その通りのようだ。

そうして、屋敷に来てから初めての一日が終わった。

昨日のようにピアーズはベッドに寝転がり、灯を消すと眠る。

イーラもベッドの隅で体を丸めた。

今日は沢山寝たから、夜も眠れるか心配だったが、相変わらずフカフカでいい匂いのベッドのお陰で、あっという間に眠ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る