第21話 赤と黒と青(前編)
黒崎は急に立ち上がり、俺の腹部に何かを突きつける。硬い何かが俺の腹部に命中したと同時に鈍痛を感じ、その場に倒れ込んだ。
「あ、がっ・・・」
「蒼井君は鈍感だから、私の想いにも私の頑張りにも気づかないんだよね。私、とっても辛いよ」
黒崎はまたソレを俺に胸元に押しつけ、再び痛みを感じる。スイッチを入れる音とバチバチという鋭い音が響いたことから、ソレがスタンガンであることに気づいた。黒崎は苦しむ俺を仰向けに倒し、俺の腹部上に座る。そして、ゆっくりと俺の首を掴む。
「ちょっとだけ苦しいかもしれないけど、我慢してね。そして先に待っててね。私もすぐにいくから」
少しずつ意識が遠のっていく。あぁ、こんなところで死んでしまうのか。
アッチに行けば、白河先輩に会えるかな。
ゆっくりと、意識が奈落の底へと落ちていく感覚に陥っていった。
「勝手に死なないでください」
聞き覚えのある声が聞こえ、ハッと意識が戻る。するとそこには俺の顔を覗き込むリンと、黒崎を羽交い締めにしていた石川先生の姿があった。
「おはようございます。蒼井先輩」
そう言って、リンは笑った。
石川教授はジャケットの内ポケットから何かを取り出した。私はそれを凶器かと思い、身構える。しかし、その予想は外れた。彼が取り出したものはただの”小さく折り畳まれた紙”であった。
「・・・これは一体なんですか?」
「なにって、『彼が書いた記事』だよ。蒼井くんが高校生のころに自身のWebページに掲載した記事だ」
「えぇと・・・。だからなんですか?」
「え? 君もこの記事を読んで彼に惚れ込んだんじゃないのかい?僕と同じように・・・」
蒼井先輩が優秀であることは以前から知っていたが、教授が言及している記事の存在は知らなかった。どうやら教授は、私が蒼井先輩の優秀さに惹かれていると思い込んでいるようであった。
「てっきり君も蒼井くんの書いた記事に感銘を受けて彼に着いて回っているのかと思っていたよ。だから、君も私の研究室にスカウトしようと思っていたんだが・・・」
「あ、その、お誘いは嬉しいので謹んでお受けしたいのですが、今はそれどころじゃなくて・・・」
そのとき、私はその記事にあったある記述が目に入った。
「(これは・・・、使えるかもしれない)」
私は教授に事情を説明し、急いで蒼井先輩を探しに向かった。
石川先生は暴れる黒崎をなんとか押さえ込んでいた。足元には黒崎が使用していたスタンガンが転がっている。
「赤木さん! 抑えるのを手伝ってくれないか!」
「えー、女の子一人取り押さえられないなんて情けないですねぇ」
「いいから早く!」
先生の呼びかけにリンはため息を吐きながらも応じ、ゆっくりと二人の元へ近づいて行った。そして、黒崎の目の前に立ち彼女のことをじっと見つめる。
「黒崎先輩。あなたは白河アオイ先輩が殺されたあの時、私のことを見かけたそうですね」
「・・・それが何?」
「たしかにあの時私はあの場所にいました。もしかしたら本当にアナタにも目撃されていたかもしれませんね」
「だから見たって言ってるでしょ! そのワンピースを着ているアナタの姿を!」
「そうでしたか。では何故、その証言を警察にはされなかったのですか?何故第一発見者であったアナタは見たままの真実を語らなかったのですか?」
「それは・・・」
「アナタが描いた計画通りにならなくなるからですよね? 本当は石川教授を犯人にしたかったんですよね?」
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