第26話 アクセサリーのプレゼント

翌日は、ジャックとシャーロットが宝石店で買い物をしなくてはならない日だった。


公爵に仲睦まじいところを見せつけなければならない。


「ジャック様、これでいいでしょうかしら?」


夏らしい白のレースが飾りについたグリーンのドレスに身を包んだシャーロットが、不安そうに声をかけてきた。


「うん」


ジャックは、一目見て短く答えて、目を逸らした。


まずい。可愛い。


その上、彼女は『新婚夫婦らしく仲良く振る舞う』と言うのはどうやればいいのか、見当がつかないらしく、すがるような目つきでジャックを見つめてくる。


「大丈夫。そんなに心配しないで」


ロストフ公爵が怖いのもあるだろう。


「僕に任せて」



宝石店はプールヴァール通りの真ん中あたりにあった。

二人が暮らす家からすぐである。


「パーシヴァル様、公爵様がもうすぐお出かけになります。今から、宝石店に向かってくださいませ」


モンゴメリ卿の使いがやってきた。二人は急いで宝石店に向かった。



「こういう店に来たことがないので、余計に緊張しますわ……」


二人は急いでいるように見えないように、出来るだけゆとりをもって中に入った。


傍目には、若いカップルのデートにしか見えない。


「まず、見てみよう」


店は大きくて、しゃれていた。きれいに並べられたガラスケースの中には、ネックレスや指輪、イヤリングなどさまざまな宝飾品がキラキラ光っていた。


「あら、きれい」


思わずシャーロットはつぶやいた。


彼女の家にも宝石はたくさんあるが、自分で買いに行くことはなかった。出入りの宝石商が自宅に持ち込んでくるのである。


「大体、ドレスに合わせて見繕って持ってくるのです。だから、使い道を考えずにアクセサリーを探すことはありませんでした。でも、こうやってみるとデザインが素敵なものにも気が引かれますね」


シャーロットは、輝いているネックレスや対になっているイヤリングのセット、可愛らしいデザインの指輪などを見て目を輝かせた。


「プレゼントするよ」


ジャックは本気だった。

今日は演技だと言うことになっている。じゃあ、いつもは言えない言葉を口にしてもいいだろう。


「好きなものを選んで」


「え?」


本気っぽい言い方だが、違うよね。父が払うんだと聞いたもの。


「君にプレゼントしたいんだ」


「……」


演技過剰だ。


「何がいい?」


「……」


「指輪がいいかな?」


ジャックは言った。やりたかったことがある。この手を取ることだ。


ジャックはシャーロットの手を取った。シャーロットはびっくりした。恥ずかしかった。


「細いな」


彼女は今、母親の結婚指輪を借りて付けていた。それは金とエメラルドのいかにも高価なものだったが、ジャックは気に入らなかった。なんとなくだけれど。別のものの方が似合う気がする。


「ええと、結婚指輪はこのままにしないといけないわ」


「じゃあ、ネックレスと似合いのイヤリングはどう?」


いくつか持ってこさせて、付けさせる。


首の後ろで留め金を止める時、店員が髪を持ち上げてうなじが見える。ジャックは後ろへ回って観察することにした。今まで我慢した分の報酬だ。細い後れ毛がくるくる巻いて白い肌の上で金色に光っている。ジャックは目を細めた。


「いいね。イヤリングは?」


耳に留めつけられたイヤリングに触れてみる。耳たぶに触れたわけでもないのに、シャーロットが真っ赤になった。


夫が妻のイヤリングに触れても誰も文句を言わない。

この店の者は誰も彼らを知らない。新婚の若夫婦に見えるだろう。

やりたい放題だ。

シャーロットも耐えて、文句を言わない。


「こちらもいかがでしょうか」


店員が別な商品を持ってきた時、入り口で声がして誰かが入ってきたらしい。はっきりボードヒル子爵の声が聞こえる。


来た!

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